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幸せの在り処  作者: yukko
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31/87

離婚届

医師から数馬と弥生に入院時の説明があった。


「先ず、病院で体調を整え退院して頂きます。

 体調が整ったら、退院して生活をすることで記憶が改善される可能性がありま

 す。

 その為に退院後の生活は非常に重要です。

 ドラマや漫画のように急に思い出すことは無いと思って下さい。

 退院後の生活では過去のストレスを与えた生活では悪化すると思って下さい。

 戸川さんが安心して暮らせる場所を、環境を作り維持して下さい。

 それで記憶が改善されなければ、病院で睡眠法と投薬を行います。

 先ずは、この入院中に退院後の環境を整えて下さい。」

「………分かりました。」

「私の家で過ごさせようと思っています。」

「ご実家ですか?」

「はい。」

「その方が良いでしょう。」

「はい!」

「……………よろしくお願い致します。」


数馬は当然の結果だと受け止めねばらなかった。

そして、忍の前から姿を消すことを決めた。

それが、数馬に出来るたった一つのことだった。


「お義母さん。」

「数馬さん、聞いておられましたよね。

 私の家でこれから先、暮らします。」

「はい、お願いします。

 ………お義母さん、離婚届署名します。」

「え、今、なんて?」

「忍が書いた離婚届……腹立ち紛れに破ったんです。

 だから、僕が署名した離婚届を送りますから………。

 いつか……記憶を取り戻したら、その時に署名して………。

 提出も……して貰えれば………。」

「戸川さん………。」

「離婚するまでの間も、離婚してからも金銭面でお義母さんにご負担をお掛けさせ

 ません。

 お二人に掛かる費用は全て僕が出します。

 それから、退院するまでの短い間だけ面会を許して下さい。

 その後は……一切………目の前には……会いに行くようなことはしません。」

「戸川さん………良いのですか?」

「忍………が、苦しむことが無い環境は……僕が居たら作れません。

 思い出した後、忍の傍に僕は居たらいけないのだと分かりました。」

「そうですか……分かりました。」

「よろしくお願いします。」

「はい。」


弥生は数馬からの離婚届を受け取ると返事した。

病室へ行くと、忍が「売店へ行きたいんですが……。」と言った。

言いながら頬を染めて数馬をチラチラと盗み見ている。

⦅あぁ……この子は……また数馬さんに恋したのだわ。⦆と弥生は実感した。

勇気を出したのだろう――忍が俯いたまま耳まで真っ赤に染めて数馬に頼んだ。


「あの、数馬さん、売店に一緒に行ってくれますか?」

「僕でいいの?」

「はい! お願いします。」

「お義母さん……あの………。」

「戸川さん、お願いします。連れて行ってやってください。」

「はいっ!………じゃあ、忍………いや……忍さん、行こうか。」

「はい!」


顔を上げた忍は嬉しそうだった。

満面の笑みを見せている。

弥生は複雑な想いで二人を見送った。


「行ってらっしゃい。」

「行ってきます!」

⦅嬉しそうに………あの子、あんな目に遭ったのに覚えてないから……。⦆


売店では、帽子を売っていた。

帽子の試着が許されているようで、鏡があった。

その鏡に忍と数馬が映った。

それを見た忍が俯いた。


「どうした? 身体が辛いのか?」

「………数馬さん、と……私……似合ってない。」

「え…………………。」

「数馬さんのようなイケメンに……私は不釣り合い……。」

「そんなことない。」

「あるっ! 

 私の顔……こんな顔だって初めて見た時は普通の顔だなぁ~って思った。

 でも……数馬さんは誰もが振り向くイケメン。

 不釣り合い………。」

「忍………僕は忍が愛らしくて……好きだ、よ。」

「本当に?」

「うん、本当。

 誰が誰を愛するかって……見た目だけじゃないと思う。」

「それって、やっぱ、私はブスだって言ってる。」

「そんなこと言ってない!

 忍は可愛い! それ以上に……忍は心が綺麗だ。

 そこに惹かれた。

 そういう理由じゃ駄目か?」

「………ううん、いい!」

「買い物は?」

「無いの。」

「無いのか?」

「数馬さんと少し二人だけでお話したかっただけ……怒る?」

「怒らないよ………ありがとう。」

「うふっ……嬉しい!

 ねぇ、数馬さん、明日も来てくれる?」

「来るよ。」

「ありがとう!」


少しだけ菓子を買った忍は嬉しそうに「お母さん、このお菓子好きかな?」と言って数馬に聞いたが、数馬は弥生の好きな物を知らない。


「忍が買ってくれた物なら、たぶん何でも好きなんじゃないかな?」

「何でもぉ?」

「うん、考えて買ってくれたから嬉しいんじゃないかな?」

「そっか……。」


そして、忍が言った。


「退院したら、二人の想い出の場所へ行きたいの。

 連れて行って!」

「退院したら………そうだな。」

⦅退院したら………会いに行かないよ。その方が忍の為だから……。⦆


病室で待っていた弥生と3人で菓子を食べた。

甘いお菓子なのに数馬は甘く感じなかった。

後の時間が、忍と会える時間が短いことを数馬は⦅自業自得だ!⦆と自分に言い聞かせ、忍の微笑みを必ず守り抜こうと思った。遠くから………。

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