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おはようゼント

 朝だ、本当に久しぶりに亜空間以外で寝た。


 布団って気持ちいいな!


 ところでさっきから右手に触れている柔らかい「これ」は何だ?


 まだ薄暗い寝室の中、俺は右手の先を目を凝らしてみた。


 え”、これってミュウの胸? あいつなんで人間の姿のまま寝ているんだ?


「ん、ん――ん」

 

 左側から声がして何かが俺に密着してきた。


 え”、ヴェルス? いや、それ近すぎるだろう。


 いや、それ以前に、なんで同じベッドに寝ているんだ?


 とりあえず右手を離してと。


「うにゃー」


 今度はミュウがこちらに向いて左手を俺の体に乗せてきた。

 

「う、動けん・・・。」


 ミュウはバカ力で俺を押さえつけている。


 俺はミュウの手を両手で持ち上げながら上体を起こそうとすると・・・。


「だめー、逃がさないから・・・『フリーズフレーム!』・・・むにゃむにゃ・・・。」


「え、ヴェルスさん!今なにしたの??」

 

 体が全く動かない・・・。

 

「こ、これは拘束魔法だ・・・。」


 いや、寝言で魔法使えるの?なんてでたらめな・・・。


 俺はしばらくの間全く身動きが全くできないでいた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ん、あ――んにゃ――。」


「あ、おはようゼント。」


「ん、あ、おはようございます、ゼントさん。」


「ん?ゼントさん、どうされたんですか?まだお酒の酔いが残っているのですか?」


「ゼントさん・・・大丈夫ですか?」


 ヴェルスは慌てて固まっている俺の体をゆさゆさ揺らした。


「いや、これはヴェルスの魔法で固まっているだけだから・・・。」


 俺は必死に声を出して訴えた。


「え?嘘!!・・・あ本当ですね・・・。『リリース!』」


「はあ――、助かったー。」


「申し訳ありません! 本当にすみません!」


 ヴェルスが必死に謝ってくる。


「まあ、寝ぼけただけで悪気があったわけじゃあないからいいんだけど・・・。」


「それより、なんで3人同じ部屋で寝ているのかな?? 寝室は二つあるじゃないか。」


「それはですね、3人のパーティなんですから、スキンシップを図るためにもですね、一緒に寝た方が良いじゃあないですか!」


「ゼント、何を言っている。ここに来るまで3人共同じ亜空間で寝てたじゃないか?」


「いや、あの時はミュウは猫の姿になっていたから抵抗なかったし、ヴェルスとの間にはきちんと仕切りを作っていたし・・・。」


 そう、確かにヴェルスと会ってから同じ亜空間で寝泊まりしていたが、流石に雑魚寝はまずいと思って亜空間の形を変えて仕切りにしていたのだ。


「猫でも人間でもミュウはミュウだ。」


「そうですよ、ミュウさんが良いのに私がだめという理由はないですよね。」


 もしかしてヴェルスは仕切りを作っていたのに不満だったの?


「うっ・・・それは若い男女が同じ部屋になんて…ごにょごにょ・・・。」

 

 ヴェルスが真っすぐにこちらを見てくる・・・。


「まあ、今回はいいや、それよりリーナさんが来る前に朝食を摂ろう。」


 俺は顔を赤くしながら洗面所に向かった。


 ミュウとヴェルスは何故か二人でハイタッチしていた・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「おはようございます。オーラさん。」


「おはようございます、ゼントさん。朝食ですか?」


「ええ。」


「今お持ちしますね。」


 俺達は窓際の席に座り、朝食が来るのを待った。


 窓は道に面しており、オナシティの朝の風景を見ることが出来た。

 まだ太陽が出て間もないため、やや赤みを帯びた光が家々や道行く人々を低い位置から照らしていた。


 道はごつごつした石が敷き詰められており、馬車によって削られたと思われる轍が朝日によって浮き上がっている。


 これから仕事に行くのだろうか? 冒険者と思われる人々や紳士風の人々、メイドの様な服を着た犬耳のお姉さん達など様々な人たちが石畳の道を往来している。

 

 やっと人がいる場所に来たんだ・・・ソーリの森を抜けている時は、あのまま人生が終わるかと思ったけど、これからが本当の異世界での生活だ。


そんなことを考えていると、オーラさんとスーザンが朝食を運んできてくれた。


「はい、お待ちどうさまです。」


 朝食は焼いたベーコン、目玉焼き、茹でた野菜、コッペパン風のパンと牛乳。


「それじゃあ、いただきます。」


 まずはベーコンから、ナイフとフォークを持って食べようとした時に、ふと思った。


(パンに挟んだ方が食べやすくない?)


 俺はコッペパン風のパンの横にナイフを入れて二つに切り、ベーコンと目玉焼きを挟んで食べ始めた。


 このベーコン美味い、この宿の料理はシンプルだけど本当に美味しい。素材をうまく生かしているんだなあ。


「あ、ゼント、その食べ方はあのパンの実の時のだな。」


「そうだよ、こうすればいちいちベーコンを切らなくてもいいだろ?」


「我もやる。」


「私も!」


 三人で『ベーコンエッグバーガーもどき』を食べているとスーザンがこちらのテーブルにやってきた。


「おはようございます! 皆さん、変わった食べ方をしていますね。」


「おはよう、スーザン。こうすると食べやすいし、別々に食べるより美味しいんだ。」


「そうなんですか?」


 物凄い好奇心の目で俺の方を見ている・・・。

 

「一口食べてみる?」


「いいんですか?」


 凄く嬉しそう。


「じゃあ、こちら側のかじって無いところを食べてみて。」


「ありがとうございます!」


「本当だ!別々に食べるより美味しい!」


「ゼントさん、よくこんな事を思い付きますね。お母さんに朝食のメニューに加えるよう言ってみます。」


「うん・・・いいね。」


 向こうの世界の知識だから、ちょっと後ろめたい・・・でも、朝食で最初から出てきてくれるならありがたいな。


 

 朝食が食べ終わった後、俺達は部屋に戻りリーナさんが来るのを待っていた。


 その間、俺は『ベーコンのつくり方』を調べていた。


 どうやってかというと、鑑定の能力を使ってだ。


 そう、鑑定の能力は少しづつ進化していたのだ。

 

 実はトマト煮のつくり方もこの能力で検索し調べたのだ。


「ゼントさん、何をしているのですか?」


 ジッと宙を見ている俺を不思議に思ったのか、ヴェルスが質問をしてきた。


「ちょっと鑑定能力を使って『ベーコンのつくり方』を見ているんだ。今朝食べたのが美味しかったので、今度自分でも作ってみようと思ってね。」


「へ・・・? 鑑定スキルでそんなことが出来るんですか?」


 ヴェルスが驚いたように聞いてきた。


「最初は魔物や植物の種類とか、能力、食用可否とかしか出なかったんだけど、少しづつ進化しているんだ。」


「そう、最初の進化は、こちらの食物を鑑定すると向こうの世界の食べ物に近いものがあればそれを提示してくれるようになったんだ。この機能はソーリの森で食料を調達している時にとても役に立ったよ。」


「次の進化は食べ物を思い浮かべるとレシピが出てくるようになったんだ!しかも元の世界のレシピが!食べ物だったら自分の記憶から検索をかけているのだろうと思ったけど、レシピなど記憶にないものが出てくるのには驚いた。一体このスキルどうなっているのだろうね?」


「それは・・・私にもわかりません。どこかでも向こうの世界とつながってるんですかもしれませんが。こんなことは聞いたことがありません。」


「女神様でも分からないとなると、本当に謎スキルだね・・・・まあ、便利だから良しとしよう。」


「ゼント、軽いね。」


「まあ、深く考えても仕方ないから。」


「そうですね、機会があったら創造神様に聞いてみます。」


 そんな話をしているとドアがノックされた。


 返事をしてドアを開けるとそこにはリーナさんがいた。


「おはようございます、皆さん。」


「おはようございます。リーナさん。」


「昨晩はよく眠れましたか?」


「え、ええ・・・。」


 俺は今朝の事を思い出して思わず寝室の方に目を向けてしまった。


「寝室がどうかされたんですか?」


 リーナさんが、寝室の方に目をやると、開けっ放しのドアの向こうにベッドが三つ並んでいるのが見えた。


「あら、ベッドが三つ・・・まさか3人で一緒に寝たのですか?」


「いや、それは、その・・・でして。」


「そうだよ、ゼントを真ん中にして3人で一緒に寝たぞ。」


 俺が口ごもっているとミュウがどや顔で言ってしまった。


「いや、そんな・・・結婚してない男女が3人で・・・不潔でーす!」


 リーナさんが真っ赤な顔をしている。


「いや、俺が酔ってダウンしているうちに一緒に寝ただけで何もしてないから。」


「そうだ一緒に寝ただけで、つまんなかったけど何もしていないぞ。」


「本当ですか?」


「ええ、ゼントさんが酔っ払ってダウンしてしまったので、心配なので一緒に寝たんですよ。」


 なんかヴェルスの話は白々しく聞こえるけど・・・ここはそういうことにしておこう。


「なんだ、そうだったんですか。私は『あんな事やこんな事』をしていたのかと思ってしまいました。」


 いや、なんだその『あんな事やこんな事』って。


「それじゃあ、皆さんオナシティに出かけましょう。」


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