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幸せの在り処  作者: yukko
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「お父さん」との想い出

結婚しても忍は実家で弥生と暮らしている。

弥生が「記憶が戻ってから数馬さんと暮らす方がいいわ。」と言い、周囲もそれに賛成したからだった。

忍は数馬と暮らせないことが、何故だか引っ掛かっている。

それに、結婚式の時、集合写真を撮った。

その中に数馬の友人は入っていない。

入らなかった。

「今日は撮る役を仰せつかったので……。」と言い、3人は集合写真に入らず、写真を撮っていた。

⦅3人とも? 写真を撮る役?⦆と思ったけれども、「そうなんですか。」と言うしかなかった。

出来上がった写真を見た時、数馬が寂しくないのか心配だった。

でも、時間の経過と共に不自然だと思うようになった。

何がか分からないが、何かあるのではないかと思った。

数馬は1週間に3回ほど来てくれる。

通院にも付き合ってくれる。

でも、それだけだ。

忍は寂しいと思うようになってしまった。

数馬が来た時、聞いてしまった。弥生が居るのに………。


「私は本当に数馬さんの妻なのですか?」

「え……………。」

「記憶が無いので、教えて欲しいのです。

 私は妻ですか?」

「………うん、忍は僕の妻だ。

 どうかしたの? 何があった?」

「抱き締めても貰えない……………キ……キスすらして貰えない。

 妻なのに…………。」

「忍…………。」

「結婚式の時も……キスは……おでこ。」

「忍……それは…………記憶が戻ってからでも………。」

「………私のこと……好きじゃないからですよね。」

「好きだよ! 愛してる!」

「じゃあ、何故! 何故ですか。」

「………それは………。」

「忍っ! 止めなさい。」

「………お母さん……私は………。」

「戸川さんを困らせるのは止めなさい。

 妻の母の前で……そんな話を戸川さんは出来ないわ。」

「あっ!」

「それに、そんなことも含めて、島に居る時と同じように接して下さいってお願い

 したのは私よ。」

「お母さんが?」

「ええ、そうよ。

 記憶を取り戻してからにして欲しいってお願いしたの。

 今の忍は、青木忍の記憶さえ無いのよ。

 せめて青木忍の時の記憶を取り戻してからでも遅くないわ。

 急がないで、ゆっくり取り戻して欲しいの。

 今も私のことさえ思い出していないんでしょう。

 母親を思い出せていないのだから、夫を思い出せなくて当たり前なのよ。

 夫婦だと思い出してからでも、遅くないわ。」

「………そうですね。

 お母さんって、呼んでますけど……実感が無いんです。

 お母さんって、分からないのですものね。

 ……お母さん、寂しいですよね。

 ごめんなさい。もう我儘言いません。」

「忍…………私こそ、ごめんね。

 酷い言い方してしまったわ。ごめんね。」


その日、数馬は散歩に誘った。

実家近くを歩いた。

夜の実家近くの道を歩いていなかった。

夜は家から出ていない。

見上げると夜空の星が煌めいている。

実家近くの公園で忍はブランコに座って漕いだ。


「この公園……初めてじゃない………。」

「そうなんだ………思い出した?」

「うん……このブランコ……お父さんと…………。」

「え……………。」

「お父さん…………お父さんと…………。」


忍の目が涙で一杯になった。

父の顔が浮かんできたのだ。

何度も何度も「お父さん………。」と繰り返し呼ぶ。


「夜、私、ここで父にブランコを漕いで貰いました。

 それは、母方の祖母が亡くなる前だったと思います。

 家族でお見舞いに行って、母だけ残って、父と帰ったんです。

 帰り道で、この公園………父が遊んでくれた。

 父は………もう亡くなったんですよね。」

「あぁ………お父さんのことを思い出したんだな。」

「ええ、でも亡くなったことは思い出せないままで……。

 親不孝ですね。」

「忍…………親不孝なんかじゃないよ。

 君は生きている。

 親より長く生きることこそが親孝行だと僕の祖母は言ってる。

 だから、君は親不孝なんかじゃない!」

「数馬さん……ありがとう。」

「忍…………。」


数馬は泣いている忍を思わず抱き締めていた。

そして、知らぬ間に言っていた。


「忍、産まれて来てくれて、ありがとう。

 生きていてくれて……ありがとう。」


忍は数馬の腕の中で泣き続けた。幼子のように………。

⦅忍は断片的に記憶を取り戻している。いつか……僕がしたことも思い出す。いつか、その日がやって来るんだ。必ず………。⦆と思いながら、忍を抱き締めていた。

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