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幸せの在り処  作者: yukko
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甘い囁き

朝、耳元で聞こえる甘い声。


「朝だよ………奥さん。」

「あ…………起きる。」


布団から顔を出すと、優しい口づけが頬に……そして唇に………夫の愛に溺れそうになった時、妻は思い出した。


⦅こんなことしてる場合じゃないわ!⦆


両手で逞しい胸を少し押す。


「行かなくっちゃ………。」

「朝ご飯、出来てるよ。」

「ありがとう。」


部屋のドアが開いて、男の子が走って来た。

その後をヨチヨチ歩きの女の子が続く。

「お母さん~。」と言いながら男の子がダイビングして母に抱きつく。

「ちゃーちゃん。」と言いながら女の子がベッドの傍にやって来た。

父に抱き上げられた女の子は母に抱いて欲しいと思いっきり手を伸ばしている。

起き上がり、息子を抱き締めてから、手を伸ばしている娘を受け取り抱っこした。

ダイニングには家政婦の小島厚子が、「若奥様、おはようございます。」と挨拶して、朝食の用意をしている。

家族4人で朝食の食卓を囲む。

妻の仕事は看護師である。

結婚してから夫の理解と支援を受けて妻は看護師の資格を取った。

理解ある夫の愛に包まれて、子育てと仕事の両立が出来ている。


「行ってきます。」

「行ってらっしゃい。」

「いってらっちゃい。」


子どもにバイバイと手を振ると、子どももバイバイと手を振ってくれる。

小島慶子も「若奥様、行ってらっしゃいませ。」と頭を下げてから、二人の幼い子どもに「さぁ、あちらで保育園の準備を致しましょうね。」と子ども部屋に連れて行く。

玄関で夫婦二人になった時、夫は妻の耳元で囁いた。


「明日は……僕を起こして欲しい。」

「ええ、起こすわ。

 じゃあ、行ってきます。」


急に身体を引き寄せられて深い口づけを受けた。

夫は離すのを惜しむように……ゆっくり身体を離した。

そして、囁いた。


「僕は今日、帰宅が遅くなる。」

「うん。」

「寝ないで待っててくれ。」

「うん、待ってるから……行かせて、ね。遅刻しちゃう。」

「そうだな………。」


忍は数馬の甘い囁きを再び、心を通い合わせてから、何度も聞いた。

こんな日がやって来るとは思わなかった。

恵まれることが無いと諦めていた子どもを二人も………産むことが出来た。

曾て卵巣嚢腫が破裂して受けた手術で、片方の卵巣を失った。

忍は再婚する前に「子どもは無理だと思うから籍は入れないで恋人のままで居たい。」と言ったこともある。

だが、数馬は言い切った。


「僕は子どもが居なくてもいい。

 忍さえいてくれれば、それが僕の幸せだ。

 結婚しないと、僕は不安で仕方ないから……してくれるよね。」


忍が子ども好きなので、数馬は出来れば忍の為に子どもが欲しいと思った。

再婚して直ぐに、数馬は忍に人工授精や体外受精を提案した。

再婚間もないのに不妊治療を受診した。

医師からは自然妊娠を最優先すべきだと説明した。

人工授精でも女性は負担があり、その次の段階の不妊治療である体外受精は女性の身体への負担が大きいからだ。

数馬は忍になるべく負担を掛けたくなかったので、自然妊娠出来なかった頃に人工授精を行うと決めた。

そして、何もせずに自然妊娠で二人の子どもに恵まれた。

一郎も次郎も目の中に入れても痛くないほどの可愛がりよう。

弥生も目尻が下がりっ放しのバァバになっている。

驚いたことに、あの可那子が孫を可愛がっている。

一昌もまるで数馬に与えなかった愛を孫に注いでいるかのようだ。

千代が生きていたら、どんなにか喜んで可愛がっただろう。


夜、幼い子を寝かしつけるのを待っていた数馬が忍を後ろから抱き締める。

「忍………愛してる。」と耳元で囁いた数馬は忍を抱き上げてベッドへ行く。

愛し合う二人の長い夜が始まった。

甘い囁きと共に………。


◇◇◇◇

過去には夫に愛されていない悲しみと苦しさを経験した忍。

今は信じられないほどの愛を数馬から受け取っている。

最初の結婚の時の指輪が2つ、そして記憶を失っていた時の挙式での指輪が2つ。

合計4つの指輪が忍と数馬の夫婦の部屋にガラスのケースに入れて大切に飾られている。

信じられないほどの幸せな日々を忍は送っている。

幸せがやって来た。


陽、新、翔にも……。

そして、静にも……あの華蓮にも……。


それぞれが平々凡々とした暮らしの中にこそ、幸せがあるのだと感じている。

そして、辛いことが無い人生は無いのだと思う時、それを、どう乗り越えるのか……が幸せに繋がると信じている。

乗り越えた経験が次に繋がっている。


「どうした?」

「ううん、何でもないの。」

「気になるなぁ……教えて。」


数馬が忍を抱き締めながら甘い声で囁く。

幸せの在り処は、そこに……。

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