67 土の下
キリアンは信じられないものを見る目をこちらに向けてくる。この下には死者が眠っていないとは言え、冒涜的だと言いたいのだろう。
「あら、言葉足らずだったわね。」
メアリーは先ほどエルドレンから聞いた話を素直に話す訳にはいかず、頬に手を当て思案する。
「エイダがここを何度も通るブシュロンたちを見ていたらしいの。さっきあなたは、この道はお墓参りにしか使われないと言っていたでしょ。おかしいと思わない?」
「なるほど。甥っ子達がお墓の下に隠れていれば、その理屈が通ると。」
「そういうことだから、石板をめくってみて。」
メアリーの指示に、キリアンは恐る恐る名前が彫られた石板を横にずらそうとする。だが、軍人の彼の力をもってしても、それはびくともしない。
「うーん、動きませんね。」
キリアンは手についた土を軽くはたく。あら、予想が外れたかしら。メアリーはエーデルとシュレインの墓の間にしゃがみ込み、顔を地面につきそうなほど近づけて、石板の側面を覗き込む。
「ちょっと、メアリー様!」
エイダは慌てるも、メアリーはいたって冷静だ。
「ほら、ここを見て。」
メアリーが指さす先を見ると、石板の隅にはうっすらと縦線が走る。
「これは全てが石板ではなく、薄い石板を張り付けてそう見せかけているんだわ。」
「ということは、ここでビンゴってことですか。」
「何か仕掛けがあるんでしょうか。」
キリアンとエイダはそれぞれ、エーデル、シュレインの墓の周りを確認する。
「あ、これでは。」
キリアンは反対側の側面を何やら触っている。カチャンという音がした方向を見ると、彼の手には太い針金が握られていた。どうやら単に足を引っかけただけでは開かないように、小さな窪みに針金を引っかけられていたようだ。
「こちらも、同じ仕組みの様です。」
エイダも、同じように針金を外す。
ひとまず、キリアンが開けたエーデルの墓の石板を上に持ち上げると、古い木の梯子が下に続いている。穴の深さは2人分ほどの高さに思えたが、ここから覗き込むだけでは中の様子は伺い知れない。
同じくシュレインの墓も開けてみるが、中の様子は先ほどと変わらない。メアリーがそこに小石を落としてみると、カラコロと小さく跳ねる音がする。底は土ではないようだ。
「どうも、この2つの穴は繋がってそうですよ。」
もう一方の穴を覗き込んでいたキリアンが、その底を指さす。
「そうなの?」
「さっきの小石が跳ねる音、こちら側からも聞こえましたから。」
なるほど、少なくとも出入口が2か所あるようだ。
「なら、エイダはここでお留守番してくれる?」
「いいえ、メアリー様。私もご一緒します。」
エイダはメアリーの手にその手を重ねて、その瞳は爛々としている。だが、メアリーは悟すような目を彼女に向ける。
「駄目よ。3人とも中に入ったら、敵がいても一方の穴から逃げられてしまうし、エイダと私だけではルイ様の甥っ子と会えても顔がわからないわ。」
「……わかりました。」
エイダはしぶしぶといった様子で了承する。
「じゃあ、メアリー王女殿下は合図をしたら、降りてきてください。」
キリアンは入り口の梯子に足をかけて降りていく。ギッギッと嫌な軋みが聞こえてくる。そのうち、その音は消え、革靴が固いものに触れる音がする。
「どうぞ。」
キリアンの合図の後、メアリーも梯子に足をかける。真上の入り口から明りは差し込むものの、足元は暗がりにあり、感覚だけで梯子をゆっくりと降りていく。
もうそろそろ、下に着くだろうか。足を伸ばして次の支えを探していると、背中からひょいと抱えられて、メアリーは穴の底に足を着けた。
「ああ、ありがとうキリアン。」
「いえいえ。」
真っ暗闇の奥にいるであろうキリアンの姿は見えないが、その声から彼がかなり近くにいることがわかる。何か明かりになるものはないのかしら。メアリーがキョロキョロと辺りを見回すも、暗闇に目が慣れないうちは何も見つけられそうにない。
「わっ!」
目の前に急に2つの影が現れて驚いたメアリーは地面に尻もちをつく。キリアンは手を伸ばす姿がはっきりと見えた。
「あれ。」
「ここを訪れる者が置いていったようです。」
いつの間にか燭台に明かりがついており、ただ私たちの影が照らされただけだったようだ。床と言うには粗雑な石材が敷き詰められた足元には、ガラクタのような機器が積み上げられている。その横には、ランプが小さな机に置かれていた。キリアンはそれに火をつけ、先を照らす。
「なんだか坑道のような道が奥まで続いていそうですね。」
「そうね、火を日常的に使えるってことは、ただの穴ではないみたい。」
2人は歩みを進める。途中で横に抜ける穴もあったが、どうやらもう一方の穴に繋がる道で、行き止まりに食料を置いているくらいでなんの変哲もない。
キリアンと共に元の道に戻ると、急に吹いた風がメアリーを撫でつける。
「あら、メアリー、あなたも遊びに来たの?」
それは聞き覚えのある声だった。




