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王妃の責務と幸福な最期

先代国王の崩御を受け、夫である王子が新たな国王として即位したのに伴い、私は正式に王妃となった。 夫である国王が国の内外政事を統括する一方、王妃としての私の最大の役目は、国家の生命線である水利管理の徹底と、揺るぎない統治基盤の維持・安定にあった。


王妃となってすぐに私は、優れた技術者や腕利きの大工たちを王国全域から招集し、石造りの頑丈な導水路や、地下の巨大な貯水槽を複雑に組み合わせた一大インフラシステムを構築した。それは治世のほぼ全ての期間を費やした一大事業だった。かつて聖女がその奇跡によって清めた水源を基点とし、そこから細い水路を枝分かれさせることで、王都だけでなく遠く離れた農村や周縁都市に至るまで、公平に水が行き届くシステムを作り上げたのだ。これは一時的な幸運や気まぐれな奇跡に頼るのではなく、人間の知恵とたゆまぬ管理によってレヴァンテ王国が存続するための絶対的な統治インフラだった。


その大事業の成果は、見事なまでに王国を変貌させた。 かつて乾きに苦しみ、赤茶けた泥水を啜っていたレヴァンテは、見違えるほど豊かな農業国へと変貌を遂げた。地下水路から溢れ出る清らかな水が、青々とした田畑を潤し、水路の石畳からは絶えず心地よいせせらぎの音が響き渡る。もはや、あの恐ろしい『黒き枯渇』の影におびえ、飢えに狂う者など一人もいなくなった。宮殿の中庭には四季折々の花々が咲き誇り、かつての死の世界だったことが信じられないほどの豊かな楽園が築き上げられていた。


宮殿の窓から外を眺めれば、かつて王権に対する不満から暴動寸前まで膨ら上がり、不穏な熱気に満ちていた王都の街並みが一望できる。しかし、いまそこに広がるのは、当時の面影すら残さないほどの穏やかで満ち足りた日常だった。大通りには色とりどりの作物を積んだ荷車が並び、市場では人々が温かな笑い声を交わしながら買い物を楽しんでいる。石畳の水路のせせらぎの傍らでは子供たちが無邪気に駆け回り、かつて飢えと渇きに絶望していた民の姿はどこにもない。農村部では、豊かな収穫に感謝する祭りが毎年盛大に催され、夜になれば家々の窓から漏れる温かな灯りが街全体を優しく包み込み、旅人たちを安全に迎え入れている。

今や民は、厳格な法と秩序、そして行き届いた統治のもとで、今日という日に何の不安を覚えることもなく、心からの平穏と安全を謳歌して生きているのだった。彼らが日常のなかに見せる穏やかな笑顔こそが、私の敷いた政策の正しさを証明する何よりの証左であった。


長年の治世の果て、年齢による肉体の衰えは、私の身体を着実に蝕んでいた。しかし、王国は空前の平和と繁栄を謳歌しており、私の人生は揺るぎない実績と栄光に満ち溢れていた。

寝台の上、純白のシルクシーツに包まれた私の周りには、立派に成長した子供たち、長年連れ添った夫である国王、そして私の治世を支え続けた古い信頼の置ける友人たちが静かに集まっていた。窓の外からは、私が自らの手で築き上げた地下水路のせせらぎが微かに聞こえる、穏やかで美しい王都の景色が広がっている。空はどこまでも高く青く澄み渡り、かつての酸性の雨や鉛色の空などまるで嘘のようだった。


「エレノア、よくぞここまで国を支えてくれた。お前のおかげで、我がレヴァンテは永遠の安泰を手に入れた」


夫である国王が、その老いて節の曲がった手をしっかりと握りしめてくれる。その瞳には、長年連れ添った伴侶に対する深い敬愛と、国家を共に守り抜いたという強い連帯の色が浮かんでいた。 私はその温もりに応えるように、ゆっくりと自らの手を見下ろした。 無数のしわが深く刻まれ、関節の節が少し曲がり、長い年月をかけて権力と平穏を自らの手で掴み取ってきた——いかにも為政者らしい、老いた自分の手。若かりし頃は少し無骨に見えた、王家の紋章が彫られた重いリングは、いまや私の指にすっかり馴染み、肉の一部となっていた。国家を支え、数千もの重要な書類に署名し、王国を外敵と飢えから守り抜いてきた誇り高き手だった。


ベッドの脇で涙を流す子供たちの姿を見つめながら、私は彼らが平和で豊かなレヴァンテ王国を継承できることの幸福をしみじみと感じていた。外敵の脅威もなく、飢えに怯えることもなく、青々とした大地が広がるこの国。その礎を築いたのは他でもない、この私自身なのだという絶対的な誇り。私は何の憂いもなく、すべての使命を果たし終えた充実感に胸がいっぱいになる。

私は穏やかに微笑んだ。 秩序を守り、国を繁栄へと導いた正しい王妃として生き、家族と友人に見守られながら、幸せな人生だったとして息を引き取ることに心から満足していた。


「……私は、本当に、幸せです」


掠れた声でそう呟くとともに、私の瞳からスッと力が抜けた。 周囲からあふれ出る悲しみの声が遠ざかる中、私の意識は満ち足りた充実感と誇らしさに包まれたまま、深い闇へと心地よく溶けていった。

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