失った記憶
数馬は警察から教えて貰った病院へ急いだ。
忍の母・弥生、数馬の祖父母・一郎と千代、そして加賀陽。
到着するまでの間、車内は無言だった。
会うまでは……言葉すら見つからないのかもしれない。
弥生は祈り続けている。
千代は体調が思わしくないのに、「私も連れて行って!」と数馬に頼み込んだ。
数馬の目には微かな光が灯っている。
会える喜びの光、無事を喜ぶ光。
ただ、記憶が失われていることは悲しい。
全ての過去を失っている忍とどのように向き合えば良いのか数馬は分からなかった。
病院に到着した。
「忍ちゃんが、ここに居るのね。」
「うん、そうだよ。おばあさん。」
病院の建物を見ただけで千代は涙を流した。
島に一つしかない病院。
大きな病院ではないが、島の人たちにとって無くてはならない地域の病院である。
病室は個室だった。
数馬が直ぐに電話して個室に変えて貰ったのだ。
ドアを開ける時、数馬は緊張の余り、喉が渇いて声が出ない。
ドアノブを握った手が震えている。
少し力を入れると、ドアはスライドして開いた。
中に入ると、そこに若い男性が一人居た。
そして、「遅くなりました。」と言いながら、刑事が入って来た。
「上田さん、来て下さったんですね。」
「はい、今日はご家族が来られると聞きましたから。」
「上田さん、こちらが戸川忍さんのご家族です。
戸川さん、この方が忍さんを救出した方で、上田隼人さんです。」
「上田さん、助けて下さって本当にありがとうございました。
どう、お礼をしてもしきれません。」
「ありがとうございました。」
「忍さん、良かったね。
ご家族だよ。迎えに来てくれたんだよ。」
「……家族?」
「そうだよ。忍さんの家族。」
上田隼人は忍の家族に譲るようにベッドから離れた。
入れ替わりのように数馬がベッドの一番近くに歩み寄った。
その後を弥生が続いた。
「忍………会いたかった。」
「忍、お母さんよ。」
「忍、数馬のおじいちゃんだ。」
「忍ちゃん、おばあちゃんよ。」
「ごめんなさい。分からない……。」
「忍……数馬だ。君の……夫だ。
………会いたかった………一緒に帰ろう。
家族と暮らそう。」
「………帰る?」
「うん、皆と帰ろう。
家の近くの病院で診て貰おう。」
「………あの! 戸川さん、先生の話、まだですよね。」
「あ………そうでした。
教えてくれてありがとうございます。
先に伺ってから……ですね。」
「はい、そうして下さい。
では、私はこれで警察署へ帰らねばなりませんので失礼します。」
「ありがとうございました。」
「俺も帰ります。」
「上田さん、ありがとうございました。
お礼は必ず致します。」
「いやぁ~~っ、礼なんて要りません。
これから先も元気で居てくれたら、それだけで、いいです。」
「上田さん…………。」
「忍さん、大丈夫だよ。ご家族だから………。」
忍の上田を見る目は頼り切っている女性の目だった。
その距離の近さを数馬は嫉妬した。




