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幸せの在り処  作者: yukko
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人生の分岐点①

忍の頬には次から次へと涙が流れ落ちる。

忍は走って店を出て息も切れていた。

涙は止まらない。

息が切れて立ち尽くしてた。

その時、相馬仁が声を掛けて来た。


「忍様……相馬でございます。」

「……………相馬さん………。」

「お送り致します。」

「いいわ。」

「いいえ、忍様の御身体が心配でございます。

 何卒、私に送らせて下さい。

 お願い致します。」

「彼が言ったの?」

「はい。」

「じゃあ……断ると相馬さんに迷惑が掛かるのね。」

「忍様、私は社長のご判断でなくとも、お送り致します。」

「相馬さん………。」

「社長は、もう忍様の前には……お見えになりません。

 どうぞ、ご安心下さい。」

「そう………相馬さん、送って下さい。

 お願いします。」

「はい!」


車中で忍は何も話さなかった。

相馬も言葉を掛けず、ハンドルを握っている。

ただ、後部座席の忍を時々確認するように見る。

涙は止まっているか……相馬は気にしながらハンドルを握っている。


忍は、あの島の病院から数馬がどんなに傍に居てくれたか知っている。

優しく抱き締めてくれたことも知っている。

一生聞くことが無いと思っていた数馬からの「愛している。」という言葉も……ちゃんと覚えている。

記憶を失ってからの数馬との日々を忍は忘れていない。

だから、混乱している。

自分の気持ちが――今も数馬を愛している――と言っている。

でも、許せないのだ。

どうしても華蓮が、彼女の姿が、忍の目にちらつく。

あの愛されていると自慢たっぷりの笑みが忘れられない。

相馬が口を開いた。


「忍様、お具合は如何でしょうか?」

「……大丈夫です。心配しないで下さい。」

「記憶は全て取り戻されたのでしょうか?」

「全てじゃないわ。」

「左様でございますか。

 ご両親様のことは、全て思い出されたのでしょうか?」

「そうね、たぶん………どこまでが思い出したのか、それも分からないの。

 話を聞いて自分で思い出したと、そう思っているのかな~とか……。

 自信は無いの。」

「左様でございますか。

 あの、大旦那様と大奥様のことは……如何でしょうか?」

「分からないの………ごめんなさい。」

「いいえ! 忍様が謝られるようなことは一切ございません。」

「………相馬さん。」

「はい。」

「相馬さんは、ずっと優しかったから、私は本当に………。

 ありがとうございました。」

「忍様…………そんな……当然のことでございます。

 お礼を言って頂けるようなことはしておりません。」

「ううん、本当に助かったの。

 あの日々で………相馬さんだけが優しかったから………。」

「忍様………忍様は社長の唯一の奥様でございます。

 誰が何と言っても、それは変わりません。」

「相馬さん、ありがとう。」

「忍様、もう直ぐ到着します。」

「ええ、そうですね。」


忍は⦅何時から相馬の呼び方が変わったのかな?⦆と思った。

記憶の中の相馬は忍のことを「若奥様」と呼んでいたように思う。

それが今は「忍様」。

その変化が気になった。



その日から数馬は忍との連絡を絶った。

会いに来ることも無い。

診察日は相馬だけがやって来る。

相馬に送迎をして貰っている。

忍はバッグに入れようとスマホを手にした。


「忍、スマホはなくなったんだよね。

 今日から、このスマホを使って。」

「ありがとうございます。」

「使い方、覚えてるかな?

 このスマホ、忍が持っていたスマホと同じ物だよ。」

「そうなんですか?」

「うん、使い方、思い出せそうかな?」

「………難しそうです。」

「そっか……じゃあ、説明するね。電話する時はね………。」


数馬は優しく教えてくれた。

そのことを忍は覚えている。

そして、数馬が忍のスマホの通信費も、通院に掛かる治療費も全て支払ってくれている。

今の忍は、数馬の妻だから経済的に苦労していない。

母にも忍の分まで経済な負担を掛けていない。

記憶もまだ、断片的で全てを取り戻していない。

まだ……治療費は掛かる。



数馬の会社の顧問弁護士である加賀陽から電話が架かって来た。

自宅の固定電話に……。

陽は忍に数馬との離婚についての話し合いをしに来ると言う。

忍は日時を決めて会うことにした。


「今日は御時間を頂き、ありがとうございます。

 これから離婚に向けての話し合いをさせて頂きます。」

「よろしくお願い致します。」

「こちらこそ、よろしくお願い致します。

 ………忍さん、私と会うのは辛いことを思い出して嫌だと分かっています。

 ですが、どうか受け入れて頂きますようお願い致します。」

「………加賀さん………色々ありました。

 でも、貴方はいつからか分かりませんが、他の方とは違うようになられたと思い

 ます。

 他の方と一緒になって私のことを蔑むことがなくなったように思います。

 だから、大丈夫です。」

「そうですか……それだけが気掛かりでした。

 では、始めさせて頂きます。」


加賀陽との話し合いが始まった。

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