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転生王女は推し活したい!~推しである婚約者になかなか会えなくても、グッズ作って活動します~  作者: 東風香


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7/11

7 東部戦線

あとは籠城(ろうじょう)した遊牧民の(とりで)を眺めるだけだ。エルドレン率いる部隊はその民族の重要拠点を陥落(かんらく)寸前まで追い込んでいた。あと1週間もすれば、あの丘も静かになるだろう。


数日前の作戦で疲弊した兵士たちとともに、エルドレンは詰所(つめしょ)で休息をとっていた。


「これ、女性たちの間で流行ってるらしいぜ。」


その長い手足を利用して、部下であるラウルがエルドレンに本を投げてよこした。戦線では多少の無礼講(ぶれいこう)があるとは言え、皇太子にこんな命知らずな態度をとれるのは、歳の差はあれど彼が幼馴染であるからだろう。


「さすがのエルも婚約者と今度会うときに、こんな血濡れた土産話なんてできないでしょ。それでも読んで、令嬢が好きそうな話を仕込んでおいたほうがいいんじゃないか。」


それもそうかと、エルドレンは手元の本をパラパラとめくる。すると、挿絵の男性にとても見覚えがあった。他の挿絵を見てみても、女性の容姿は皆異なるものの、男性の容姿は一貫して銀髪に青い目をした青年だ。作者を見るとメアリー・フォン・ラウストと書かれていた。


「これ、俺の婚約者が書いている。」

「え、確かラウスト王国の王女様じゃなかったっけ。面白い子だな。」


ラウルはウェーブのかかった髪を耳にかけながら、エルドレンと同じように板張りの床に座り込んだ。戦線に集中していたため、皇太子にあてがわれた執務室は机も応接椅子もなく、殺風景だ。


「これ今までの本よりも結構安いらしくて、それで平民にも売れているらしいぜ。」

「王女が書いたのにか。確かに珍しいな。」


エルドレンが本の端をなぞると不揃いな箇所がある。王立発行所以外のどこかで作成されたようで、これが安く発行できた理由だろう。


「この銀髪の青年ってまるでエルが大人になった姿みたいだ。」


横から本を覗き込んだラウルが挿絵の青年に指をさす。


「そうかもしれないな。だが、相手がころころ変わるんだ。俺は父上とは違ってそういった趣味はないぞ。」

「エルは恋愛面に関しては陛下の反面教師って感じですもんね~。」


ラウルはまるで年下の弟をいじるのが楽しくて仕方ないといった様子だ。


「ろくなことがなかったからな。一度、狂った女に城内で刺されかけたぞ。」


エルドレンはどこか遠くを見つめた後で、げんなりとした表情をした。


「2年前でしたっけ。でも、最終的にはエルはなんともなかったんでしょ。」

「あたりまえだろう、自分の体を喜んで差し出す奴がどこにいるか。」

「あの騒ぎ、エルのせいだったんですね。」


ラウルからいやー、怖かったなと感情のない声が上がる。エルドレンは何か言いたそうな顔をしていたが、面倒になったようで黙って本のページをめくる。


それでもラウルがちょっかいを出すので、エルドレンは返事代わりにラウルを軽く一発殴った。


◇ ◇ ◇


頬を赤く腫らしたラウルは、エルドレンとともに遅めの昼食を食堂で取りながら、窓から砦の方向を見ていた。こちらもまだ設備が整っておらず、ささくれの目立つ一枚板のテーブルに、丸太を切り落とした椅子しかないが、椅子があるだけましだろう。


「年相応にかわいいところもあるのに、エルもなかなかやることがひどいな。攻略に時間がかかるからって、流行り病で亡くなった遺体を砦の中に投げ入れるなんて。」


ラウルは頬をさすりながら、殴られていない反対側の口でパンをかじる。


「婚約者には3年待ってほしいといったが、そんな猶予(ゆうよ)猶予(ゆうよ)があるかわからんからな、さっさと東部など攻略してしまうに限る。」


軍団の長らしく、エルドレンからは行為に対する動揺は微塵(みじん)も感じられない。


その病は大昔には大陸中心部でも多くの死者を出したが、今となっては対処法も把握されており怖い病気ではない。ただ、それを経験していない民族には死の病であり、(とむら)いを大事にするこの民族とは特に相性が悪いのだ。籠城などすれば、逃げ場もない。


兵士たちの消耗を抑え、勝利に導くエルドレンの手腕に、部下としてのラウルは尊敬している。ただ、人として褒められた行為ではない。


そんなラウルの心を読み取ったかのように、エルドレンはスープを(すす)っていたその顔を上げた。


「遺体を引き渡してくれた家族たちには金をはずんだが?」


エルドレンは悪びれもせず飄々(ひょうひょう)と答える。


「そういうところ隠さないとメアリーちゃんに嫌われるぞ。」

「人の婚約者を勝手に名前で呼ぶな。」


エルドレンはラウルを射抜くように冷ややかな青い瞳を向けた。


そういうことではない、などと思いながら、ラウルはまだ姿も知らぬメアリーの苦労を想像して、溜息をついた。


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