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幸せの在り処  作者: yukko
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被害者保護

忍は記憶を取り戻してから、頻繁に過呼吸になったり、恐怖で身体が震え声も出ずに膝を抱える時もある。

病院での精神療法が効果をもたらすには時間が掛かるようだ。

弥生は傍で見守る辛さを味わっている。

忍の状態は、通院時に送迎をしている相馬から数馬の耳に入る。

忍が苦しんでいる姿を目にしていなくとも、数馬の心を打ち砕いた。

せめて忍の傍で忍を支えてくれている弥生をサポートしたいと数馬は思っているが、どうすれば良いのか分からない。

数馬は何も出来ないことが情けない。

ただ一つ出来ること、それが会わないことだった。

――二度と再び忍の前に姿を現さない――それだけしか数馬には出来ない。

数馬は陽を呼んだ。


「数馬、どうした?」

「陽………華蓮を民事で訴える方法は無いか?」

「民事で? 会社は……。」

「違う! 忍が華蓮を民事で訴えることだ。」

「出来るけど………忍さんが原告になって貰わないと……。

 それが難しいと思う。」

「どうして?」

「忍さんの弁護士、一応、僕だけど。

 まだ話してないんだ。」

「話してくれ。」

「どうだろう………記憶を取り戻したけど………。

 今は聞くことを控えた方がいいと思う。」

「そうか………。」

「刑事事件の係争中は民事での裁判は原則不可だ。

 ただし、刑事事件の手続の中で、例外的に一定の事件については「損害賠償命令

 制度」が設けられており、被害者の申立てがある場合には、刑事事件の審理を担

 当した裁判官が、有罪判決を下したあと、引き続いて損害賠償請求も審理するこ

 とが出来る。」

「華蓮は? 華蓮に対しては?」

「華蓮の犯罪がどう裁かれるかだな。

 実行犯には請求出来るけど………華蓮は少し裁判の行方を見てからにするつもり

 だ。」

「それは、華蓮の出所を遅らせられるのか?」

「数馬………君は馬鹿か?」

「そうだな……馬鹿だ。」

「否、そこは一応、否定しようよ。」

「馬鹿なんだよ、僕は。」

「はぁ…………数馬………この場合は治療費などの請求だからな。

 聞き落としたんだろうけど、損害を請求するんだからな。

 華蓮を長く刑務所に入れるなど、この制度では無理だ。」

「華蓮が出て来たら、忍に何かするかもしれない。

 僕は絶対! 華蓮が忍に近づくのを阻止したい。

 頼む。 陽、何とかして欲しい。」

「数馬……日本の法律ではな。

 加害者の服役中の態度や出所時期を被害者側が知ることが出来るようになった

 が、出所後の住まいの情報提供については今も仕組みが無いんだ。

 だから、華蓮が何処かに住んだとして、忍さんが知ることは無理なんだ。

 お礼参りの不安は、刑事事件の被害者だけが負うんだよな。」

「じゃあ、守れないのか………。

 何かされた後では遅いんだぞ!」

「分かってるよ。保護命令制度があるけど……。

 接近禁止命令は、たったの6ヶ月だぞ。」

「じゃあ、ボディーガードしかないのか。」

「そうだな、数馬なら出来るだろう。」

「分かった。今から選ぶ。

 弥生さんに伝えてくれ。」

「分かった。」

「忍………忍にも……ちゃんと怖がらないように……頼む。」

「分かった。」


数馬は忍を拉致し傷害を負わせた事件の実行犯と指示していた華蓮から、忍を守り抜きたいと思っている。

そのためのボディガードを雇うと決めた。


「数馬……思い付いて、今直ぐやりたいんだろうけどな。

 今しなくていいから………な。」

「でも…………。」

「まだ、拘置所だぞ。

 刑務所にも入ってない。

 刑期の終わりが近づいた頃から忍さんを守って貰ってもオッケーだぞ。」

「あ………そうだな、うん、そうだ。」

「数馬、君は忍さんのことになると、あれだな、あれ………。」

「なんだよ、あれ、あれ、って五月蠅いな。」

「馬鹿になる。」

「馬鹿だよ、僕は…………どうしようもない馬鹿なんだ。」

「否定しないのか………数馬…………君は、忍さんを守らないとって意識が強すぎ

 て、ちょっとしたパニック状態だぞ。」

「………………………。」

「しっかりしろよな!」

「うん。」

「そんなんじゃ、守れないぞ。」

「うん、分かった。」

「それから、食べて寝ろ! 仕事も少しは減らせ!

 身体壊すぞ。このままじゃ。」

「うん………陽は、」

「うん?」

「春は、僕のお母さんだな。」

「あ゙あ゙ぁ? 僕は独身だ! そして、男だっ!

 そんな大きくて可愛げが無い息子を持った覚えはない!

 減らず口叩いてる暇があるんだったら、仕事しろ!

 そして早く帰って、チャンと食べて、寝ろ!

 僕はもう帰る!」

「陽! ありがとう。」

「食べて寝ろ!」


⦅あんなこと言って心配してくれるのが、お母さんなんだろうな。

 僕のお母さんは……違ったな。

 …………弥生さんはお母さんだな。

 忍を守ってくれてる。

 弥生さんが倒れないように、僕が出来ることは経済的な援助しかないのかな。

 忍…………乗り越えて………いつか、心からの笑顔を取り戻せますように!

 遠くから……祈ってる。⦆


数馬は眠れなかった。

僅かな睡眠も悪夢で目覚める。

忍の拉致事件から続いている。

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