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転生王女は推し活したい!~推しである婚約者になかなか会えなくても、グッズ作って活動します~  作者: 東風香


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63 悪夢

あの後エイダは、幽霊が怖くて顔が引きつっていたが、自分の主人を助けた幽霊ならお礼がしたいと言い出し、何も見えぬ空間にお辞儀をして、手を差し出し、感謝の言葉を伝えていた。


「あら、あなた幽霊苦手なのね。知らなかったわ。ごめんなさいね。」


ポリーは口では謝っているが、エイダの顔と挙動が一致していない様子がおかしいのか、くくくと体を震えさせて笑っている。


「ポリー。さっきあなたが話そうとしていたことって。」

「ああ、皇帝がまだスヴェンナとの初恋を引きずっているって話?」


つまり、アンドルーはあの手紙をやり取りしていた相手がまだ好きということか。なら、そのスヴェンナを連れてくることができれば、ここから抜け出す勝算はあるかもしれない。でも、彼女は……。


コンコンと壁が叩かれる音がする。そうだ、外に人を待たせていたんだ。


「ごめんなさい。もう行きます。」


メアリーは外まで聞こえるように声を張り、虚無に向かってぶつぶつと話し続けるエイダを引っ張る。


「行きましょう、エイダ。」


メアリーは数歩進んだところで後ろを振り返る。


「また、会いましょうね、ポリー。」


彼女は返事代わりにメアリーの亜麻色の髪を優しい風で撫でた。


◇ ◇ ◇


「セイラ、またタロットカードをしているの?」

「やっぱり、アンドルーに嫁がせるべきじゃなかったかな。」


裏返したカードをセイラと呼ばれた少女は机の上でくるくるとかき混ぜる。

これは誰の記憶だろう。メアリーは鍵穴から部屋を覗くように、まるで人の記憶を覗き込んでいるような感覚に陥る。


「仕方ないわよ。飢饉の後、隙をついて攻められちゃったんだもの。どうしようもないわ。」

「いいえ、帝国がいけないのよ。シェレンディア帝国め、弱みに付け込むなんてひどいわ。」


セイラは淡い水色の髪を大きく揺らして、首を振る。

彼女、誰かに似ているわね。メアリーはそれと同時に違和感を感じていた。


「まあ、スッツデール帝国と同盟が結ばれたら、和平も有利に運べるでしょう。私がいなくなった後、王国のことは任せたわよ。」

「……寂しくなるわね。」

「そのときは幽霊にでもなってセイラの元に出てきてやるわ。」


自分が見ている視点の人物が、両手を前に突き出して幽霊のポーズをしていた。それをみて、セイラは目を細める。


「ふふ、ありがとう、()()()()様。」


そうだ、ここは、ラウスト王宮の私の部屋。あれ、でも、祭壇もない。それにセイラと呼ばれた人物は成長を遂げて大人っぽくなった聖女サラのように見える。


(もしかして、これは別の世界線の私?)


◇ ◇ ◇


メアリーは目を覚ます。


「あれは夢……?」


それにしては鮮明な記憶にメアリーは混乱する。上体を起こすと、肩にかけられた毛布がずり落ちる。どうも、昨夜はベッドの縁を枕にして眠ってしまったらしい。目線の先には、ベッドの中央で眠るアンドルー皇帝がいた。


彼は額に冷や汗をかいて、布団の上に出した手を強く握りしめている。メアリーはその手に自分の手を重ねる。


昨日塔から戻る際に、護衛の青年、キリアンにアンドルーの看病をしたいと申し出たのだ。それは、助けてもらった恩返したいという純粋な気持ちだけでなく、皇帝の近くにいるのが一番安全だという下心もあった。


「うっ…。」


彼がうめき声を上げながら、薄目を開ける。


「あ、ルイ様」


メアリーは立ち上がり、ベッドの端に片手をついて彼を覗き込む。そのエメラルドのような瞳は、幽霊でも見るかのようにこちらを見つめていた。


「メアリー、本当に生きているのか。」


彼はメアリーの手を確認するかのように何度も握りしめた。初めて彼から名前を呼ばれたこともあり、メアリーも最初は少し照れくさそうに対応していたが、次第にその異様な行動に首をかしげはじめる。


アンドルーもハッと気が付いたようで、急に手を放して、目を逸らした。


「目覚める直前、私は塔の外から、君が飛び降りるのを眺めていた。」


彼は焦点の合わない目で、どこか遠くを見つめる。朝陽が差し込む部屋には、長い影が伸びていた。


「その、夢?の中では、君の国(ラウスト王国)が我が国と同盟を構築しようと、私に嫁いできた。」


メアリーは彼の震える手を握り、言葉の続きを待つ。


「傷心の私は、君を心から愛することはなかったが、君との日々はひと時の楽しい時間だった。そこに恋慕はなくとも、君のことはいとしいと思っていた。」


伏せられた睫毛から覗く深緑の瞳が、それがただの作り話ではないと語っていた。


「だが、悪化していくラウスト王国の状況を見て、同盟を破棄して攻め込んだんだ。」


アンドルーの声が震える。


「でも、それは国内に対する建前だった。同盟を破棄したのは事実だが、君の家族をこの帝国に亡命させる手助けをしてやろうとしたんだ。君にも黙ってね。」


やっと彼と目が合う。その純粋な美しい瞳はまるで鏡のようにメアリーを映し、彼の言う『君』が『()』ではなく、メアリーの奥底にある魂を捉えているような気がしてしまう。


アンドルーはもう片方の手で胸元のシャツを力強く握り、言葉を吐き出す。


「君の両親は既に捕縛されていたが、辛うじて兄弟たちは救えた。そうして、帝国(ここ)に戻って、やっと君に会えると思ったとき、月明かりをふと見上げると、塔の上から身を乗り出す桃色の瞳と目が合った。君はにっこりと微笑んで、それから、それから……。」


アンドルーは何か記憶が混濁しているようで、ゼエゼエとかすれた吐息を出す。メアリーは彼の背中をさすり、額に手を当てる。熱にうなされている訳ではないようだ。


「……嘘だと思うだろう。」

「いいえ。」


これが熱のせん妄でないとしたら、考えられることは1つしかない。散らばった点と点が、星座のように結ばれていく。


「それはきっと別の世界線の私たちですわ。」


メアリーが微笑むと、アンドルーは少し安心したようだ。だが、それは本当に比喩でも何でもない。

それはきっとゲームのプレイに失敗して、リセットされる前の私たちだと。

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