止まった想い
土屋華蓮には両親が居る。
両親は一般的な会社員の父と、パート勤務の母だ。
娘のしたことを聞き、驚きと共に疎遠になっていた間の娘に何があったか分からなかった。
娘は大学に入ってから一度も福島に帰って来なかった。
ずっと東京で暮らしていた。
長い間、会っていなかった娘に会ったのが拘置所だった。
「華蓮……お前、どうしてこんな大それたことをしたんだ。」
「………父さんには関係ないわ。」
「華蓮…………うっううう………。」
「泣くだけなら来ないでよね。
ここから出してくれるんなら大歓迎だけど。
そんなこと、出来ないよね。」
「華蓮、父さんと母さんと一緒に謝ろう。
ここから出られたら、被害者の女性に謝ろう。」
「なんで! なんで謝らなきゃならないのよっ!
私の場所を奪った憎い女に!
どうして私が謝らなきゃならないのよっ!」
「華蓮………お前。なんてことを………。」
「華蓮、お願い……。」
「あんたらは出て行けっ!」
「華蓮!落ち着きなさい。」
「華蓮………座って頂戴。」
「私が会いたいのは、あんたらじゃない!
数馬だけなのよ、会いたいのは数馬だけ!
戸川数馬を連れて来てよぉ――っ!」
暴れ出した華蓮を看守が制止しようとしている。
「落ち着きなさい!」
「放せっ! 放せぇ――っ!」
それを見ている両親は呆然とドアの向こうへ消えていく華蓮を見つめている。
母は涙を流している。
その母を父が支えている。
そして、悲痛な思いを胸に面会室から出て行った。
華蓮の様子を聞いた加賀陽は、そのまま数馬に話した。
「そうか……このままなら裁判は華蓮に不利だな。」
「それが何か問題か?」
「いいや、出来るだけ長く刑務所に入って貰いたいから、このままでいい。」
「これから弁護士は精神鑑定を要求する。」
「そうだろうな。」
「だけど、華蓮は裁判で勝てないよ。
たぶん精神疾患ではない。」
「だろうな。」
「それはそうと、君、奥さんに会いに行ってないそうだな。」
「………会いに行く資格が……僕には無い。」
「資格、かぁ………でもな、待ってるぞ。奥さんは……。」
「会いに行けないよ。僕のことを思い出したら苦しむだけだ。」
「……まぁ……そうだろうな、そして、離婚だな。」
「…………うん。」
「仕事に打ち込むのは良いけどな、ほどほどにしろよ。」
「うん。」
「身体を壊したら元も子もない。」
「うん。」
「分かってるのか?
身体を壊したら、忍さんに経済的な支援も出来なくなるんだぞ。」
「うん、分かってる。」
「ちゃんと食べろよ。」
「うん。」
「眠るんだぞ、寝なきゃ身体を壊すんだ。」
「………分かってる。」
「忍さんから僕の事務所に連絡が来た。」
「えっ? どうして君の事務所に?」
「僕は名刺を渡してたから電話が架かって来たんだ。」
「忍は! 忍は元気?」
「うん、身体は随分良くなったと……。」
「そうか……良かった。」
「会いたいって、君に会いたいって言ってたぞ。」
「ぼ……くに?」
「うん、会いたいって言ってた。
退院したら会えなくなったのは、どうしてなのか、教えて欲しいって。
そう言ってた。」
「そう言ってくれて………嬉しい。でも、駄目だ。会えない。」
「会うこと、もう一度、忍さんのお母さんと話し合ってみないか?」
「記憶を取り戻した時に、僕が居たら駄目なんだ!」
「それも含めて、話をした方がいい。
まぁ、僕はその時が来たら………。
忍さんが数馬に想いをぶちまけたら良いと思うけどな。
過去の全ての想いをぶちまけて、それから離婚でもなんでもすればいい。」
「……………………陽、僕は…………。」
「もう一度、忍さんのお母さんと話し合うこと考えろ。
じゃあ、僕は仕事をするから事務所に帰るよ。」
「陽。」
「うん?」
「ありがとう。」
「何も出来てないよ。それに華蓮のことは事務所として請け負った仕事だ。」
「そうだった。」
「じゃあな、また。」
「また。」
数馬は今までにないほど仕事ばかりしている。
周囲は身体を壊さないか案じるほどに……。




