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転生王女は推し活したい!~推しである婚約者になかなか会えなくても、グッズ作って活動します~  作者: 東風香


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10/11

10 正教会

メアリーはエルドレンに連れられて、小高い丘の教会までやってきていた。ステンドグラスを抜けた柔らかな光が二人を照らす。外は日差しが照り付けていたにも関わらず、薄明かりの教会内はひんやりとした空気に包まれて、思わず背筋が伸びる。


「ほら、ここからもフラワーカーペットが見えるよ。市庁舎ほどではないけどここから見るのも美しいんだ。」


メアリーが教会の小窓を覗くと、昨日の会場が遠目に見える。どうやら昨日メアリーが市庁舎から景色を見られなかったことも把握しているらしい。


大理石の床は二つの靴音だけを反響させる。教会の建物はラウスト王国とあまり変わらないが、シェレンディア帝国では古くに枝分かれした宗派を信仰していることもあり、ステンドグラスや壁に掛けられた絵画には細かな装飾文様が描かれるなど、メアリーは異国に来たことを実感する。


「ここは東部では主要都市になるから、歴史の長い教会が残っているんだ。」

「それにしては、壁は真新しいような箇所もありますし、祈りをささげるチャーチチェアはまだ飴色のものがいくつか見られますが?」


エルドレンの案内に、メアリーが口をはさむ。


「遊牧民の侵攻のあとで一部修復したからね。まだ、直せていない部分もある。」


彼はその澄んだ青い瞳に影を落とした。


「そうですよね、失礼しましたわ。」


エルドレンから、今日は将来の婚姻式を見据えて教会を案内したいと言われていたこともあり、ちょっぴり浮かれていたメアリーは自分の軽率な発言を恥じた。


エルドレンは気にしないでと大人びた様子で軽く流す。大理石からは冷たさが足元から上ってくるようで、メアリーは肩にかけたストールの(たもと)を引き寄せた。布の擦れる小さな音でさえ聞こえそうな静寂に、メアリーは耐えきれなくなり、エルドレンに尋ねる。


「そういえば、シェレンディア帝国では嫁いできた者を人質のように軟禁、監禁したりするって噂を耳にしたことがあるけれど、本当?みんな優しいし信じられないわ。」


エルドレンは動きを止める。彼の銀糸のような髪だけがまだ揺れている。


「気を悪くされたならごめんなさい。」


メアリーの声がいやに壁に響いた。あ、この話題も失敗したかもと、暑くもないのに背中にたらりと汗が伝ったが、エルドレンは全く顔色を変えずに、少し間をおいてゆっくりと口を開いた。


「シェレンディアは君の国より冬が長く、厳しいからね。冬はほとんど城にこもりっぱなしになる。夏は今みたいに過ごしやすくて避暑にはよいけれど、森にはグリズリーがいたりするし、女の子は一人で森を出歩けないよ。」

「グリズリー?」

「凶暴なクマみたいなものさ。そういう噂が集まって、軟禁とか監禁って誤解されるようになったのかな。シェレンディアは大陸の諸国と比べると、比較的歴史が浅いから、そうやって諸侯たちに揶揄(やゆ)されたんだろう。」


エルドレンは右上に目をそらす。シェレンディア帝国は大陸内では後発的に領土を拡大してきた国であり、メアリーの祖父が若い頃まではそうした偏見が貴族たちの間ですら残っていたと聞いたことがある。


「やっぱり噂に過ぎなかったのね。」

「でも、かわいいメアリーはどこかに閉じ込めておかなくちゃ。」

「まあ、ご冗談を。」


ふいに彼はメアリーの頬に手を延ばしてきた。一言も発することなく、その青い瞳がメアリーを見つめる。教会の絵画に引けを取らないその美しい顔に、触れられた部分から熱を感じる。彼の髪が顔にかかりそうな距離に、顔が真っ赤になる。


メアリーが落ち着かない様子で目をそらしていると、ちょうど教会の入り口から何かがぶつかった音がする。


「あら、ユーリ様かしら。少し早いような気がするけど、きっともう時間ね。」


メアリーは気恥ずかしさを隠すように、馬車の待つ方向へパタパタと駆け出していった。


一人教会内に残されたエルドレンは彼女が去っていった方向を見やる。


「メアリーの小説に出てくる青年のようにふるまったんだけどな。」


ため息とともに吐き出された小さなつぶやきは、一つの足音にかき消されていった。

ストックがある程度できたので、試しに毎日19時に投稿していきます(。・ω・。)

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