17 王立学院②
「そっか、ごめん。この世界のメアリー様は学院に通ったことがないから迷子になったのね。私が攻略していたルートではいつも、時たま顔を出すお姫様の立ち位置だったから。知っているかと思っちゃって。」
サラが件の人物がいるという部屋まで案内する道すがら、迷子になっていたメアリーの事情を知ると申し訳なさそうにその長いまつ毛を伏せた。
王族は学院に通う必要はないのだが、留学生や国内の有能な子息たちと交流を深める目的で通うこともある。しかし、メアリーはシェレンディア帝国に嫁ぐことが決まっていたため、顔すら出したことがなかったのだ。
「それはいいけど、何でカヴァリア連邦訪問の約束を取り付けているのよ。そこは断るところでしょ。」
メアリーは口を尖らせる。
「いいじゃない、小説3作目の取材旅行になるかもしれないわよ。」
「で、本心は?」
メアリーはここ数か月の付き合いから事情を察し、サラを問い詰める。
「第3部に出てくるカヴァリア連邦の王弟が私好みのイケメンなのよね。」
サラは悪びれもせずに、その大きな瞳でウインクをした。
「は?」
「だって、なかなかカヴァリア連邦から出てこない人だし―」
「そっちじゃないわ。第3部って?」
メアリーは身を乗り出し、食い気味に聞きだそうとした。
「あれ、知らないの?『ポリティカル・ラヴァネス』ってダウンロードコンテンツ含めたら第3部まであって、その第3部はカヴァリア連邦が中心なのよね。まあ、本編でシェレンディアとカヴァリアのいざこざを止めて、連邦が生き残ってないとプレイできないレアエピソードだけど。」
まてまて待て待て。ラウスト王国の危機だけでなく、他の2国のいざこざもあるのか。
ゲームのメインシナリオに『世界の軍事バランスが崩れたときに、戦争回避する』内容があることを考えると、残り2国の危機を放置しておくのはシェレンディア帝国に嫁いだとしても危険なのでは?嫁いでも平和な推し活ライフは送れないのかとメアリーは唖然とした。
「あー、第3部は初版からかなり時間が空いて、リメイク版が出たときに追加されたコンテンツだから、第2部までと違って内政がメインではないのよね。流行を追ったというか。」
メアリーの思いは口に出ていたようでサラはその疑問に答えた。メアリーはもう何も言葉を紡ぐことができないでいる。
そんなメアリーに追い打ちをかけるかのように、サラは衝撃的な発言をした。
「じゃあ第2部はシェレンディア帝国が舞台ってことも知らないの?」
衝撃の事実にメアリーは倒れこんだ。
◇ ◇ ◇
華奢なサラの腕に体を預けながら、なんとか歩を進める。
「とりあえずその話は置いておきましょう。今日の主役は天才的なメカニックに会うことなんだから。」
人の気も知らないで、サラは元気よく声を上げた。たぶん、彼女なりに気を使ってくれているのであろう。
気を取り直そうとメアリーは今日会う相手について考える。
攻略対象の一人、天才的なメカニック。確か、ゲームの小冊子では才能あふれる若者を養子にし、パトロンをするのが趣味のデュメル伯爵の養子となった人物で、書類上はサラの兄弟のはずだ。
「私、今回はあんまり彼に関わったことがないのよね。」
「そうなの?」
「なんかカヴァリア連邦を救ったせいか、彼と仲良くなるイベントが発生しなくて。」
サラは以前から『攻略対象者全員と協力して王国の危機となるイベントに備えるわ』と意気込んでいただけに、そのかわいらしい小さな唇を赤くなるまで噛みしめていた。
「このゲーム、攻略が難しいって言っていたものね。そもそも全員とは協力できないのかもしれないわよ。」
落ち着きを取り戻つつあるメアリーがサラを慰める。いつの間にか校舎よりも古い建物に入ったようで、二人の足音が先ほどよりも大きく響く。
「ちなみに、天才的なメカニックってどんな方なの。」
話をそらそうとメアリーが尋ねる。
「機械にしか興味がない人間で、人の顔も覚えられないらしいわ。そういえば、私も彼に会うたびにずっと初めましてって言われている気がするのよね。ゲームを知らなければ心が折れちゃいそうよ。」
サラが部屋の前で足を止める。ルームプレートには、『機械愛好会』と記されている。
「着いたわよ。」
メアリーが部室のようなものかしらと推測しているうちに、サラがドアを軽くノックする。
「すみません、サラ・デュメルです。」
「はーい。待っていたよ。」
中から若い男性の声がする。アポイントはサラが取っていてくれていたようだ。少しの間を置いてドアが開いた。
そこには緑がかった髪を軽く結び、グレーの瞳をした見慣れた顔があった。
別のお話になりますが、本日の19時から短編(4話完結)を投稿します。第1話はすでに投稿済みですので、お読みいただけると幸いです!




