68 2人の子ども
「ポリー、何故ここに?」
目の前でふよふよと楽しそうに浮遊する彼女は、不思議そうにこちらを見る。
「え?ここにお友達がいるのよ。メアリーには塔で話していたでしょう。」
「もしかして、エーデルとシュレインのこと?」
メアリーの疑問にポリーは首を縦に振る。そういえば彼女はそんなことを言っていたが、友達も幽霊だとばかり思いこんでいた。まさか、捜索中の甥っ子たちのことだったなんて。
「実はその2人を探していたの。」
「あら、そうだったの?じゃあ、善は急げね。」
ポリーがそう言うと、強い追い風を受けたかのように背中が強く押され、勝手に足が進む。気がついたときには木の扉の前に立っていた。
「ええと、ちょっと待ってね。」
ポリーは扉をすり抜ける。
「はぁ、はぁ、メアリー王女殿下、急に消えないでください。」
「ごめんなさい。ポリーが急いで連れてきちゃったみたい。」
「例の塔の幽霊ですか。」
私のせいではないのだけれど、不意打ちで置いて来てしまったキリアンには申し訳ない。彼が溜息を吐いていると、向こうからカチャカチャと鍵を回すような音が聞こえてきた。
「どうぞ~。」
楽し気なポリーの声に押され、ドアを開くと牢屋があった。いや、牢屋というにはあまりにも快適そうな空間、小さいものの王宮の一室のような作りに、牢の柵が付けられているかのようだ。奥には鉄格子がはめられているものの、窓のようなものさえ見える。
「「誰。」」
子どもの声が反響する。
「エーデル様、シュレイン様。キリアンです。」
メアリーの隣にいる彼は声を張り上げて叫ぶ。
「なんだ、キリアンかぁ。」
少し舌足らずで間の抜けた声がする。だが、その姿はまだどこにも見えない。
「駄目だよ、シュレイン。キリアンはアンドルー叔父さんの味方なんだから。」
「そうだっけ。」
聡明そうな声が、もう一方の子どもを嗜める。
「こ、こんにちは。私、ポリーのお友達のメアリーです。」
静寂が訪れる。キリアンへの反応を見るに、アンドルー皇帝と結婚する者ですと紹介しない方がいいと判断したが、これはこれで城内にいる身元の分からない怪しい人物と思われただろうか。
「ポリーが2人を連れて来たの?」
「そうよ。」
「じゃあ、エーデル兄様、大丈夫なんじゃない?」
ポリーはもちろん牢の柵も易々と通り抜ける。
「そうね。危害は与える人たちではないわ。それに、何かあったら私が守ってあげるわよ。」
部屋の奥から、ポリーと子どもたちの笑い声がする。
「それなら、こっちも開けないとね。」
奥から再び現れたポリーは手慣れた様子で牢の鍵も開ける。メアリーが足を踏み入れると、小さな子どもが駆け寄ってきた。
「メアリーって言うんでしょ、一緒に遊ぼうよ。」
「ええ、いいわよ。ええと、」
「シュレインだよ。」
メアリーはシュレインに手を取られて、部屋の奥に進む。
「エーデル兄様、悪い人じゃないよ。」
その声に机の後ろから、隣の彼よりは少し大きい男の子がひょっこりと顔を出す。彼は、警戒心の強い小動物のような瞳をこちらに向ける。
「エーデル、こんにちは。」
メアリーは笑顔のまま、彼に手を伸ばした。




