47 帝国大学にて
本日2話更新です。こちらは2話目です。
待ちぼうけのメアリーはソファの背もたれに倒れ、周囲をぐるりと見回す。何に使うか検討がつかない機械や積み上げられた書類が散乱している。ラウストの王立学院にいたときから彼は片づけが苦手なようだったが、ここでも相変わらずのようだ。
「お待たせしました。」
メアリーを呼ぶ声とともに、台車を引いたジェフリーが現れた。荷台は三脚のついた箱が載っている。
「まあ、これが例の?」
彼は機械を積み下ろし、慣れた手つきで準備を進める。
「そうです、まだ修正が必要なんですが。折角ですし、王女殿下、そのあたりに立っておいていただけますか。」
メアリーは彼に指示された通りレンズの向こうに立つ。窓から差し込む日差しに、目を細めてしまう。
「ではいきます、1、2、3。」
ジェフリーが紐を引くと、パシャという聞きなれた音が聞こえる。そう、彼に写真機を作ってもらったのだ。
「撮れたのかしら。」
期待に満ち溢れた様子で、メアリーが亜麻色の髪をなびかせて写真機に駆け寄る。
「危ない!」
彼の大声とともに、メアリーが振り返ると積み上げられた本が揺れていた。思わずかわそうとしたが、雪が靴に挟まっていたのであろうか、水滴に足を取られたように体が傾く。スローモーションのようにゆっくりと、上から降ってくる本は目の前に近づいてきていた。
衝撃に備えるように、反射的に瞳を伏せてしまい、目の前が真っ暗になる。メアリーは背中に衝撃を受けたものの、いくらたっても本の雨は降ってこない。だが、お腹の上のぬくもりと重さに違和感があり、瞼を開くと目の前には彼の顔があった。
「ジェフリー。」
メアリーを守るように覆いかぶさるジェフリーに呼びかけるが反応はない。もしかすると、彼は頭を強く打ち付けてしまったのかもしれないと、メアリーは後頭部に添えられた彼の片手を引き抜き、起き上がろうとする。だが、彼の体はびくともしない。
「細く見えても男性なのね。」
メアリーは溜息を吐く。天井のシミでも数えて待っているしかないか。諦めかけたその時、ドアの方向からノックの音が聞こえてきた。ちょうどよかった、エイダが戻ってきたんだわ。
「エイダ、ちょうどよかった引き上げて――。」
「これはどういうことだ。」
呼応した声は予想に反して低い。身動きが取れないメアリーが何とかドアの方に顔を向けると、そこには銀糸を纏ったエルドレンが立っていた。彼の青の瞳は何度も見たことがあるはずなのに、まだ知らぬ冷たさを孕んでこちらを見下ろしていた。




