二人の時間
忍が望むことは全て叶える――それが、今の数馬。
忍が「結婚式の写真だけでもあれば良かったのに……。」とポツリと言った。
それは、二人で出掛けた動物園で……親と子が多く来ていたからだった。
その家族の姿を見て、ポツリと言ったのだ。
言ってしまってから、はたと気付いた忍は、数馬が気付いたかどうかを案じて、数馬の横顔を盗み見た。
数馬と視線が合って、忍は俯いてしまった。
「忍……結婚式、挙げたいんだよな。」
「ううん、いいです。」
「でも、今………。」
「いいんです………無くとも……無い夫婦もいますよね。」
「それは、そうだけど……挙げてあげられなくて、ごめんな。」
「仕方ないじゃないですか。
だって、コロナだったんですよね。
緊急なんとかが出て……仕方ないです。
気にしないで下さい。」
「………家族を見て思ったのかい?」
「え……………あの……えっとぉ………。」
「話してくれないか。
僕は知りたい。」
「………ビックリしないで下さいね。」
「しないよ。」
「あの……ですね。
もし……私達に子どもが生まれたら……両親の結婚写真があったら……その……
いいかなぁ~って思ったんです。
ただ、それだけです。
うふっ……まだ赤ちゃんが生まれてないのに、変ですよね。」
「無事に生まれて来てくれてたら、もう4歳になってる。
否、5歳か……もう籍を入れて6年になるのか……。」
「え………流産したんだ。」
「流産……………。」
「ごめん、ショックだったよな。」⦅流産が2回も……言えない。⦆
「ううん………そっかぁ………流産したんだ。
流産………妊娠出来る身体なんですね。私………。」
「あ…………うん、そうだな。」
「うわっ………………。」
「どうした!」
「あわわわ……………。」
「忍?」
「済みません…………私ったら………。」
「何?」
「内緒です。」
「無理!」
「えっ?」
「話さないと………どうしようかな?」
「え………もう会ってくれないんですか?」
「え………それは………。」
「会って下さい。」
「うん………えっと……それで、何なんだ?」
「え………………………あ……端ない女だと……思わないで下さい。」
「うん、分かった。」
「耳……貸して下さい。」
「うん。」
長身の数馬が屈むと、小さい忍が少し背伸びをした。
そして、忍は数馬の耳に手を当てて周囲に聞かれないようにして囁いた。
耳まで真っ赤にしながら囁いた。
「あの……そういうこと……したんですね。」
「………………………。」
「あ………………帰ります!」
「待って! 忍。」
数馬は立ち去ろうとした忍を抱き締めた。
「うん、僕達は夫婦だから、寝室は一緒だったよ。」
抱き締めて忍の耳に、数馬はそう囁いた。
腕の中の忍は耳まで真っ赤で、何も言わなかった。
数馬は可愛くて堪らなくなった。
「結婚式、しようか。」
「えっ? いいんですか?」
「お義母さんと相談してからでないと無理なんだけど……。」
「私、聞きます。」
「僕からお願いするんだ。
僕からのお願いでないと……意味が無いから……。」
「何か分からないですけど……数馬さんが言う通りにします。」
「そうして貰えると嬉しいよ。」
「あの………何時まで……このまま?」
「肩を抱いたまま歩いていいかな?」
「お……お願いします。」
数馬の手が忍の肩に………。
忍は嬉しくて天にも昇る気持ちだった。
でも、頭の中で警告音が鳴り響く。
「数馬を許さない。」と………。
忍はそれを、また無視した。




