人との遭遇
ヴェルスと行動を共にしてから、数日経過した後カーンバイ国とゴード国を繋ぐ道との合流地点に到達した。
「これから行こうとしているゴード国ってどんな場所なんですか?」
「ゴード国は人工約500万の人間の国ですが、マトー国から移住したエルフや獣人達も多く暮らしており、彼らは人口の10%を占めています。首都はフィールド=ビヨンドでそこは80万人の大都市でサルガス海に面した風光明媚な都市です。」
「この国は元々西部の入り組んだ地形を漁港として活用して発展してきましたが、現在の首都は東部のソーリ川から分流したビヨンド川の三角州にあるフィールド=ビヨンドになっています。三角州の豊富な水を利用した農業も盛んです。現在のスタン・ゴード国王は優れた手腕で農産物や漁獲物を輸出することで国益を潤し、とても豊かで安定した国となっています。初めて訪れるのにはちょうど良い国と思います。」
おお、流石女神様、教科書みたいな説明で分かりやすい!
「よくわかりました。結構よさげな国ですね。」
「我はフィールド=ビヨンドに行ったことあるよ。」
「え?そうなんだ。」
「自分たちの身を守るため、人間の国の動向を知っておかないといけないからね。」
「獣人の差別がないので居心地は良かったよ。良い宿と美味しいお店を知っているから案内してあげる。」
そんな会話をしながらゴード国に向かって歩いていると、俺たちは妙な乗り物に出くわした。
外側は木でできているのだが、車輪がない!
車両の下がそりにでもなっているのかと思ったが、そりなど無く宙に浮いている!
馬車というよりはボンネットがあるので自動車の車輪がなくなりなり、宙を浮きながら動いているので、ハリウッド映画で見た空飛ぶ車だ。
「あ、あ、あれは???」
「あ、あれは魔動車といって車の前に積んだ魔石で浮いているのです。数年前までは馬車しかありませんでしたが、カンバーイ国のヘンツという魔導士が発明してからカンバーイ国を中心に普及し始めたところです。」
「俺がいた世界より進んでね?」
俺がジッと過ぎ去った魔動車を見ていると、魔動車は急に停止した後Uターンしてこちらに向かってきた。
一体どうしたんだ?
「ねえ、君たち。これからゴート国に行くの?」
30才ぐらいのおっさんが車から顔を出して、問いかけてきた。
「そうですが何か?」
「それだったらこの車に乗っていかないか? 話相手がいなくて飽き飽きしていたんだ。」
「3人なら余裕で乗れるよ。」
・・・・どうしたものか、こいつ絶対ミュウとヴェルス目当てだよな?
そうでなければこんな所をうろついている3人組なんかに声かけるか?
俺が思案しながら怪訝な顔をしていると。
「大丈夫だって、俺一人だし、俺が運転していたら何も悪さできないだろ?」
『この人には邪気は感じませんわ。』
俺が躊躇していると、ヴェルスの声が心に響いてきた。
念話ってやつか?ヴェルスがにっこりしている。
「・・・・わかった、それじゃあよろしくお願いします。」
「俺はゼント」「我はミュウだ。」「私はヴェルスです。」
「へー、彼女は女神様の名前をもらったんだ。確かに女神様みたいに綺麗だね。」
まあ、本人だからね・・・本名言っても誰も気づかないよね。
「あ、ごめん、俺はウイリアムだ、よろしくな!」
俺たちは魔動車に乗り込んだ。
魔動車の中は前の席は二つ並んでおり、普通の乗用車みたいだが、後ろの席は左右に分かれており、向かい合って座るようになっていた。通勤電車の座席みたいだ。
椅子の座面と背もたれにはクッションがあり、それなりに座り心地は良かった。
リクライニングしないところが少し残念だが・・・。
「ところで君たちはどこから来たんだ?」
「俺はソーリの森に”あった”村から来たんだ。
「ソーリの森のに村なんてあったんだ。」
「今はない、だいぶ前に魔物に襲われて壊滅してしまったんだ。生き残ったのは俺だけ。しばらくはそこに住んでいたが、どうしようかと思っていたところ、ミュウやヴェルと出会ってゴード国に行くことにしたんだ。」
これはミュウや女神様とあらかじめ打ち合わせした筋書きである。そりゃね「異世界から来ました。」なんて言えないよね。
「そりゃあ大変だったな。」
「ところで、ゴード国にいってどうやって暮らしていくつもりだ?」
「ミュウとヴェルスは冒険者で、俺も冒険者登録して3人でパーティを組もうと思っているんだ。」
「え、いいなあ、こんな綺麗な子たちと。俺も加わりたいくらいだよ」
「ところでウイリアムさんはゴード国に何をしに行くんですか?
「俺か?俺はゴード国にあるアーシオ遺跡の調査だ。こう見えても俺はカーンバイ国の大学で教授をやっているんだ。」
見た目は冒険者なんだけど・・・そういえば以前の世界にも遺跡荒らをやっている教授がいたな・・・。
「所で、君たちは何も武器持ってないけど、3人とも魔法使いか?」
「我は魔法も使えるが、弱い魔物ならこれで十分!」
ミュウが拳を出してどや顔で言っていた。
「私は魔法、防御魔法が得意です。」
「俺はこの剣で。」
「え? それ木刀じゃないか?そんなもので戦えるのか?」
「並みの魔物なら・・・。」
「ふーん・・・、まあ、この娘達とならやっていけるかな?」
(完璧に信じてない・・・なんか俺「ひも」の様に思われてない?)
そんな雑談をしながらしばらくしていると、丘の向こうに煙が立っているのが見えた。
「ちょっとヤバそうだな。」
ウイリアムは丘の手前で車を止めた。
「ちょっと見てくるからここで待っててくれ。」
「俺も行く! ミュウとヴェルスは車で待ってくれ。」
「了解!」「分かりました!」
俺はウイリアムに続いて車から飛び降りた。
丘から煙の方を見ると数人が魔物の群れと戦っていた。
馬車を守っているようだ。
煙は魔法使いが魔物達に放ったファイアボールによるものだった
魔物は『ラインウルフ』、十数頭いる。
「あの数なら何とかなるな。」
「え、お前その木刀で本当に戦うつもりか?やめとけ!あの数だと災害級だぞ!」
ウイリアムの制止を振り切って俺は駆け出して一気に魔物達の群れに突っ込んだ。
「まずは一匹!」
俺は木刀に魔力を込めて輝かせると最初に襲いかかってきたラインウルフの喉元を木刀で切り裂いた。
人と魔物が入り乱れているので『光の刃』を使うと兵士達まで傷付けてしまう。
短距離の瞬歩を繰り返しながら魔物を一匹ずつ倒していく。
「よし、完了!」
一分もかからずにラインウルフを全滅することができた。
「驚いたな、あの木刀は魔剣か?あいつ魔剣士だったのか。」
魔物達と戦っていた人たちは皆怪我をしており、重傷者も多数いる。全く動かず、倒れたままの人も。
これは俺一人でヒールするのは無理だな。ヴェルスを呼ばないと。
「はい、ゼントさん。」
「え?もう来たの?」
地面の魔法陣からヴェルスが突然現れたので驚いた。
早い、やっぱり心読んでる・・・。
二人で負傷者にヒールを行っていると、ウイリアムが車を持ってこちらにやってきた。
「こりゃあひどいな! あれヴェルスさんいつこっちに来たの?」
「先ほどゼントさんに呼ばれて。」
負傷者をヒールで治療していると、馬車から若い女性が降りてきて挨拶をし始めた。
「私はゴード国アスモス領の領主ケイン・ザラス辺境伯の娘、リーナ・ザラスと申します。危ないところを助けてくださり本当にありがとうございました。魔物を倒していただいたうえに負傷者のヒールまでしていただいて、なんとお礼を申し上げてよいやら・・・。」
「俺はゼントといいます。もう少しで全員のヒールが終わりますので少しまっていただけますか?」
「あ、すみません。」
挨拶も大切だけど、負傷者の治療の方が先だよね。
全員の治療が終わったので先ほどの女性の前に皆集まって挨拶をした。
「あらためて、俺はゼントといいます。ソーリの森の村で暮らしていました。」
「我はミュウ。」
「私はヴェルスと申します。ミュウと一緒に冒険者をしていたのですが、先日ゼントさんと出会ってから3人でパーティを組むことにしました。」
「俺はウイリアム、カーンバイ国で考古学の教授をしている。これからオナシティのアーシオ遺跡の調査に行くところなんだ。」
「本当になんと申し上げてよいのか、ここでは十分なお礼はできませんので、アスモス領まで私たちに同行していただけませんか?」
「いや、お礼なんていいけど、俺たちは丁度ゴード国に向かっていたところだし、俺はゴード国に行くのは初めてなので案内していただけると助かります。」
「それでは馬車にお乗りください。」
「そうすると、俺は少し先を急ぐので、申し訳ないけどここで失礼する。馬車と魔動車だとだいぶ速度が違うんでね。」
「ウイリアムさん、すみません。話相手がいなくなってしまって。」
「構わないよ。美人の彼女たちと話ができたんだから。アーシオ遺跡の近くにしばらく逗留する予定だから、気が向いたら来てくれな。」
「それじゃあ!」
魔動車を見送った後、俺たちは馬車に乗せてもらいアスモス領を目指した。
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――リーナ達がラインウルフに襲われていた時に遡る――
「よしよし、ラインウルフ達は良い仕事をしているな。」
「そろそろ私の出番か?」
リーナらの乗る馬車がラインウルフの群れに襲われている所を遠くから見ているいかにも怪しげな人物がにやにや笑いながら呟いていた。
この人物は見ているといっても直接見ているわけではなく、宙に浮いた丸い鏡みたいなものに映り込んだ様子を見ているのだ。
全身漆黒の服を着ており、黒い防止とマントを羽織っていた。
「え?なんだあいつは?」
突然、若い男が戦場に駆け込んできて、ラインウルフに切りかかってきた。
ラインウルフはどんどん倒されていく。
「いや、それは私の役目だぞ!お前なんてことしてくれるんだ!」
黒づくめの人物がうだうだ言っているうちにラインウルフは全滅してしまった。
「ええーい!あいつめ、私が何か月もかけて準備してきた計画が台無しじゃないか!」
「くそ、覚えていろよ!」
地面に手をかざし、「ムーブ!」と唱えると魔法陣の中に消えていった。




