アスモス領
このアスモス領からゼントの冒険者生活が始まります。
馬車の中、ミュウとヴェルスは俺の両隣に、対面の椅子には、リーナさんが中央に、両隣に付き添いのメイドさん達が座った。
馬車は初めて乗ったが、凄い振動だ。木の車輪でサスペンションが無いのだから当然か。
柔らかい椅子のクッションのおかげで何とか乗っていられる。魔動車の乗り心地が少し恋しくなってしまった。
「ゼントさんは変わった剣を使われるのですね。」
「この木刀ですか?オリハルコンじゃないんで変ですかね?」
「変ではありませんが、とても珍しいスキルですね。オリハルコン以外を魔剣に使用するスキルを持った人がいると聞いたことはあるのですが、お会いしたのは初めてです。木刀なのに本当にお強いのでびっくりしました。」
「やっぱり珍しいんですね。」
「あ、でもオリハルコンの剣ではなくて、ある意味良かったかもしれませんね。」
「え? どういう意味ですか?」
「魔剣士同士の試合は知っていますか?」
「ええ、話には聞いたことがあります。魔剣を折ると相手の魔剣の力を奪うことができると。」
「ええ、その通りです。その魔剣の特性から、魔剣士同士は直ぐに決闘をしたがるのです。」
「特に相手が若かったりしたら、”経験がない=弱い”と思われて直ぐに決闘を申し込まれます。でも魔剣の力を蓄えられるのはオリハルコンだけなので、オリハルコン以外を魔剣として扱う人は決闘の対象外ということになります。」
「要は、オリハルコンの剣を持っていなければ鬱陶しくないということですか?」
「ええ、ゼントさんぐらいの強さなら、簡単に負けることはないと思いますが、やたらに決闘を申し込まれたら大変でしょう。」
「あ、そうなんですか?」
俺は少し引き攣りながら相槌を打った。
「それと、魔剣の力を奪い続けて異常に強くなった魔剣士は、『ガーディアンズ』の討伐対象になってしまいます。」
「え?『ガーディアンズ』って何ですか?」
「『ガーディアンズ』はこの世界の均衡を保つための魔剣士の集団です。強くなりすぎた魔剣士は、ガーディアンズ入るように勧誘されますが、それを拒否した場合、ガーディアンズの敵となり、討伐されてしまうのです。」
「意外と魔剣士って面倒なんですね。」
「強くなりすぎた魔剣士は魔王を超えると言われていますので、コントロールできない魔剣士は魔王より厄介ということなんですね。そういった魔剣士を制御するためにガーディアンズはいるんです。」
良かった木刀で、本当に・・・。俺の剣は我流なので本当の魔剣士に通じるかどうか怪しいし・・・内心凄くホッとした。
「ところで、ミュウさんとヴェルスさんはゼントさんとパーティを組むということですが・・・・、ゼントさんとどういう仲・・・いえ、仲間だということは分かるのですが・・・。」
リーナさんは何が言いたいの?
「こ、恋人という仲ではないのですか?」
「ぶっ!」
思わず吹いてしまった。
「ゼントねえ、恋人というより家族みたいなものかな~?」
「いえ、先日あったばかりですから・・・こ、こ、恋人なんてことはありません。」
ミュウは落ち着いているけど、ヴェルスは何取り乱してるの???
「そうですか~!そうですよね、出会ったばかりですものね!」
リーナさん妙にうれしそうだな?
・・・・・・・・・・・・・・・・
「あのラインウルフの動き少しおかしくなかった?」
ミュウが唐突に切り出した。
「そうですね。本当なら、最も弱いと思われる馬車に襲いかかっても良いのに兵士たちばかり相手にしていました。」
ヴェルスが同意して話始めた。
「あれだけの集団で兵士を手玉に取っていたのに、なんでこの馬車を襲わなかったんだ?」
「そう、それとラインウルフは森に棲んでいてこんな草原の真ん中まで出てくることは無いはずなのに・・・何かあるわね。」
そんな話をしているとアスモス領の外壁が見えてきた。
「もうすぐアスモス領です。アスモス領に入りましたら是非我が家にお越しください。歓迎いたします。」
家って領主の家だよね?こんな怪しい一団(異世界人、女神、魔物=変化中)が行っても大丈夫だろうか?まあ、何とかなるか。
「ところで、俺は身分を証明するものが無いけど入国できるんですか?」
「そうですね、入国するには冒険者カードなどの身分証明が必要なんですが、無い方の場合は入国審査時に仮の身分証明書を発行してもらいます。仮の身分証発行に銀貨5枚かかりますが、入国後にギルドで冒険者カードを発行してもらい、それを提示していただければ全額戻ってきます。」
やばい、お金のことを忘れていた。
「ヴェルスさん、お金貸してもらえませんか?」
「ええ、そのぐらいなら、そうぞ・・・そうですね、手持ちがありますので、大丈夫ですよ。」
なんか妙に焦っている・・・今、「創造神様にいただいた・・・」と言おうとしなかったか?
「いえ、ご心配なさらないでください。今回は私が身元保証人になりますので無料で発行させていただきます。そうすればわざわざ門まで戻る必要もありません。」
「本当ですか?すみません、お言葉に甘えさせていただきます。」
アスモス領の門に着くと俺たちは馬車から降りて入国審査の列に並んだ。
「凄い城壁だな。」
眼前に聳える白い城壁を見ながら俺は思わずつぶやいた。
遠くから見ても大きいということは分かったが、これほどの大きさとは思わなかった。
「おい、あんちゃんは魔剣士か?」
いきなり知らないおっさんに声をかけられた。
「俺が持っているのは木刀だよ。」
「なんだ魔剣士じぇあねえのか。ちっ、しけた野郎だ!」
そのおっさんは俺よりも一回り以上大きく、かなりゴツイ体をしていた。褐色に焼けた肌の鍛えられた戦士という感じで背中に大きな両刃の刀を持っている。
こいつが魔剣士か、俺に決闘を仕掛けるつもりだったな。
そのおっさんは列の先に歩いていき、別の男に声をかけていた。
声をかけられていた男は、列から外れておっさんと一緒に少し離れた場所まで歩いて行った。
どうやら決闘を始めるようだ。
ゴツイおっさんと決闘する男は俺とそれほど変わらない背格好だが、落ち着いた感じの20才ぐらいのイケメンだった。
おっさんにはこの男が弱く見えたのだろうが、俺には何となくこの男はおっさんよりかなり強く感じた。ソーリの森で様々な魔物と戦ってきたためか、鑑定などせずとも相手の力量を肌で感じることができるようになったみたいだ。
まてよ、鑑定ができる魔剣士って自分より弱い相手を見つけて戦いを挑めばよいので最強になれるのでは?
入国の列に並んでいた人々は入国審査そっちのけでこの決闘に釘付けになっていた。
ヤジを飛ばす者や賭けをしだすものまで現れ、お祭り騒ぎである。
かくゆう俺も初めての魔剣士同士の戦いということで興奮している。
「ゼントさん、魔剣士同士の戦いがどういうものかよく見ておいてください。」
ヴェルスが俺に声をかけてきた。
二人は対峙したまましばらく動きを見せなかったが、おっさんの方が先に動いた!
おっさんが剣を抜きイケメンに突進していった。
イケメンも剣を抜き、二人の剣が火花を散らした。
どちらの剣も魔力が注ぎ込まれて光輝いている。
おっさんが力でイケメンを突き放したと思うと再びイケメンに切りかかった。
イケメンは体を横にそらしておっさんの剣をよけると、自分の剣をおっさんの剣の側面に切りつけた。
おっさんはわざと態勢を崩しながらイケメンの剣の力をいなすと態勢を立て直して再びイケメンに切りかかった。
「遅いな!」
イケメンはそういったかと思うとおっさんの剣を左側に避けて右足でおっさんの脇腹を蹴りつけた。
「ぐうっ!こ、この野郎!」
おっさんは、態勢を完全に崩され前のめりにこけそうになったが、再び態勢を立て直しイケメンに対して何度も剣を振っていった。
イケメンは、まるで子供の遊びの相手でもしているかのように軽々とおっさんの攻撃を全て交わしていた。完全にイケメンのペースである。
「このお、ちょこまかと!」
怒ったおっさんは全力で大上段からイケメンに切りつけた。
かなりの剣速で一瞬イケメンをとらえたかと思ったが、イケメンは紙一重でおっさんに剣を躱し両刃の側面でおっさんの尻を思い切りひっぱたいた。
おっさんはうめき声をあげたと思うと態勢を完全に崩してしまった。
そこに逃さずイケメンは魔剣に『光の刃』を纏わせて、おっさんの魔剣の側面に切りつけた。
「パキ―――ン!!!!」
おっさんの魔剣が音を立てて砕けてしまった。
「うお―――――!!! 凄いぞ」
「やったなイケメン!」
「早くて動きがよくわからなかったけど、とにかく凄いぞ!!!」
イケメンは観客から拍手喝采を浴びていた。
折られた魔剣からは『光の粒子』のようなものが湧き出し、イケメンの剣に消えていき、折られた剣は完全に輝きを失った。
「いかがでしたか?」
ヴェルスが俺に質問をしてきた。
「決闘といっても相手の命を奪うわけではないので、変わった闘い方になるんですね。」
「でも、負けた相手は魔剣士として一からやり直さなければならないのです。あの屈強な男にとっては命を奪われたに等しい仕打ちでしょうね。あの年からやり直すのは無理でしょうから。まあ、あの男の場合は自業自得といったところですが。」
「それにしても、あの戦いそんなに動きが速かったですか?」
「ええ、観客の中には二人の動きについて行っていない人もいるぐらいですから、かなりの速さでしたよ。ゼントさん、あの動きを遅いというのですか?」
「え、ええ、なんか拍子抜けした感じでした。まあ、こんなところで決闘を売っているくらいだから、それほど凄い魔剣士ではないのでしょうね。」
「あのいかつい方はおそらくBランクで、イケメンの方はAランク、ソーリの森の特訓恐るべし!」 ヴェルスは密かに思っていた。
俺たちはリーナさんの口添えもあり問題なくアスモス領に入国できた。
「ここがアスモス領かー!」
入国者目当てなのであろう、門の付近の通りには屋台や店が立ち並んでおり、冒険者風の人々、犬の獣人、エルフらしき耳の尖った美人のお姉さん♡、リザードマン、行きかう異世界の住人達にゼントはしばらく見惚れていた。
人々は活気に満ちており、お店の中からは客引きの声がいたるところで響いていた。
建物は外壁は皆白塗りで屋根に茶色の瓦は赤茶色をしていた。あちらにいる時にテレビで見た地中海の街並みを思い起こさせた。
「ゼント様方、どうぞ馬車へお乗りください。」
リーナに誘われて俺たちはまた馬車に乗った。
「この町がアスモス領の中心となるオナ・シティで、ここがメインストリートになります。
メインストリートの先に見える建物が領主の館になります。」
「右側に見えてきた青い外壁をした建物がこの町のギルドになります。アスモス領、最大の規模を誇っています。」
おお、あそこか!冒険者がいっぱい出入りをしている!
「ギルド近くの通りにいくつも宿がありますね。領主様に挨拶した後近辺で宿を探しましょう。どこかおすすめの宿はありませんか?」
ヴェルスがリーナに質問した。
「そうですね、短期の滞在ならパラダイスシティがお勧めです。部屋が綺麗で大浴場があるのがお勧めポイントです。長期に滞在するならホテル・ワンモーメントが勧めですね。併設した食堂もありますが、部屋にはキッチンもあって自炊も可能です。何より宿のおかみさんが美人なので男の冒険者に人気ですね。」
「しばらく滞在する予定なので、ホテル・ワンモーメントが良さそうですね。ギルドに行った後に行ってみませんか?」
「ああいいよ。」
「自炊できるならゼントの料理食べられるね!」
それが決め手なの?多分宿屋の食堂の方がおいしいと思うけど・・・。
「ゼントさんは料理を作られるのですか?」
「ええ、しばらく一人暮らしだったので、少しは。」
「ミュウさんが嬉しそうにしているところを見ると、美味しいんでしょうね。そのうち私もご相伴にあずかりたいです。」
そんなことを話しているうちに馬車は領主の館に到着した。
館は5階建てでかなりの大きさではあったが、むやみに豪華という作りでは無く、白塗りの壁は質実剛健といった感じで、街並みとよく調和していた。




