過去の行い
忍の母・弥生と二人で忍が入院している島の病院へ数馬は向かった。
一郎と千代は付いて来なかった。
千代が発熱したからだ。
島にはフェリーで向かった。
島に到着するまでの間、弥生が数馬に話し始めた。
「あの、忍のこれからのことなんですけれども………。」
「はい。」
「転院してからは、うちで暮らさせますね。」
「え…………………。」
「忍とは離婚するはずでしたよね。」
「でも!」
「あの子は………貴方と結婚したから忍は拉致されて殺害されそうになりました。
そうですよね。」
「……………はい、仰る通りです。」
「このこと、大旦那様と大奥様は御存知ですか?」
「いいえ、祖母の身体が思わしくありませんので、伏せています。」
「そうですか………。」
「お義母さん、僕は離婚したくありません。
ご心配だと思いますが、今後こそ、絶対に守ります。
辛い想いをさせません。」
「それは無理です。」
「あの子が望んでいたのは、貴方との離婚でした。
記憶を取り戻せば、離婚したいということも思い出します。
あの子が貴方から受け取った生活費だけを持って家を出たこと。
御存知ですよね。」
「…………はい。」
「何も要らないから離婚して欲しいと願っていたことも、御存知ですか?」
「…………はい。」
「だったら、答えはお分かりになりますよね。」
「………………忍に……僕の傍に居て欲しいと願うのは、間違いですか……。」
「間違いです。あの子を、もう、これ以上……苦しめないで下さい。
お願い致します。
貴方が大旦那様や大奥様にお話になられないのなら、私がお話します。
ご理解頂けるように、誠意をもってお話致します。
だから、ご懸念には及びません。」
「お義母さん…………僕は………僕は………愛しています。忍を………。
自分の気持ちに気付くのが遅すぎて……忍は僕の傍から絶対に離れないと思い込
んでいました。
間違いなのに………僕が愚かだったから招いたことです。」
「本当に愛しているなら……そう思って下さっているなら………。
あの子の幸せを祈ってやってください。
一緒に暮らすことが、あの子の幸せだとは思えません。」
「…………分かりました。
退院後は………お義母さんと………。」
「貴方が転院先など見つけて下さったこと、それに今日のことも感謝しておりま
す。
転院時の手配なども……感謝しております。」
「お義母さん、どうか頭を上げて下さい。
僕は………僕は、お義母さんから感謝して頂くようなことをしていません。
………こんなことになってしまった罪が僕にはあります。
本当に申し訳ありませんでした。」
「……………貴方の罪と、このことは……転院先のことなどは別です。
………所で、あの女性が逮捕されたのですね。」
「はい。」
「それから、加賀さんから伺いましたが……会社があの女性を告訴した、
と………。」
「はい、業務上横領罪で告訴致しました。」
「どれだけの罪で、どう罰が決まるか私には分かりません。
ただ、もし出て来たら…………その時、また忍の身に危険が及ぶということ
は?」
「そんなことは! させません。
守り抜きます。必ず!……………今後は守ります。この身に代えても………。」
「……………身に代えて?」
「はい! 元々、青木誠二郎さんの命と引き換えに僕は怪我もせずに……。
青木誠二郎さんのお陰で僕は生きているのです。こうして今も……。」
「貴方………貴方! あの時、居たの?」
「はい、助けて頂いたのは祖父だけではなく、僕もです。」
「あ……………そうだったのね。知らなかった……。」
「ですので、この身に代えましても、忍さんは必ず守ります。
お約束致します。」
「………お願い致します。」
「はい。」
数馬は⦅僕に出来ることだけ……忍の為に……しよう。⦆と思った。
もう、それしか数馬には無いのだ。
幾度、悔やんでも、悔やんでも、過去の自分がしたことは消えない。




