125 つながり
一行はネイシタブ王国随一の一流ホテルに到着する。どうやらエルドレンは数日前からここに滞在しているようで、彼が片手を上げるとベルボーイも笑顔で頭を下げた。玄関ホールを通り抜けると、他のスタッフたちも彼に笑顔を向ける。
最初はメアリーをホテルに送り届ける前に、このホテルでディナーを摂るだけだと思っていた。だが、食事が終わり、エルドレンに腰を抱かれて向かった先は客室しかなかった。
「えっと、私、ホテルに帰りたいのですが……。」
「うん、帰っているよ?」
エイダもユーリも後ろに控えているから、変な心配はしていない。だが、エルドレンの意図が分からず背後の2人を見る。エイダはとても申し訳なさそうに、ユーリに至っては両手を合わせて謝罪のポーズを見せている。
どういうことだろうか。
そうこうしているとエルドレンは片手で鍵を取り出し、錠を回す。
まずメアリーの目に入ったのはネイシタブの港、街並みが見渡せる大きな窓、3人ほどは寝れそうな天蓋付きの大きなベッド、カウチに飾り絨毯。ここ数日、小さな部屋で暮らしていたから、とても広くて、贅沢な部屋に思えてしまう。
だが、一国の皇太子が滞在するには少々狭いような気がしていた。ネイシタブ市街地は海も近いが、山も近い。土地の広さが影響していると言われれば納得できそうだが、メアリーはどこか違和感を抱えていた。
「ここ、エルの部屋ではないような。」
「あ、わかる?ちょっとは意識してくれたらよかったんだけど。」
エルドレンは腰からぱっと手を離して、メアリーをカウチに案内する。彼が対面に座ると、いつの間にかユーリがお茶を入れてくれたようで、2人の前にカップが差し出される。少しハーブ混じった、さっぱりとした湯気が香り立つ。
その間、エイダはメアリーの荷物を整理していた。何故、自身の荷物が既に運び込まれているのか、昼間エイダが一瞬席を外したなとか色々と疑念はあるが、聞いてもはぐらかされるだけな気がしていた。
「本当は一番良い部屋を押さえておいたんだけど、譲ってあげたんだ。」
「譲って?」
メアリーは目を丸くする。エルドレン以上または同格の人間が、そうそう同じ場所に来るとも思えないが。
「ああ、次に良い部屋にしようかとも思ったんだが、ネズミに嗅ぎまわられるのも好みじゃなくてね。」
エルドレンはそう言うと手を上げ、軽く叩く。するとすぐさま、什器の後ろからラウルがひょっこりと現れた。
「あれ、ラウルさん?」
部屋にいなかったはずの人がどこからともなく目の前に現れれば、誰だって驚くだろう。
「あはは。驚かれましたか?その位置からは見えにくいかもしれませんが、ここに扉があって隣の部屋と繋がっているんです。こっちはエルの部屋ですよ。」
ラウルが手をこまねきするので、メアリーが身を乗り出す。扉の先には、この部屋と鏡写しのように似た部屋がそこにあった。
「あ、ご心配なく。ちゃんと主人は見張っておきますから。」
ラウルはクスクスと笑う。エルドレンは鋭い目線だけをそちらに送って、メアリーに向き直る。
「明日は医者を呼ぼうか。アンナだけの手紙だけでは不安だろう。」
「ありがとう。」
紅茶に含まれたハーブが眠気を誘うのか、メアリーは手を押さえ、開いた口を隠そうとする。
「今日は疲れたよね。用事は夕方からだから、ゆっくりとおやすみ、メアリー。」
「エル、おやすみなさい。」
そう言うと、後ろ髪に引かれる様子もなく、エルドレンは扉の先に消えていく。彼はここに来てから、メアリーを強く求めるようでいて、どこか一線を引いた態度を取る。
少し寂しいなと思いつつ、連日の衝撃で深く眠りについたメアリーは知る由もなかった。その寝顔を眺めながら、夜のお茶を楽しむエルドレンがいることに。その後ろで、彼らの侍女と従者であるエイダとユーリがこそこそと話しながらその様子を見ていることに。




