逮捕と告訴
土屋華蓮が被疑者として確保されたと加賀陽から聞いた時、数馬はホッと胸を撫で下ろした。
忍の無事を確認出来ていた。
忍が無事でなければ、数馬は華蓮にどんなことをしたか分からない。
それほどまでに憎んでいる。
そして、それは自分自身に対しても同じだった。
忍の記憶が戻ることが数馬は恐ろしかった。
どんなに謝罪しても許されないであろうことは火を見るよりも明らかだった。
離婚しなければならないだろう。
それでも、忍の記憶を取り戻したい。
数馬に出来ることは、忍の記憶を取り戻すために出来得る限りのことをするだけだ。
傍に居る加賀陽と相馬仁に数馬は聞いた。
「それで?」
「はい、警察への協力は全て行いました。
社内に残る証拠になり得る物は全て提出しました。」
「土屋には気付かれなかったのか?」⦅土屋? もう華蓮とは呼ばないのか。⦆
「はい。土屋は副社長の元で秘書をしておりましたので、社長室には入らせており
ません。
社長秘書室への入室も禁じておりました。」
「そうか……。」
「戸川グループの本社へ警察の家宅捜査も今行われている。
そうですよね、相馬さん。」
「はい。」
「相馬は居なくていいのか?」
「副社長が全て対応して下さっています。」
「そうか……大叔父さんが……安心だな。」
「はい。」
「土屋は何処で確保されたんだ?」
「会社で、ということです。」
「会社で良かったと言っていいのか、どうかな?
社のイメージとしてはマイナスだな。
なんといってもキャンペーンモデルだからな。」
「そうだな。」
「だけど、社内での社長夫人のような態度で忍さんの影が薄くなってた。
忍さんが数馬の妻だと、社長夫人だと、これで受付嬢たちも分かったろうな。
次に本社で受付嬢たちの対応が正しくなると思うぜ。」
「………忍が……僕の妻で居てくれたら……の話だ。」
「数馬……。」
「社長、私は社に戻らせて頂きます。
副社長に全てお願いしておりますので。ご負担が大きいかと……。」
「うん、頼む。」
「はい、承知致しました。」
「相馬!」
「はい。」
「副社長に休んで頂くよう、頼む。」
「はい。」
「それから、忍の転院先のこと、頼む。」
「迅速にお調べ致します。」
「それから、土屋を告訴する手筈を加賀弁護士としてくれ。」
「承知致しました。」
「告訴後に状況に応じて記者会見を行う。
僕が出た方が良ければ出る。」
「はい。」
「それについては、僕が熟慮するから、熟慮後に決定しよう。」
「分かった。
………相馬、宜しく頼む。」
「はい、では社に戻ります。」
「うん。」
今日の会話で陽は気付いた。
数馬が最早、土屋華蓮を「華蓮」と呼んでいないことに……。
もう友人ではなくなったのだ。
だから「華蓮」ではなく「土屋」と呼んでいることに気付いた。
そして………相馬を見送る数馬と陽は想いに更けている。
後悔も大きい。
忍の殺害を目論むような女性を「お姫様」と崇めたことを陽は後悔し、忍を苦しみ続けた女性を傍に置き続けたことを数馬は後悔した。
忍から生涯許されることはないと数馬は思った。




