41 事後処理
朝晩の冷え込みが強くなり、夜着の上にカーディガンを着込んだメアリーは、ランプの下で封筒を開いていた。切り落とした断面から毛羽立った繊維が落ちる。
「メアリー様、もう遅いですし、本日はほどほどにされては?」
「エイダ、ありがとう。そうは言っても、私のことよくわかっているのね。」
侍女であるエイダが運んできた紅茶と軽食の載ったお盆を一目見て、メアリーはふふふ笑う。
「メアリー様が物心ついた時からお世話しておりますので。」
彼女もつられて薄く笑う。そんな彼女に、メアリーが罫線からはみ出した文字が並ぶ便箋をひらひらとさせる。エイダは、
「それはダンくんからのお手紙でしょうか?」
とティーカップをセットしながら答えた。ポットの注ぎ口からはうっすらと湯気が立つ。
「そうなの、みんな頑張ってくれているみたい。」
大きな被害のあったサスティーナ地方では、河川整備や畑の開墾をする一部の人々を除いて、男性はラウスト王国各地に出稼ぎという形で鉄道の建設作業を、それに付帯する女性や子供はメアリーが出資して家内でのブレスレットづくりの仕事をしていた。
この方法であれば、サスティーナ地方に住んでいた全住人の住居を今年中に用意する必要がなく、時間の猶予が生まれる。
ダンくんもその子供のうちの1人だったが、読み書きが得意であったので、報告書と言う名の日常を綴ったお手紙を書くという役を与えていた。彼は喜んで手紙を書いてくれたので、こちらも進捗状況が把握でき、意外にもかなり助かっている。
何度かサラから手紙を受け取ったが、サスティーナでも復興は進んできているらしい。河川整備の技術については軍も興味があったようで、軍部の人員供与を条件に彼らにも技術を惜しげもなく伝授しているそうだ。
どこでそんなことを学んだのかと思ったが、サラには『農家にとって水は命よ』と言われてしまった。また、『メアリー様は都会っ子ね』と言われかねないので、この件についてはそれ以上触れていない。
当初、父上である国王に鉄道事業の支援を依頼した際は、了承が得られなかった。しかし、シェレンディアでの試運転の状況を耳にし、また、今回の3次隊の輸送の遅れが人々を危険にさらしたことを鑑み、国家事業として鉄道網の敷設を行うことになった。
ひとまず東西と南北に2本敷設するようだが、ゆくゆくはシェレンディア帝国まで繋いで遠征ができるといいな。まあ、国家間を縦断する鉄道ができる頃には、メアリーはシェレンディアに嫁いでしまっているだろう。
1人にやにやとするメアリーもエイダは慣れたもので動じることがない。彼女は脇机に置かれた別のお盆をこちらに運ぶ。それには1通の無地の封筒が載せられていた。
「エイダ、それってまさか。」
「連邦に行く際には置いていかれてしまいましたから、今度は私も連れて行ってくださいね。」
エイダはこくりと頷きつつ、口を尖らせる。たまには彼女にも休みをと思い、連邦への取材旅行では置いていったのだが、兄上からはメアリーが不安な時に一緒にいられなかったことを悲しんでいたと聞いていた。ごめんねと答えるメアリーはそっと手を伸ばして、上質そうな紙に触れる。
「やっぱり、エル様からだわ。」
封蝋の紋章を確認したメアリーは歓喜の声を上げて、いそいそとペーパーナイフで切る。子気味良く開かれるそれから、便箋を取り出した。
「ええと、『西方に用事があって外遊するから、帰りにこちらに寄りたいが良いか。』ですって。」
すぐに返事をしようと、メアリーは引き出しから一等上質な便箋を取り出した。ラウスト王国を象徴する白い小さな花模様が丁寧に描かれた一品である。
「でも、不思議ですね。エルドレン様が東方を離れられるなんて。」
横に控えるエイダは首をかしげている。
「もうすぐ冬になるから、きっと今年も弟のイシュタルが代わりに駐留してくれているのよ。」
「国外まで出かけられるほど、東方も安定してきているんですね。」
メアリーの推測に、横の彼女もうんうんと頷く。
「今は街の開発を進めている段階らしいから、そうだと思うわ。」
机の端に置かれた新聞にメアリーは視線を送る。
「なら、メアリー様が嫁がれるのも早くなるかもしれませんね。」
「やだ、エイダったら。」
「私も質の良い防寒着をもうそろそろ買っておきましょうかね。」
エイダはウインクをして、寒冷であるシェレンディア帝国に行く準備を仄めかす。当然のようにエイダは嫁ぎ先について来てくれるようだ。
「大丈夫よ、その時は私が買ってあげるから。」
半年後の波乱もつゆ知らず、2人はランプの灯が消えるまで、和気あいあいと語り合ったのだった。




