数馬の想い
相馬に忍から連絡があった。
「数馬に会いたい。」という話だった。
相馬はこの時を待っていた。
「若奥様」とまた以前のように呼ぶようになったのは、敢えて!だった。
戸川本家の執事・橋本旭に習い同じように呼んだ。
橋本、そして自分の願いが、もしかしたら叶うかもしれないと相馬は思った。
「社長。」
「なんだ、相馬。」
「忍様からご連絡を頂きました。」
「忍から! 何かあったのか? 忍は無事なんだろうな。」
「………社長………実は………。」
「早く言え! 何があったんだ!」
「忍様が……………。」
「相馬! 早く言え!」
「社長に会いたいと…………。」
「……………!」
「社長?」
「………………………相馬、今日は4月1日ではない。」
「社長! 何を仰っておられるのですか。」
「エイプリルフールではない。」
「社長………忍様が社長に会いたいと仰っておられまして、日時を決めて欲しいと
仰っておられました。」
「相馬………ドッキリに引っかからないぞ。」
「社長~~っ! いい加減にして下さい!
何時が宜しいでしょうか?
空いているのは最短で明後日の午後7時以降でございます。」
「…………………えっ?」
「もう一度申します。
最短で明後日の午後7時以降でしたら、空いております。
その日時で宜しいですね。
場所も私が決めておきます。
後程、予約が取れましたら、ご報告致します。」
「…………相馬……嘘では無いのか?」
「社長~~~っ! 嘘ではございません。」
「…………夢なのか?」
「夢ではございません! 現実でございます。」
「相馬、こっちへ来い。」
「えっ?」
「早く!」
「はい。
……………………痛っ! 何をなさるんですか?」
「痛い………夢ではない………!」
「社長、ご自分の頬を抓って下さい!」
忍と数馬が会う日時と場所が決まった。
数馬は決まった時から、ソワソワして落ち着きが無い。
相馬に「社長、お仕事が溜まれば、お約束の日時に行くことは叶いませんよ。」と言われたり、ぼんやりしていることが増えたので相馬に叱られて、思わず「忍に……会えるんだな。」と笑みを零しては相馬に「仕事をして下さい。」と言われる始末だ。
そして、急に思い出して叫んだ。
「会ってはいけないんだったっ!」
「社長?」
「離婚公正証書の条件の一つに、二度と会わない、が……あった。」
「社長、落ち着いて下さい。
それは社長から会いに行ってはいけない、でしたよね。
忍様からでしたら、問題は無いかと存じますが?」
「あ゙あ゙―――っ! 僕は…………。」
「社長、コーヒーでも飲まれては如何でしょう。
少し落ち着かれては?」
「そうだな、頼む。」
「承知致しました。」
⦅あ゙あ゙―――っ! もお! こんなポンコツになるなんて思わなかった。⦆
苦笑を洩らしながら相馬はブラックコーヒーを数馬の前に出した。
⦅これは、忍様に会うまで続くな……仕事にならないじゃないか……参ったなぁ……。⦆と思い、出来得る限りのサポートをするのが秘書の役目だと気を引き締めた。
そして、若い上司の恋が成就することを心から望んだ。




