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転生王女は推し活したい!~推しである婚約者になかなか会えなくても、グッズ作って活動します~  作者: 東風香


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62 もう一人のメアリー

皇帝が倒れたとあって、小さな部屋はにわかに騒がしくなる。両脇を騎士たちに支えられて、運ばれていく。上背の大きいアンドルーは、体格の良い騎士たちが抱えても、まだ足元引きずられるほど身長差があった。


そんな彼らに着いていくように、一行は部屋を去る。何人もの男性が階段を駆け下りていく音が、メアリーの耳にも聞こえてきた。


最後まで残っていた青年は、そのくすんだ金髪を揺らして部屋の中を見回す。こちらに目を合わせたかと思えば、


「メアリー王女殿下、私はドアの外でお待ちしておりますので。」


と何故か胸元に手を当てて、一礼して退出する。


「胸?」


意味が分からず、メアリーも先ほどの彼と同じように胸元に手を当てると、固い翡翠が触れる。あれ、ペンダントは服の下に隠しておいたはず。


「あ!」


顎を引いて、目を下に向けると、胸元のボタンがなくなり、はだけてしまっていた。先ほど身を乗り出した時に飛んでいってしまったようだ。そういう訳で、彼は外でメアリーを待っているらしい。


軍が去った部屋は、さざ波が引いたように静かになる。メアリーは胸元を正しながら、助かったのだとほっと息をつく。


それにしても、アンドルーがここにいると言うことは、大陸に行く前に引き返してきたのだろうか。それとも、城を空ければ、ブシュロンのような反抗勢力が画策すると読んで、どこかに潜んでいたのだろうか。メアリーが思考の海に漂っていると、ぬるい風が横顔を撫でた。


「あら、彼は敵ではなかったの?」


女性の声で耳元に囁かれる。


「そうみたい。敵の仲間がここまで追いかけてきたのかと勘違いしてしまったわ。」


思わず返事をしてしまったが、この部屋には自分以外誰もいなかったはずだ。メアリーが恐る恐る後ろを振り返ると、体が透けている女性がいた。はっきりとした外見が分からないが、髪は金色、瞳は赤色だろうか。そんな彼女はふわふわと空中に揺らめいていた。


「まあ、あなたが身を投げ出さずに済んだならよかったわ。」


腕を組む彼女は誇らしげに見える。どうやらメアリーを助けようと、彼女が皇帝の意識を失わせた張本人らしい。結果はどうであれ、助かったのは事実だ。


「先ほどはありがとう。私はメアリーって言うの。あなたは?」

「私もメアリーって言うの。ややこしいから、私のことはポリーと呼んで。」


その足元はもちろん薄くなっており、彼女がこの世のものでないことを示していた。


「ポリー、どうして見ず知らずの私を助けてくれたの?」

「なんだかあなたを見ていると、昔の自分を思い出してね。」


ポリーは照れくさそうに頬を掻く。


「私、この塔から飛び降りてね。気がついた時には、ここでずっと彷徨っているわけ。」


あはは、嫌になっちゃうよねと言う彼女は、重い言葉とは裏腹に明るい表情をしている。


「そう深刻にならないで。意外と悪くないのよ、近くには小さい兄弟たちもいて、遊び相手にも困らないし。」

「そうなの?」


他にも幽霊仲間がいるのだろうか。メアリーはあたりを見回すも、どこにも彼女以外の姿はない。そんなメアリーを見て、口角を上げてにっこりと微笑むポリーは、初めて会ったのにどこか馴染み深さを感じる。


「私、本当は別の婚約者がいたのに、人質みたいにここに嫁ぐことになったの。そしたらこんなことにも巻き込まれてさんざんよね。」


メアリーはぽつりぽつりとつぶやく。人ならざるものと思えば、素直な心情が漏れ出してくる。


「まだ、こちらに嫁ぐことが決まる前、ある人がタロットカードで占ってくれて、その結果が『無理な結婚。低迷する恋愛。』」だったの。その時は冗談かと思っていたけど、今思えば彼女の占いは正しかったのね。」

「メアリーは信心深いのね。タロットカードでそんなに的中させられる訳ないわ、気にしすぎよ。だいたい、あんなこと言われたことに現実を当てはめているだけよ。」


ポリーは大口を開けて笑う。


「笑いごとじゃないわ。」

「ごめんなさい、でも、なんだか懐かしいわね。」

「え、懐かしい?この国ではタロットカードが有名ってことかしら。」


ポリーは首を振る。それなら、ポリーも嫁いでこの国に来たのだろうか。例の魔術師に会うまで、この世界でタロットカードなんて全く聞いたことがなかったけれど。


「私のことはいいのよ、メアリー。私と違って、あなたならまだ間に合うはずよ。」

「元婚約者のこと?もう、無理よ。」

「そうかしら、だってアンドルー皇帝はスヴェンナ――」


2人が問答をしていると、急に開け放たれたドアから光が差し込んでくる。


「エイダ!」


メアリーが見慣れた人影に声を上げると、エイダがこちらに駆け寄ってくる。


「メアリー様、よかった。ご無事ですか。」

「ええ、エイダも無事でよかった。」


2人は抱擁を交わした腕を解く。


「皇帝の部下の方たちが、屋上にいた私に知らせてくれたんです。」


エイダの言葉とともに、ドアから親指を立てた腕がすっと出てくる。向こうに控えている青年は顔に似合わず、意外とお茶目なようだ。


「そうだ、ポリー。こちら、私の侍女のエイダよ。」


ポリーはふよふよと飛んでいき、エイダに近づいて顔をまじまじと見つめている。


「あの、メアリー様、どこに向かって話しかけているんですか。」

「あ、もしかして、エイダには見えないのか。」


メアリーはエイダとポリーを交互に見る。


「そうよ。」


ポリーは小さく頷く。


「あら、残念。」


メアリーはエイダに向き直り、ポリーがいる方向を指し示し、


「それで、エイダ、こちら幽霊のポリーよ。」


と紹介する。


「ゆゆゆ、幽霊!?」


エイダは目を大きく見開き、今にも倒れそうな様子でふらふらとしゃがみ込んだ。


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