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幸せの在り処  作者: yukko
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戸川本家

戸川本家では、今、一郎と次郎が一昌と可那子夫婦にこれからのことを話している。

一郎は一昌に会長職のまま海外へ行くことを了承させようとしている。

夫婦で行くように話している。


「お父さん! 私を何処へ赴任させるのですか?」

「そうですわ。会長が海外なんて……聞いたことがございません。」

「一昌、君は会社をどうしたい?」

「それは大きくしたいと思っています。」

「大きく……。」

「はい。」

「その結果、どうなった。」

「………それは……………。」

「でも、お義父様。会社は大きくなりましたわ。」

「可那子さん、今は兄が息子である一昌と話しています。

 貴女に兄は話し掛けていませんよ。

 一昌に答えさせるように。」

「………申し訳ございません。」

「一昌、君は妻に答えさせるのか?

 彼女は経営陣に入っていない。

 自ら答えなさい。」

「はい、お父さん。」

「で、どうなったんだ?」

「会社を多角経営しました。

 各部門を拡大させました。」

「それで?」

「…………破綻寸前まで行きました。」

「そうだ。だから、本来は会長職も与えたくなかった。

 私が会長職を辞する時、息子を優遇してしまった。」

「お父さん…………。」

「社長にしたのも間違いだった。」

「お父さん…………。」

「それでも、今も私は息子の君を優遇しようとしている。

 会長職を辞するように言うべきだと思う。

 だが、頑張る君の後姿を数馬に見せたい。

 海外で一から始めないか?」

「お父さん………。」

「アメリカへ一時的に行かせたのも、いずれ時が来れば、と思ったからだ。

 今がその時だと思う。」

「では…………。」

「アメリカへ行け。

 アメリカに進出した事業をやりなさい。

 進出を決めて始めたのは一昌、君だ。

 途中で放り出したままにするな。

 立て直せ。いいな。」

「お父さん、もう決まったことですよね。」

「正式発表前の今、家で話している。

 正式な発表は1週間後だ。

 君の答えを待つ。

 熟慮しなさい。」

「……はい、お父さん。」

「それから、可那子さん。」

「はい。」

「数馬は離婚していない。

 だから、再婚相手を探すのは止めなさい。」

「お義父様、お言葉でございますが、あの嫁は数馬の妻に相応しくありません。

 数馬の妻に相応しい女性を、私は戸川家の嫁に迎えたいだけでございます。

 良い子がおりますのよ。

 その令嬢は銀行の頭取のお嬢様なんですの。」

「可那子さん、離婚していないのに、先に再婚相手を探したのか。」

「はい。」

「お相手にまさか……話していないだろうね。」

「もうお話を進めておりますの。」

「馬鹿者っ! こんな愚かなことを………。」

「貴方のような人から馬鹿者呼ばわりされるような生まれではございません。」

「馬鹿にバカと言って何が悪い!」

「酷いっ! 酷うございます。

 ………あなた、もう帰りましょう。」

「可那子…………。」

「一昌、君は妻に振り回させるだけの人生を送るのか?」

「お父さん…………。」

「非常識だと思わないのか?

 お相手に対しても……離婚していない男との縁談だと!

 何処から見ても、どう考えても、非常識だ。

 一昌、君から縁談の話をお断りしなさい。」

「あなた! そんなことは許しません!」

「一昌、君が非常識だと言われることが分からないのか?」

「あなた! 早く帰りましょう。」

「…………可那子……君だけ帰りなさい。」

「あなたっ!」

「私はまだお父さんと話をするから、いいね。一人で帰りなさい。」

「あなた………分かりました。帰ります。

 あなた、家に帰って来たら……分かりました?」

「あぁ……分かってる。」

「では、お義父様、失礼致します。」


可那子が部屋から出て行くのを見送った3人。

向き合ったまま話を誰も始めなかった。

その時、数馬が入って来た。


「遅くなりました。」

「数馬、良く来た。

 忍は? 忍の具合はどうだった?」

「はい、元気に暮らしているようです。」

「そうか……良かった。」

「数馬、忍ちゃんを一度、本家に連れて来てくれないか?

 私も妻も会いたいんだ。

 どうだろうか?」

「次に会う時に話してみます。」

「うん、頼むよ。」

「はい。」

「数馬。」

「はい、おじいちゃん。」

「おじいちゃんか……懐かしいな、最近はおじいさんだったから……。」

「所で、御用は何ですか?」

「忍と別れるのか?」

「そうなると思います。

 忍の記憶が戻ったら………。」

「そうか……離婚したら再婚する気はあるのか?」

「ありません。」

「全く無いと言うのか?」

「全くありません。」

「そうか………済まなかった。」

「おじいちゃん?」

「忍との結婚をさせてしまったのが間違いだった。」

「……おじいちゃん。」

「君が忍を憎からず想っていると……思っていたから、話を進めたかった。

 忍は数馬に想いを寄せていたから、な。」

「おじいちゃん…………。」

「忍があんな目に遭ったのは、数馬だけの責任ではない。

 私の責任だ。済まない。」

「おじいちゃん、おじいちゃんのせいではありません。

 全ては僕が悪かったから………。」

「離婚しても守ってやりたい。私にとっては可愛い孫嫁なのだから……。」

「お父さん……。」

「何だ? 一昌、忍は良くやっていた。

 それなのに、まだ不満があるのか?」

「それは…………。」

「君は恋愛結婚だったな。」

「はい。」

「私の二の舞だけは止めてくれ。

 数馬の気持ちを勘違いしたまま忍と添わせてしまった。

 数馬、それから忍が望むようにさせてくれ。」

「………はい。」

「守ってくれよ。今の言葉を………。

 それよりも、一昌、アメリカには可那子さんを連れて行け。」

「夫婦で……ですか。」

「その方が良い。夫婦はなるべく離れない方が良い。

 私達夫婦のように年老いると離れたくなくても、永遠の別れが待って居る。

 死という名の別れが……。」

「そうだぞ、私達も先がそう長くない。

 最期まで添い遂げたい。

 それも離れた場所ではなく、な。

 一昌も、もう若くないんだ。

 可那子さんと二人でアメリカで暮らし、事業をやり直すことを考えて欲しい。」

「叔父さん………会社のことは数馬の方が経営出来ますね。

 アメリカの事業を立て直すチャンスと思って頑張ります。」

「一昌、家に帰って夫婦で今後のことを話し合いなさい。いいな。」

「はい。

 ……………数馬。」

「はい、お父さん。」

「再婚の話は私が上手くお母さんに話すから、安心して。

 もう再婚など言わせないから………。」

「はい、お願いします。

 お父さん!」

「うん?」

「僕は忍の記憶が戻ったら、離婚することになります。

 でも、再婚など全く考えていません。

 それだけは、覚えておいてください。」

「さっき、言ったじゃないか……まだ、そこまで耄碌してないよ。」

「お父さん……済みません。」

「忍さんと添い遂げられたら、数馬は幸せなのか?」

「それは、やって来ない未来ですけど……それが僕の……幸せです。」

「分かった……幸せな未来だといいな。」

「……はい……。」

「お父さん、叔父さん、帰ります。」

「返事を待ってるぞ。」

「はい。」

「数馬、元気でな。」

「お父さんもお元気で。」

「じゃあ……また来ます。」


一昌が帰った。

その後姿に一郎は毒を吐く。


「ふん! 嫁の尻に敷かれおって!

 嫁の口を閉ざせることが、あれに出来るはず無い!

 情けない息子……に、私が育てたのだな……。」

「兄さん、優しい子なんですよ。」

「従業員には厳し過ぎる。

 従業員一人一人に人生があり、家族が居るんだ。

 その家族一人ひとりにも人生がある。

 その人達の人生をも背負っているということを分かってないんだ。

 そんな風に私が育ててしまった。罪深い。」

「兄さん……そんなに自分を責めないで!

 私も同罪なので……一人じゃないですよ。」

「お前は優し過ぎるぞ。

 数馬。」

「はい。」

「今私が言ったこと、今一度、肝に銘じよ。」

「はい。」


数馬を経営者として育てたのが、一郎と次郎だった。

一昌を育てた時のことを反省して二人は、数馬の経営者として厳しく育てた。

忍との結婚前から、数馬は多忙の中に居た。

自ずと家族だからという理由で、忍の優先順は一番最後にしてしまった。

今の数馬は、忍を最優先している。

そして、そんな日々の終わりが近づく。

それが数馬にとって、一番辛く苦しいのだ。

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