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幸せの在り処  作者: yukko
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30/87

転院

病院に着いた。

転院することを医師から忍は聞いているはずだ。

病室に入ると、そこには彼が居る。

忍を助けた彼が………。

数馬は嫉妬で可笑しくなりそうだった。

上田隼人は笑顔で迎えてくれる。

二人が並んでいると数馬の目には【お似合いの夫婦】に見えた。

黒く焼けた健康的な肌、強い腕……漁師の仕事をして得た身体だ。

ジムで作った身体より、魅力を忍は感じるだろう――そう数馬は思った。


「こんにちは―!」

「こんにちは。

 いつも娘のことを気に掛けて頂き、本当にありがとうございます。」

「ありがとうございます。」

「いいえ、今日はちょっと……違うんですよね。」

「違う?」⦅何が違うんだ?⦆

「あのね、隼人さんね。」

「忍さん! 俺から言うから。」

「え、そうなの?」

「俺のことなのに、忍さんが言ったら、変だろう。」

「そうね。

 ではぁ~~っ、発表します。

 隼人さん、さ、どうぞ!」

「あの、ですね。俺、結婚します!」

「え……………。」

「まぁ………何方なんですか?」

「もうすぐ戻って来るんですよ。

 今、売店に行ってます。

 ………あぁ~~~~っ、忍さんの旦那さんには会わせたくないなぁ~。」

「良かった………。」

「へっ? 何が良かったんですか?」

「あ! ご婚約が……良かった……と………。」

「へへへっ………ありがとうございます。

 あっ! 旦那さん。」

「はい。」

「俺の婚約者に会わないでくれます?」

「え、どうしてですか?」

「イケメン過ぎるんですよっ!

 居ないでしょう。こんなイケメン!

 会わないでくれます?」

「じゃあ、僕は車に戻ってます。

 後で、呼びに来てくれますか?」

「オッケーです!」

「じゃあ………忍、後で。」

「………はい……かずま……さん。」


数馬は上田隼人に婚約者が居ることを知って、小さくガッツポーズを取ってしまった。

それを見た相馬は「社長、何を成さっておられるんですか?」と声を掛けた。

見られたことを知って数馬は恥ずかしくて思わず「何でもない!」と大きな声で言ってしまった。

車の中でノートパソコンを起動し、仕事を始めた数馬。

⦅呼びに来てくれるのが忍であれば嬉しいな。⦆などと、思っていたら、看護師が呼びに来てくれた。

若い看護師は頬を染めて「戸川さん、部屋で待っておられます。」と言った。

相馬は「はぁ…………また、だ。」と呟いた。

⦅何度も見て来たんだよな。社長を見るあの女性の目、可哀想に一瞬で終わる恋。⦆というのは口から出なかった。


忍の病室に入ると、もう上田隼人は居なかった。

忍は嬉しそうに満面の笑顔で「数馬さん。」と呼ぶ。


「お母さん、数馬さんに見せてあげて下さい。」

「ええ、そうね。」


弥生がスマホの画面を向けると、そこには上田隼人と婚約者、そして忍と弥生が写っていた。


「お似合いでしょう! ねっ!」

「ええ、ええ、そうね。」

「いいなぁ~~っ、素敵だなぁ~~。」

「そうね、素敵だわ。」

「………恋するって……素敵ですね。」

「そうね、素敵だわね。」

「………か……かずま……さんと……私は……どんな……だったんですか?」

「僕と忍…………僕と……忍は………。」

「恋愛結婚じゃなかったのよ。」

「え…………………じゃあ、なんで結婚したんですか? 私達………。」

「お父さんが亡くなって、経済的に大変だったの。

 経済的に大変だった私達を助けて下さったのが、数馬さんのおじい様だったの。

 数馬さんのおじい様が、忍を大学卒業させて下さったの。

 そのおじい様が忍を数馬さんの妻にと望まれたから……結婚したの。」

「………………愛が無かった?」

「そうね、でも、愛してたのよ。数馬さんのこと貴女は、ずっと片思いだった。

 愛してたのよ。愛して……いたの。」

「数馬さん………迷惑だったんですね。私との結婚。」

「そんなことはない。僕にとって大切な妻だ。今も変わらない。 

 記憶を取り戻すのは、辛いことも思い出すことになる。

 それでも、僕は思い出して欲しいんだ。

 お義父さん、お義母さんのことを思い出して欲しい。

 そして、僕のことも思い出して貰えたら嬉しい。

 だから、島の病院ではなく、都内の病院で治療を受けて貰いたいんだ。

 転院の話、聞いてくれた?」

「はい、聞きました。」

「思い出すこと自体が怖いかもしれないけど、この通り頼む。

 転院して治療を受けてくれ。」

「島を出るんですね。」

「うん、そうだ。」

「忍! お願い、治療を受けて。」

「治療中は……お義母さんが傍に居てくれる。

 だから、お義母さんに………何でも聞いて貰えばいい。」

「………かずま…さんは?

 私の傍に居てくれないんですか?」

「忍?」

「か……ずま…さん、居て欲しいと………お願いしたら……居てくれます?」

「僕が……居てもいいのか?」

「私と夫婦、なんですよね。」

「うん。」

「居て下さい。傍に……。」

「お義母さん、いいですか?」

「忍が、そう言うんだったら……しゃ……戸川さん、お願いします。」

「はい!」

「じゃあ、忍。転院はいいのよね。」

「はい。」


忍の転院について、その日、数馬と弥生は島の病院と詳細まで決めた。

この日から弥生は数馬を苗字で呼ぶようになった。

弥生は頑なに「社長」と呼んでいたが、忍にとって「戸川さん」と呼ぶ方が良いように思ったからだ。

特に忍の前では……。


◇◇◇◇

そして、転院の日になった。

島でお世話になった方々へお礼をした。

特に助けてくれた上田隼人には、弥生も数馬も感謝の念が堪えない。


「上田さん、本当にありがとうございました。」

「上田さん、大変お世話になりました。

 上田さんが居なかったら、忍は今、こうして……

 忍が居ないのは、家族の誰もが堪えられないことです。

 本当にありがとうございました。」

「隼人さん、ありがとう。」

「忍さん、早く記憶を取り戻せたら、皆、喜ぶよ。」

「うん!」

「向こうへ行っても、島の自然とか思い出して……苦しい治療の時に。

 ここは、いいでしょ!」

「うん。」

「俺は頑張ってとか言わねぇよ。

 だって、頑張ってただろ、ずっと…………。」

「うん、ありがと。

 隼人さんも……頑張ってね。

 結婚するんだからさ。」

「……おうよ。」

「じゃあ、いつか……また、来るね。」

「観光で来いよ!ってか、観光ってこの島にあるかぁ……だよな。」

「お元気で……お幸せに!」

「ありがとうございます。ってか、そっちも、新婚気分で!」

「もおっ、隼人さんったら………。」

「……では、お世話になりました。」

「ありがとうございました。」


いよいよ忍が都内の病院へ向かった。

都内の病院に到着した頃、忍の体力は尽きてしまったかのようだった。

直ぐに病室のベッドに向かった。


「うわぁ~~~っ、いいんですか?

 こんなに綺麗な病室、初めて見ました。」

「忍が少しでも楽に出来る部屋がいいと思った。

 別の部屋が良いと思っても、今は空いてないから………。

 暫くの間、我慢してくれないか?」

「いいえ! こんなに綺麗で大きな部屋を私が……いいんですか?」

「いいに決まってる。 心配しなくていい。」

「ここでいいわよね、忍。」

「うん…………かずま…さん。」

「うん?」

「ありがとう。」


頬を染めて恥ずかし気に言う忍を見て、弥生は一瞬身動き出来なくなった。


⦅忍………まさか……数馬さんのこと……また、恋したの?⦆


忍の一通りの検査を終え、記憶を戻す為の治療が始まった。

忍の胸の傷は、数馬の行いの為に負った傷だ。

数馬は、その傷を忍が消したいと願ったら叶える。

そして、傷が消えても……数馬はその傷を一生忘れられないと思っているし、忘れてはならないと思っている。

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