128 玉遊び②
玉の行方を一生懸命目で追っていると、両隣からクスクスと笑い声が聞こえる。初めてのことなので何もわからないが、お遊びに真剣過ぎるということだろうか。
やっとのことで、玉は動力がなくなり窪みに入ろうとするが、再度黒の窪みに入ったかと思えば、何かに反発するように跳ねて、赤の窪みに白い玉が静止する。
メアリーは胸を撫でおろした。どこか体が緊張していたようで、喉もカラカラで、少し肩が痛い。
「残念だなぁ。」
まるで結果が分かっていたかのようにアルスは笑う。
「そんなに食い入るほど見つめるなら、心の内は決まっているようなものよ。黒の窪みに入った時の表情ときたら。」
ベレッツァの言葉に、メアリーはグラスを持った手が止まる。余りにも必死になってしまっていたようで、自分の表情を気にする暇がなかった。
「えー、なんかダシに使われたみたいでいやだなぁ。」
アルスは腕を上げ、頭の後ろで手を組む。ベレッツァは玉を引き出しにしまうと、手をはたき、この場はもうおしまいだと告げていた。
結局、王妃様がここにいた理由って何だろう。
そう思っていると、カツカツという足音と共にベレッツァが部屋の扉から出て行く。手足が長いからかリーチが長いのだ。
「君たちも見ていく?僕はもううんざりだけれど。」
アルスはそう言うと、エルドレンとメアリーに外に出るように促す。
「フィロッソ、今日という今日は許さないわよ。」
廊下の赤い絨毯に足を踏み出したところで、奥からベレッツァの声が響いて来た。ここに来たときはあんなにうるさかったのに、会場は静寂に包まれていた。
王妃はハイヒールをものともせず、先へ先へと進んでいく。その靴を脱ぎ捨てたかと思えば、こちらを驚愕の表情で振り返る男性にそのヒールを投げつける。
「うわっ!」
剛速球のようなそのヒールをその巨体で俊敏に避ける。壁にはヒールが釘のように突き刺さっていた。
「あの方は?」
「フィロッソ・ネイシタブ国王だよ。僕の父だね。」
アルスがメアリーの肩に手を置き、ひょっこりと現れる。
「こいつの家系は女関係にだらしないから。」
エルドレンは、蚊でもはたくかのように、アルスの手をはたき、メアリーとの間に割って入る。
「僕はそうでもないんだけどな~。」
彼はそう言ってへらへらしながら、2人の前にでると、国王と王妃のいる奥を指す。
「意外と父も母に構ってほしいだけな気がするけれど。ほら、ちゃんと女性はそういう職業の人を選んでいるでしょ?」
国王に腕を絡ませていた彼女は、既に奥に下がり、王妃に頭を下げている。太ももまで露わになるほど深いスリットの入ったドレスのような装いは、一般の令嬢なら身に着けるのも憚るだろう。
「その点、私は一途だから心配いらないよ。」
ずっとだんまりを決め込んでいたエルドレンがやっと口を開く。
「一途って体のいい言葉だよね。王女を追いかけまわしても許されるんだもん。」
アルスはエルドレンにその美しい髪を鷲掴みにされたことで、そのよく回る口を閉じることに決めたようだ。
「流石にかわいそうではありませんか?」
メアリーの一言にエルドレンはパッと手を離すと、掴まれていたアルスは地面に吸い寄せられるようにしゃがみ込んだ。
「まだ父に頭は似たくないのに。」
アルスは跳ねた髪を撫でつけながら、人々の隙間から奥の喧騒の原因を覗き込んだ。
「あの様子じゃあ今日は3時間コースかな。賭場もいい迷惑だよ。管理者の叔父さんにまた父が説教されるってのに懲りないなぁ。」
彼はそう言いながら裏口に案内する。エルドレンはここを通るのが初めてではないようで、1人分の横幅しかない通路の先頭を歩いていく。
細い通路を抜けた先で、メアリーはアルスに袖を掴まれた。合流したユーリとエルドレンは何やら話し込んでいるようで、後ろの2人が足を止めていることには気がついていないようだ。




