22 謁見
驚いたことに、エルドレンは既に爆弾事件を解決しており、メアリーの出る幕はなかった。
川に囲まれた帝国首都モレスティアで、遊牧民たちは首都機能の麻痺を狙って、郊外へと繋がる大きな橋に爆弾を仕掛けたようだ。
エルドレン率いる軍部が彼らの不審な動きに迅速に対応したため、大事にはならなかった。ただ、1か所は処理が間に合わずに爆弾の一部を川に投げ落としたため、轟音とともに街はびしょぬれになり、民衆は驚きに包まれたそうだ。
事件に手を取られていたせいで、メアリーを助けに来るのが遅くなってしまった。そんな経緯を、馬車の中で彼は申し訳なさそうに教えてくれた。
「首謀者である族長を発見したんだが、民衆の避難誘導に紛れて逃げられてしまったんだ。すまない、メアリーがこんなに怖い思いをしたのに捕まえてやれなくて。」
メアリーの手首に残る赤い痕を見た後、エルドレンは髪と同じ色をした銀色のまつ毛に影を落とす。澄んだ青い瞳は瞼に隠されてしまった。
「あの。」
メアリーはその様子を見て、彼に声を掛けた。
「私、首謀者の居場所知っています。」
◇ ◇ ◇
首謀者が捕まったとの報を聞いて安心したのもつかの間、メアリーが彼の居場所を何故知っているのかを誤魔化すのが大変だったのだ。
私、チートな能力で彼らの言葉が分かるのです、などと口が裂けても言えないので、首謀者の位置を示した地図を見たと供述した。
けれども、遊牧民の文字も読めないのに、それが首謀者の位置を指し示すとわかったのか、押収した物品に地図などなかったと問い詰められた。
メアリーを連れ去った商人たちがあまりにも易々と王宮のセキュリティーを突破したことから、内通者がいるのではと疑われ、私も嫌疑にかけられたらしい。
私はシェレンディア帝国皇太子の婚約者なのよ。私から彼への愛を疑っているなんて、嫌になるわ!
結局、エルドレンが地図は燃やされた可能性があり、印さえあればメアリーの判断も腑に落ちるはずだと指摘してくれ、やっと解放されたのだ。
調書を取るのがエル様なら喜んでずっと問い詰めてもらって構わないけど、彼との時間が削られるだけだったので本当に早く解放して欲しかった。
エルドレン曰く、遊牧民は少数民族に分かれていて、今回の事件に関わった民族の言葉を理解できる自民族以外の人間はほとんどいないそうだ。『ちょっとだけ学んだことがあって~』とか迂闊なことを言わなくて本当によかった。
それ以上に大変だったのは、シェレンディア帝国皇帝から今回の礼と詫びをかねて謁見するように通達があったことだ。
◇ ◇ ◇
煌々と照らされたシャンデリアの下、メアリーは赤い絨毯の上でカーテシーを披露する。
「顔を上げよ。」
その言葉にメアリーが面を上げると、玉座には威厳のある髭を蓄えた男性と、その横には艶やかな銀髪の女性がこちらを見据えている。彼ら皇帝皇后両陛下の両脇には、エルドレンが着席し、もう一方は空席であるから、イヴァナ滞在中のイシュタルの席だろう。
本当はエルドレンが到着した晩のディナーから皇帝一家と同席させてもらう予定だったのに、誘拐されたせいで、ご両親に会うのもこの謁見が初めてとなる。
婚約者の両親とディナーをともにするだけでも緊張するというのに、両陛下以外にも大臣たちが総勢する謁見など、今にも心臓が飛び出てしまいそうだ。
「よいよい、将来はシェレンディアの一員になるかもしれない身。楽にするとよい。」
そんなメアリーの様子を感じ取ったのか、皇帝から柔らかな口調で声を掛けられる。隣の皇后は、何か言いたげな表情で皇帝に視線を送っている。
「今日は先日の首謀者逮捕に繋がったメアリー嬢への礼を伝え、迷惑をかけたラウスト王国への非礼を詫びたいのだ。」
メアリーは現段階では皇太子エルドレンの婚約者に過ぎず、まだラウスト王国の一員である。そんな彼女がシェレンディア帝国の王宮から誘拐されるなど、この世界の常識から考えれば帝国の失態だ。
「非礼については正式にメアリー嬢の父、国王に連絡しておる。そなたに聞きたいのは、此度の礼として欲しい褒美がないかということだ。」
メアリーは思案する。ここで口にしてよいものだろうか。
「服がよいか、宝石がよいか、それともエルがよいか?」
「あなた。」
皇后が皇帝の発言を嗜める。エルドレンは急にむせたような咳をした。
なぜそこでエル様が出てくる?陛下は気にせず笑っているが、メアリーはまだまだシェレンディアのジョークについていけない。
ざわざわとし始めた大広間の中、メアリーは深く息を吸い込むと、その桃色の瞳で皇帝を見つめる。
「では陛下、鉄道事業を支援していただけませんか。」
本日は2話投稿です。19時30分に続きを更新します。




