カウントダウン
忍は数馬と何度もデートをした。
デートといっても実家から余り遠くない場所。
実家近くで過去に忍が言ったことがある場所。
そこを歩いて記憶を取り戻す為だ。
歩いていると行き交う女性達が数馬を見る。
その眼差しは、まるで一目惚れのようだ。
そして、隣を歩く忍を認めると必ず「何ぃ? あれ……釣り合わないわ。あんなのが隣でもいいなら、私達の方がいいよね。」などの言葉が忍の耳に入って来る。
忍は段々自信が失われていく。
今日は実家からそれほど遠くないシッピングモールへやって来た。
今日も数馬は行き交う女性の眼差しを集めている。
また、忍は落ち込んでしまった。
落ち込んでも数馬に悟られないように明るく振舞っていた。
デートの時、ショッピングモールの御手洗いで鏡を見た。
⦅どうして、こんなにも不釣り合いなのか。⦆と思った。
身長差も大きい。
目鼻立ちがスッキリ整っている麗しい顔の数馬。
忍は………平面的な顔だと鏡に映し出された自分の顔を見て思った。
足が長くアングロサクソンのような身体の数馬。
見るからに昔の日本人の体形の忍。
⦅あはっ……ちんちくりん……だ。⦆と自嘲するしかない。
その上、胸に刺し傷がある。
⦅あれっ? 刺し傷? なんで? 何処で? あれっ?⦆と思っても、何処で刺されて出来た傷か分からない。
傷は服を着ていれば誰にも見られない。
⦅でも、ここにある。⦆と胸に手を当てた。
忍は動けなくなった。
御手洗いから少し離れた所で数馬は待って居た。
その間も女性の眼差しを集め、中には声を掛けてくる女性も居た。
「お一人ですか?……宜しければご一緒させて下さい。」
「否、妻を待って居るので…………。」
「奥様が……そうですか。」
数馬は視線さえも合わせずに「妻を待って居る。」と言ったきり、女性を無視した。
⦅遅い……忍……何かあったのか……遅いけど、トイレだから中に入れない。
倒れたりして無いだろうな……心配だ。⦆
勇気を出して、数馬は御手洗いの前まで行った。
「忍っ! どうしたんだ?」と声を出したかった。
すると、中から声がした。
「大丈夫ですか? 誰か! 誰か!」
数馬は後先考えらずに「忍っ!」と呼びながら、女性の御手洗いに入った。
すると、洗面台の前で忍が倒れている。
「忍っ!」と呼んでも動かない。
抱き上げて御手洗いを出た。
助けを呼んでくれていた中年の女性が忍のバッグを数馬に渡して「ご家族なの?」と問うた。
数馬は「僕の妻です。」としか答えられなかった。
「お気をつけて!」
「ありがとうございます。急ぎますので失礼します。」
「ええ………大丈夫よ。きっと奥様は大丈夫だから……。」
中年の女性の声を背にして、数馬は忍を抱きながら走った。
走って駐車場へ向かった。
車には相馬仁が居る。
「どうなさいましたか?………忍様!」
「病院へ行く。急いでくれ。」
「はい。」
病院へ到着してから、相馬から弥生に電話で連絡を取った。
弥生の到着を相馬は病院の正面玄関で待って居る。
数馬は心臓を握られたような痛みを感じている。
「忍………忍………助かってくれ。頼む、忍………。
もう失いたくない。
生きていてくれさえすれば………それだけが僕の望みだ。
忍……………助かってくれ。」
苦しい時間だった。
永遠に続くような気さえした。




