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幸せの在り処  作者: yukko
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結婚式①

忍が望んでいるから――という理由で結婚式を挙げることが決まった。

忍の母・弥生は驚いて、当初は反対した。


「記憶が戻ったら、あの子はどう思うのか………分からないのに………。

 挙式だなんて……。」

「………済みません。今は何でも望みを叶えてあげたいんです。」

「記憶が戻った時……何て言うんですか!」

「そのままを伝えます。

 結婚式の写真が欲しいと……言ったこと……。

 記憶を取り戻しても、今の記憶は消えません。

 そう聞いています。

 だから、自分が望んだと分かっているはずです。」

「それは私も理解しています。

 でもね、自分で望んだと分かるからこそ、あの子は自分を許せなくなるのでは?

 それが、私は怖いのよ。」

「それは………そうですね。僕も怖いです。

 また忍を傷つけてしまう……怖いです。」

「やれば良いではないか。」

「おじいちゃん……。」

「大旦那様! でも………。」

「その時に、傍に居てやるんだろう?

 母親として……きっと最悪の選択を忍はしないよ。

 それほど弱い子じゃないよ。

 父親の死も乗り越えられたんだ。

 普通の亡くなり方じゃない。

 弥生さん、親子二人で乗り越えたんだから、これからも乗り越えられる。

 きっと……乗り越えられるよ。

 その為になら、どんなことでもする。

 支えさせて欲しい。頼む。」

「大旦那様!」

「少し、考えて頂けませんか。お義母さん……お願いします。」

「分かりました。」


弥生が考えると数馬に返事した日。

帰宅した弥生に忍が話し掛けた。


「お母さん、数馬さんと会ったの?」

「えっ!……………ええ、お会いしたわ。」

「何の話だったの?」

「忍………。」

「あのね、数馬さんが言ってくれたの。

 結婚式をしよう!って………。

 その話だったんですよね。

 あの………それで、どうなりました?

 数馬さんと私の結婚式………。」

「………忍……結婚式……したいの?」

「…………いけませんか? 記憶が無いのに……。」

「ううん、そんなことは……無いのよ。」

「記憶が無いんですけど……私………数馬さんのこと……すき……なんです。」

「忍……………。」

「気が付いたら、目で追っていて……会いたくて堪らなくて………。

 これが、好きってことなんだって………聞いたんです。

 島で……隼人さんも奥さんに、そういう気持ちだったって聞いたんです。

 好きな人と夫婦なんですけど、夫婦じゃないみたいな変な感じで…………。

 夫婦なんだなぁ~って実感したいとか……これから子どもを授かっても写真すら

 ないのは悲しいな……とか思いました。」

「そうなのね。」

「我儘だって分かってます。

 でも、写真だけでも欲しいんです。」

⦅これは、記憶を失う前の忍の願いの一つだったのかもしれない……。⦆

「そうなのね。

 忍、記憶を失ったってことは辛いことを経験したからなの。

 思い出した時、より一層辛くなるかもしれないの。

 でも、必ずお母さんが傍に居るから。」

「辛い経験の一つは……結婚式を挙げられなかった過去ですね。

 でも、叶えられたら良い経験に変化すると思います。

 だから、結婚式挙げさせて下さい。

 披露宴とか要りません。

 式を挙げるといっても私には数馬さんとお母さん、それから、おじいさんとおば

 あさん………4人しか居ません。

 その人数で写真だけでも撮らせて下さい。

 お願いします。」

「そうね。

 大旦那様………あっ、おじいさんが仰ったの。

 忍が望むようにしてあげよう、って………。」

「いいんですか?」

「ええ、戸川さんに連絡しましょうね。」

「私が電話します。」

「忍……大丈夫?」

「電話の架け方、教えて下さい。」

「ええ、教えるわ。」



忍の結婚式が決まった。

結婚式と言っても、出席するのは弥生と一郎夫妻、そして次郎夫妻である。

弥生は福岡に居る山崎光と結弦夫妻も招きたいと願った。

忍の記憶に無い友達だけれども、出来れば招きたいと頼んだ。

戸川家では問題ないと返事があった。

その返事を受けて「身内で挙式する」と連絡した。


「おばさん、いいんですか?」

「いいのよ。忍の望みなの。」

「でも……あんなことした奴とぉ?」

「あんなことしたけれども、今は忍への贖罪でいっぱいなのよ。

 それに忍が……また恋したの。」

「えっ! まさか……の、まさか……ですか?」

「まさか、の、まさか、よ。」

「そんなぁ~~っ、あんな目に遭ったのに、なんでよっ!」

「好きなんですって……気が付いたら、そうなってた、って言うのよ。

 頬を染めて言うの。」

「あぁ………前と全く同じですね。」

「ええ、でも少し違うのよ。」

「何が違うんですか?」

「戸川さんが忍のこと……好きみたいなの。」

「えっ!………嘘ですよね。」

「信じられないと思うけど……見てたら分かるわ。

 恋してる二人……なのよ。」

「恋してる二人なんですか………はぁ………なんで、また………。

 でっ、どんな結婚式をするんですか。腹立つけど聞きます。」

「写真だけでいいって忍が言うのよ。

 花嫁衣装を着て、写真を撮って、身内だけで食事したい、って言ってるわ。」

「忍の身内って、おばさんだけ?」

「ええ、そうね。どちらの親も、もう亡くなって居ないから。

 あの子には祖父母が居ないのよね。

 私も夫も兄弟とは疎遠だし……。」

「駆け落ちでしたっけ?」

「ええ、そうなの。私が高校生だったから……。

 卒業して直ぐに結婚したくて、親は許さなかったのよ。

 主人の方も、兄弟仲が悪くてね。

 寄り付かなかったのよね。」

「そうなんだ。」

「だから、光ちゃん、遠いけど、二人で来てくれる?」

「え………いいんですか?」

「記憶が無いあの子にとっては、来て欲しい人ではないの。

 ごめんなさい。」

「それは当然です。気にしないで、おばさん。」

「ありがとう。ただ、本来、あの子にとって光ちゃんは特別なお友達だから。

 来てやって欲しいの。

 お願いします。ご主人様と一緒に……。」

「おばさん、ありがとうございます。

 是非とも夫婦で参列させて頂きます。

 お祝いの席でなんですけど……しーちゃんに聞かれないように気をつけて!

 一言、いや!二言も三言も言ってやりたいんですよ。 あやつに!

 それも兼ねて伺います。

 おばさん、喜んで出席させて頂きます。」

「ありがとう。光ちゃん。」


弥生は結婚式の場所、日時や衣装などが決まってから、福岡には葉書を出した。

忍と数馬の挙式が迫って来た。

数馬は忍に似合う花嫁衣裳を着せたいと思った。


「和装か洋装か……どっちにする?」

「ウェディングドレスに憧れてたの。」

「そっか、じゃあ、ウェディングドレスに決まりだな。

 見に行こうな。」

「うん………あの、レンタルってどのくらい掛かるの?」

「披露宴とか大勢を招いてしないから、費用は少なくて済むよ。」

「でも! 私は働いてないから……払えない。」

「忍は専業主婦だったんだ。」

「専業主婦?」

「そうだよ。外で働いてなかったが、家を守ってくれてたんだ。

 僕が………僕が……働きやすいように……僕のことを最優先で………。」

「数馬さん?」

「だから、気にしないでくれ。僕が出して当たり前なんだから。」

「本当にいいんですか?」

「いいに決まってる。」


忍の頭の中で「いいに決まってる。」と数馬の声が繰り返される。

今、目の前に居る数馬が忍に向かって言っているその言葉は、別の人に向かってのみ繰り返された言葉のような光景が思い浮かんだ。

いつも見ていたような光景。

その光景は靄が掛かっている。


⦅嫌だ………嫌………………嫌ぁ――っ。⦆


その瞬間、忍は倒れてしまった。


「忍っ!………忍………忍………。」


数馬は直ぐに病院へ連れて行った。

気を失っている忍が永遠に帰って来ないような気がして数馬は怖かった。

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