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幸せの在り処  作者: yukko
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24/87

病室のドアをノックすると中から忍の声が聞こえて来た。

「どうぞ。」と………。

その瞬間、弥生は少し驚き、そして少し微笑んだ。


「忍……。」

「あ………何方でした?」

「私は忍のお母さんよ。名前は青木弥生。」

「覚えます。」

「………ありがとう。」

「そちらの方のお名前は……?

 そちらの……おじいさん、と……おばあさん。

 お名前を覚えられなくて……済みません。」

「ううん、気にしないで頂戴。忍ちゃん。

 私は、貴女の夫の祖母よ。

 名前は戸川千代。

 そして、この人が私の夫。」

「忍………済まない……こんな目に遭わせてしまって………。」

「おじいさん……私、おじいさんに何もされてないですよ。」

「忍……。」

「おじいさんのお名前は?」

「これの祖父で名前は、戸川一郎だ。」

「覚えますね。 

 ………そちらの……方が……私の………その………。」

「うん、僕が忍の夫、戸川数馬だ。」

「とがわ……かずま…さん。

 数馬さん! 覚えました。」

「忍っ…………。」


数馬は忍を抱き締めたい衝動を抑えるのに必死だった。

忍は不安げな顔で聞いて来た。


「あの……私は、どうなるのでしょうか?」

「忍、貴女はどうしたい?」

「お母さん、分からないんです。

 どうしたら、いいのか……分からないんです。」

「そうよ、ね。」

「あの……私には、お父さんは居ないのですか?」

「お父さんは………亡くなったの。」

「そうなんですか………じゃあ、お母さんと二人で暮らしていたのですか?」

「ええ、ええ、そうよ。」

「僕と結婚する前までは、お義母さんと二人暮らしだったんだ。」

「そうなんですね。………あの……数馬さん。」

「うん? 何?」

「結婚してからは、何人で暮らしていたのですか?

 あの……おじいさんと、おばあさんと……数馬さん、の4人で?」

「いいや、私達は別の家で暮らしていたんだよ。」

「そうなんですね。……おじいさんと…おばあさんとは別だったんですね。」

「時々、会いに来てくれていたのよ。

 私達、とっても嬉しかったわ。

 可愛い孫嫁に会うのは本当に楽しくて嬉しかったわ。」

「そうなんですね、会いに行ってたんですね。」

「ええ、そうよ。」

「あの……じゃあ……私は、数馬さんと……二人で?」

「うん、そうだ。」

「結婚式とか披露宴は、どこで?

 写真はありますか?」

「……無いんだ……コロナ禍だったから……出来なかったんだ。」

「………そうなんですね。あの、コロナ禍って何ですか?」

「あっ、そうだよな。

 覚えてないんだった………ごめん、説明するね。」

「はいっ。」

「コロナって言う感染症があって、世界的な流行が起きたんだ。

 その頃は、日頃会うことが無い人と狭い場所で会うことが禁じられてたんだ。

 だから、病院に入院している家族に面会も出来なかったんだ。

 緊急事態宣言が出て【外出自粛】【施設の使用停止】【イベント開催の停止】

 【営業時間の短縮】などが要請されたんだ。

 公園とかはいいんだけどね。密閉されていない広い場所だからね。

 それでも、マスクはしてたよ。」

「そんなことがあったんですね。」

「………そうよ、あったの。」

「だから、僕達は結婚式を挙げられなかったんだ。

 披露宴も………ごめんな、写真も無いんだ。」

「それは、当たり前ですよね。」

「忍…………君は、僕達の写真、欲しいかい?」

「……えっと……ウエディングドレスとか憧れます。」

「忍………覚えてるの?」

「え?」

「忍は、そう言ってたわ。

 数馬さんとの結婚が決まるより、ずっと前。

 まだ高校生の頃のことだけど……。」

「そうなんですね。

 でも、多分、思い出したんじゃないと思います。」

「どうして?」

「隼人さんが………言ってたんです。」

⦅隼人さん? もう名前で呼び合っているのか?……嫌だ……。⦆

「明後日、この島で結婚式があるんですって!」

「まぁ、そうなの?」

「はい! 私、見たいんです。

 でも、行けないし……無関係なので……えへへっ……。」

⦅出逢った頃の忍だ……愛らしい忍……。⦆

「忍ちゃんの花嫁姿、見たかったでしょうね。弥生さん……。」

「………それは、もう終わったことです。大奥様。」


その時だった。

ドアをノックする音がした。

全員、ドアの方を見た。


「はい、どうぞ。」

「あ……良かった。

 皆さん、まだ居てくれて。」

「隼人さんっ!」

「忍さん、大丈夫?

 今日は疲れただろう?」

「ううん、大丈夫。」

「そっか……良かった。

 今日はご家族に会えて良かったね。」

「……うん、実感はないけど……。」

「それは、これからだよ。」

「そうだよね。」

⦅嫌だ……そんな目で彼を見ないでくれ!⦆

「妻を、忍を……助けて下さって本当にありがとうございました。

 それに、こちらで忍が大変お世話になっているようで……。

 ありがとうございます。」

「本当に何とお礼を述べても足りないくらい感謝しております。

 娘を助けて下さって、本当にありがとうございました。」

「あ……助けるのは当然ですから!

 助かってくれて嬉しいんですよ。

 溺れている人を助けても……本当に助かってくれなければ……。

 俺、自分を許せなかったと思うんですよね。

 だから、俺にとっても忍さんの生命力に感謝してるんです。」

「まぁ……貴方は素敵な方ですね。」

「大人だな……数馬と違って。」

「……おじいさん。」 

「否、数馬よりも、一昌と比べて、だな。」

「あの………今日は忍さんも疲れていると思うんですよね。

 続きは明日、ということにして、今日はうちで泊まって下さい。」

「それは……ご迷惑ではありませんか?」⦅あまり世話になりたくない。⦆

「ご迷惑だなんて思ってないですよ。

 うちの親父もお袋も、泊まって貰いなさいって言ってます。

 特におじいさんと、おばあさん、日帰りでは身体に良くないです。

 どうぞ! 来て下さい。

 俺、迎えに来たんです。」

「数馬、こんなに言って下さってる。

 お世話になろう。」

「おじいさん……泊まるところは、もう………。」

「そこはキャンセルして、ちゃんと代金を全額支払って理解して貰おう。」

「あ……民宿ですか?

 島には民宿しかないから、民宿ですよね。」

「そうです。」

「俺から話しますよ。」

「そこまでして頂くわけにはいきません。

 僕がキャンセルします。」

「そうですか。」

「お義母さん、お世話になること、いいですか?」

「ええ、勿論。色々、お聞きしたいこともありますので……。」

「………そうですね。

 では、今夜はよろしくお願いします。」

「じゃあ、うちに来てくれるんですね。」

「はい、お世話になります。」

「こんな大人数で……申し訳ございませんが、よろしくお願い致します。」

「はい!」

「隼人さん、良かったね。」

「おう! 親父もお袋も喜ぶよ。

 じゃあ、行きましょう。

 忍さん、また明日来るな。」

「うん。ありがとう。」

「忍、明日、来るから……。」

「はい、数馬さん。

 お……お母さん、おじいさん、おばあさん、明日、来て下さいね。」

「勿論よ。」

「勿論だ。」

「来るわ。今日は、もう休んで……寝なさいね。」

「はい。」

「じゃあ、忍………明日。」

「はい、数馬さん。また明日。」



その日、島に泊まった数馬達。

島にある民宿ではなく、助けてくれた漁師の家だった。

上田隼人の家に全員が泊まらせて貰った。

数馬は隼人に対する嫉妬を感じていた。

二人の距離が近すぎると思った。


⦅僕が……忍をこんな目に遭わせてしまった……僕は……。

 僕は………罪を償わせて貰えるのだろうか?

 忍はこのまま島に居ることを選ぶんじゃないだろうか?

 そしたら……僕は……もう忍の傍に居られない。⦆


「忍ちゃんの旦那さん! イケメンじゃないの!」

「お袋……恥ずかしいから止めろよ。」

「本当に島には居ないな。わはは……。」

「でっ! どんな出逢いだったの?」

「お袋ぉ~~~っ!」


数馬が思うよりも、和やかに時間が過ぎていった。

上田家の漁船で獲った魚の料理が並んだ。

一郎と千代も弥生も、そして数馬も獲れたての魚に舌鼓を打った。

千代は直ぐに横になった。

忍の無事を確かめたいとの思いだけで付いて来た千代の身体は、休みたがっていた。

熱は出てない。

それを確かめた一郎は胸を撫で下ろした。

床を敷いて貰い横になった千代の傍で一郎は、千代の手を取り「良かったな。忍に会えて……。」と言うと千代は涙を流した。

それを機に、弥生は入浴させて貰い、就眠した。

数馬は相馬と別の部屋で仕事をした。

数馬は、コロナ禍からリモートで常に仕事が出来るようにしている。

相馬は仕事に集中出来るように常にしてきた。

それが、あの土屋華蓮との差だ。

加賀陽が部屋に入って来た。


「数馬。」

「なんだ。」

「土屋華蓮だが……。」

「うん。」

「被疑者として確保された。」

「そうか………。」

「だが、実行犯全てを確保していない。

 忍さんを拉致した奴らが、まだ逃げたままで普通に暮らしている。」

「許せん!」⦅僕は、僕自身が一番許せない。⦆

「警察に頑張って貰うしかない。」

「……………………。」

「日本の警察の検挙率は高いが、未解決事件もある。」

「……………………。」

「出来る限り、情報を……警察に伝えたい。」

「………うん。」

「忍さんからは聞けないんだな。」

「無理だ。記憶がない。

 ………それに、思い出させたくないんだ。

 もう、これ以上……辛い想いをさせたくない。」

「そうだな………伝えたよ。」

「あぁ……ありがとう。」


土屋華蓮の逮捕は数馬達が思うよりも早かった。

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