贖罪の果て
それからの人生は、文字通り終わりのない贖罪の旅だった。
死を選びたかったが、死すら生温いとしか言いようがなかった。せめてもと、あらゆる慈善活動に身を投じ、どれほど過酷なボランティアや寄付を行っても、胸の奥に巣食う罪悪感は決して消え去ることはなかった。私が施すどんな善行も、あかりから奪った若き命と、あかりを待ち続けた家族の壊された人生の代償には、到底なり得なかった。
私の脳裏には、あかりの失踪後に心をすり減らし、静かに崩壊していったあかりの両親の姿が、どうしようもない残酷な記憶として焼き付いていた。あかりの母親は離婚後全く音信不通になり、どんなに探しても消息を確認することが出来なかった。父親は小さなアパートでただ娘の帰りを待ち続け、誰にも看取られずに孤独な生涯を終えた。何度か足を運んでみたものの、娘を思い出して辛いと言われてしまえばできることは限られた。
あかりがどれほど愛されていた娘だったかを知る私にとって、あの温かい家族があんなにも惨めで、救いのない死に方を迎えたという現実が、鉛よりも重く心を押し潰した。 ——そして、その死の床で、かつての自分の最期が脳裏によみがえり、さらなる激しい苦しみに引き裂かれた。 あの日、王妃として老衰し、家族や親しい友人たちに囲まれ、「幸せな人生だった」と穏やかに息を引き取った自分。その贅沢で満たされた平穏な死と、あかりを奪われた挙句にすべてを失い、人を遠ざけ続けた結果、葬儀への列席者もまばらとなったお隣の父親の最期が、あまりにも残酷なコントラストを描いて私の心を抉り続けた。
再び自分の寿命が訪れ、床に伏せたとき、私の胸を満たしていたのはもはや単なる悲しみや後悔などではなかった。 贖罪を続けるなかでも脳裏で繰り返した過去の記憶の反芻の中、私の心のなかで育っていったのは、神仏への祈りでも自己の救済でもなく、ただ煮えくり返るような激しい怒りと、狂気じみた復讐心だった。 あかりがあれほど優しく、誰からも愛されるべき存在であったのに、なぜあんなにも冷酷に踏みにじられなければならなかったのか。レヴァンテ王国の民衆たちは、自分たちが生きるための水を貰っておきながら、少し生活が安定した途端に恩を忘れ、聖女の小さな望みを叩いて「我が儘だ」と罵り、その死を歓喜した。王家の者たちも、民の不満の矛先をそらすための道具として、彼女を平然と切り捨てた。そして現代においても、あかりを失った両親は救いのない絶望の中で心身をすり減らしていたことに、あの世界の人間は思いを馳せることもしなかった。 あの世界は、なんて醜く、なんて身勝手で、なんて救いようのない世界なのだろうか。自分自身を含めたそのすべての残酷さに気づいたとき、私のなかにあった「秩序」の二文字は完全に消え去り、代わりに「破壊」への衝動が黒い炎となって燃え上がった。
胸の奥からドス黒い炎が激しく湧き上がる。 何が「国家の秩序」だ。何が「当然の義務」だ。 私たちが守ったのは、身勝手な欲望と、醜い保身にまみれた腐った世界でしかないではないか。生きるためになんの関係もない善良な人を使い潰すことを、あんなにも平然と選んでしまった——私を含めた、あの滅びるべき世界。 あかりからすべてを奪い、その純粋な優しさを踏みにじり、あんなにも惨たらしい方法で命を奪っておきながら、自分たちは何食わぬ顔で長生きし、平和を謳歌して死んでいく。人間たちの、その底知れぬ醜さと残酷さが、どうしても許せなかった。
「許さない……あかりを奪ったあの世界が、そして何よりも——こんな醜悪な過ちを犯した私自身が……!」
「どうか、どうか、もう一度奇跡があれば……!」
最早届かないあの世界と自分自身へのへの呪詛を吐き続け私は二度目の死を迎えた。




