リーナの父
ザラス邸に着くと俺たちは客間に案内された。
「お父様を読んできますのでこちらにお座りになってお待ちください。」
「ゴード国に着いて、いきなり領主様のお屋敷に来ることになるとは思わなかったな。」
「そうですね、まあ悪いこと呼び出さたわけではないので、こういった経験もよいのでは?」
「ゼント、早く宿屋で料理つくろうよ。」
客間も外観と同様に華美なつくりではなく、とても品がよく落ち着いた雰囲気の場所だった。
その場で数分待っていると、ドアをノックしてアラフォーくらいの男女がリーナと共に入室してきた。
俺たちは立ち上がり、二人に向き合った。
「ようこそ我が家へ、私がアスモス領の領主ケイン ザラスです。」
「私は妻のリセスです。」
「娘の一行が魔物に襲われているのを助けていただいたばかりか、怪我人の救助もしていただいたそうで、本当にありがとうございます。」
二人は俺たちに向かって一礼をした。
いきなり領主に頭を下げられたので少し慌ててしまった。
「いえ、たまたま通りかかっただけですので、あ、私はゼントと申します。」
「我はミュウです。」
「私はヴェルスと申します。」
俺たちも立ち上がって挨拶をした。
「まあ、余りかしこまらないで、どうぞお座りになってくつろいでください。」
そう言われても領主ってこの町で一番偉い人なんだもんで緊張しますよ・・・。
「ところで、娘に聞いたのですがゼントさんは変わった魔剣士だとか?」
ケイン氏はいきなり木刀の事を聞いてきた。
「え、ええ、木刀を魔剣替わりに使っています。」
「その木刀を使ってラインウルフの群れを一瞬で倒したって伺いましたが、どこで剣を習われたのですか?」
「俺のは全くの我流で、ソーリの森の魔物相手に鍛えてきたって感じですね。生活が懸かっていましたので・・・。」
「じゃあ、魔剣士同士の戦いは?」
「先ほど領内への門のところで初めて見ましたが、やったことは無いですね。門の所で戦っていた相手の一人に声をかけられましたが、木刀だったので相手にされませんでしたよ。」
「そうでしたか、それなら私と模擬戦をしてみませんか?」
「え?」
「私も魔剣士の端くれなんですよ。是非手合わせを願いたい。」
「お父さん、助けてくれた人に何を言うの!」
「そうですよあなた、いい加減にしてください。」
リーナのお父さん、領主と?
俺が躊躇しているとヴェルスが声をかけてきた。
「木刀同士の模擬戦ですし、良い機会なのでやってみてはいかがですか?」
「おー面白い、ゼントがんばれ!」
ミュウまで・・・。
「そうですね、我流でどこまで相手になるかわかりませんが、よろしくお願いします。」
「それじゃあ裏庭の練習場に行こう!」
練習場は円形をしており周りは頑丈な石の壁になっていた。
壁の上には観覧席があり、小さなコロシアムといった感じだ。
俺とケイン氏は練習場の中央で向かい合った。
「武器は木刀のみ、スキルは身体的強化に関するもののみでいいかな」
「はい。」
「それじゃあ、時間は10分、その間に戦闘不能なるか「敗北宣言」をした方が負けということで。」
「開始の合図はリセスがしてくれ。」
「分かりました。」
「それではお二人とも構えてください。」
「始め!」
奥さんの声が練習場に響き渡った。
まずはお互いの出方を見てにらみ合っていた。
せっかく本物の魔剣士と戦えるんだ、俺からいくぞ。
俺は一気に間合いを詰めて大上段で切りかかった。
(早いな、だが。)
ケインは大上段からの剣を弾き、すかさず脇腹へと剣を切り込んできた。
ヤバい、凄い切り返しだ。
俺は後ろに飛びのきケインの剣を辛うじてかわして間合いを取った。
「なかなかすばしっこいな。」
ケインがにやりと笑った。
あの切り返しの速さ、正攻法では無理か。
俺は剣を左手に持ち抜刀術の構えで再度突っ込んでいった。
(剣筋を悟らせない気か?何、真下からか!さっきより速い!)
今度はケインが後ろに避けて俺の剣を防いだ。
「もう一丁!」
俺はさらに間合いを詰め真横から切りかかった。
「舐めるな!」
ケインは剣は弾き、間髪を入れずに大上段から切りかかってきた。
上体をそらして紙一重で剣をかわしてケインに切りかかった。
俺剣とケインの剣は鈍い音を立ててぶつかり、双方ともはじけ飛ぶように離れて態勢を立て直した。
(まさか、ここまでやるとは。こんな気持ちは何年ぶりだろうか?)
(一気に方を付けるぞ。)
ケインは全身に魔力を込めて身体強化のスキルを発動し、俺との間合いを一瞬で詰めて切りかかってきた。
やば、速い!
かろうじて避けたが、次の太刀が襲い掛かってくる。
剣で攻撃を防いだが、後ろに吹き飛ばされてしまった。
スピードだけじゃないパワーも上がっている。
ここは瞬歩で・・・いやスキル無しでどこまでやれるだけやってみよう。
これがスキル無しの俺の最速だ!
俺は全速でケインとの間合いを詰めて抜刀した。
「何だこの速度は!スキルを使ったのか?」
ケインは一瞬驚いたが、俺の剣を辛うじてかわし、さらにスキルによる速度を上げて超速の突きを繰り出した。
ケインの突きは腹に突き刺さり俺は練習場の壁にまで飛ばされて壁に当たりその場に倒れ込んだ。
「しまった!やりすぎたか?」
「リーナ、手当をしてやってくれ!」
「はい、お父様!」
リーナがあわてて俺に走り寄ろうとした時。
「大丈夫。」
俺はすくっと立ち上がった。
「え?」
俺は剣の柄の部分でケインの剣を辛うじて受け止めていた。
「なんと、あの一瞬でこの私の剣を防いだというのか。」
「それなら、まだ時間はある。試合を続けるか?」
「いえ、ギブアップです。あれが俺の全速ですから。もうこれ以上は無理ですね。参りました。」
「それでは勝者はケインということで。この模擬戦は終了です。」
リセスが試合の終了を告げた。
「それでは。ゼントさんとあなたは浴場で汗を流してきてくださいな。」
俺とケインは浴室で汗を流した後、居間に戻った。
「君の剣技は確かに我流だな、だが身体能力が突出しているので、きちんと剣を習えば君は強くなれるぞ。どうだ、アスモス領の騎士として剣を習ってみないか?」
「本当!お父様!」
なんでリーナさんが目を輝かせているんだろう?
俺は少し考えた後、
「申し訳ありません、俺のような者にとって勿体ない話だと思います。でも、俺はこの場所にとらわれず、この世界をもっと見て回りたいので、まずは冒険者としてやっていこうと思います。」
「そうか、それは残念だな鍛えればいい騎士になるのに。」
「まあ、その気になったら来てくれればいい。」
ケイン氏は少し残念そうな感じをしていたが、なんでリーナさんまで残念そうな顔をしているの?
「あのう、騎士の話を断ってしまって申し訳ないのですが、今回の模擬戦で剣技の大切さがよくわかりました。勝手なお願いですが、どこか良い道場がありましたら紹介していただけないでしょうか?」
「ああ構わない、心当たりがあるので、その人の了解が得られたら紹介してあげよう。ちょっと変わった人なので、いきなり行っても門前払いを食らってしまうだろう。」
「ありがとうございます!」
「あのう、少しいいですか?」
ミュウが突然話始めた。
「今日のラインウルフの襲撃ですが、どうも妙な感じだった。普通ラインウルフは森の中で生活しているので森からあれ程離れている所で人を襲うことは考えられない。」
「それに、戦闘に向かないリーナ達が馬車内にいるのに、ラインウルフ達は見向きもせずに兵士ばかり狙っていた。」
「そうなんです。私も同じことを考えました。」
ヴェルスも相槌を打って話始めた。
「ラインウルフたちは誰かに操られていたのだと思います。真意は分かりませんが、お嬢様を助けて今の私たちの様にここに招かれることを狙っていたのではないかと推測します。」
「まさか、そんな・・・。」
リーナとリーナのお母さんが真っ青になっていた。
「そうだな、私は元冒険者ということもあり、来客に対しては余り警戒はしないからな。ご忠告ありがとう、今後は警戒することにしよう。」
その後、俺たちはオナ・シティやアスモス領の話をいろいろと聞かせてもらった。
「それでは俺たちは、そろそろ失礼します。」
「そうか、まだ色々と話したいことはあるんだがな。また何かあったら遊びにでも来てくれ。」
(いや、領主様の館にやたらには来れないでしょう・・・。)
「そうだ、あれを持ってきてくれ。」
「はい、こちらに用意してあります。旦那様」
執事の方が袋を持ってきた。
「これは娘を救ってくれたお礼だ、少ないがとっておいてくれ。」
「いえ、お礼が欲しくて助けたわけではないので。」
「それじゃあ、私と対戦してくれたお礼ということならどうだ。こんな楽しい戦いは久しぶりで興奮したぞ。」
「え、いやあ俺負けたし・・・。」
「ゼントさん、遠慮なんかなさらなくてもよいですよ。この人は本当に楽しんでましから、これからの生活もあるので、その準備資金とでも考えてくださいな。」
「あー確かに、俺無一文でした・・・。申し訳ありませんが、ありがたく頂戴いたします。」
俺たちは丁重にお礼をした後、屋敷を出てギルドに向かった。
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― ゼント達が去った後のケインの屋敷の居間にて ―
「いや、本当に凄い若者だったな。あの若さであの瞬発力と速さ、最後のスキルを使った速度は危なかった。」
「え!ゼントさんスキル使ってませんでしたよ。」
「いや、あれはリーナが言っていた『瞬歩』ってやつじゃないのか?」
「魔力の波動は全く感じなかったので、自力だけで戦っていたようですよ。」
「自力で儂の身体強化と互角に戦ったのか?」
「ええ、その様ですが。」
「ラインウルフを倒したときに使ったという瞬歩を使ってたら、儂がヤバかったのか?」
奥さんは淡々としていたが、ケインは冷や汗をかいていた。
「所でリーナは何処に行った?」
「ゼントさん達と一緒にギルドに行くって、嬉々として出かけていきましたよ。」
「え?」
「流石私の娘、男を見る目はしっかりしていますわ。」
少しおどおどするケインに対してリセスは怪しく微笑んでいた。




