戸川家
祖父・戸川一郎と大叔父・戸川次郎が事件を知ったのは、翌日の朝だった。
戸川本家で家族全員が集まっていた。
一郎の両隣に祖母・千代と大叔父・次郎が座っている。
父の一昌と母の可那子も来ていた。
「忍が拉致された?」
「はい。」
「警察は?」
「広域捜査をしているようです。」
「何故! 直ぐに私に知らせなかった!」
「おじいちゃん、申し訳ありません。」
「兄さん、落ち着いて。」
「落ち着いて居られるかっ!」
「忍ちゃん………。」
「千代………。」
「兄さん、今は一日も早く忍ちゃんが帰って来ることだけを祈ろう。
私らには、それしか出来ない。」
「………数馬は忍さんとの離婚したのよね。」
「お母さん!」
「可那子、何の話だ。」
「数馬は忍さんと離婚したんです。数馬の秘書から聞きました。」
「数馬、どういうことだ。」
「離婚していません。」
「そうなの? 離婚したと聞いたわ。
だから、私は戸川家には関係ないお話だと思いましたの。」
「可那子! 忍は嫁だろう。拉致されたと聞いて心配ではないのか!」
「お義父様がお決めになられたお話でございますよ。
私は数馬には家柄も学歴も良い娘を!と思っておりました。
それが、運転手の娘など……今も嫁だと認めては居りませんわ。」
「可那子っ!」
「あなた、落ち着いて下さい。
可那子さん、貴女は非常識です。
こんな時に、そんな話を持ち出すなんて……。
もう、一切の発言を許しません。」
「お義母様に許して頂かなくて結構でございますわ。
もう御隠居のお方に大きな顔をされて……そんな場所に居たくもありません。
貴方、帰りましょう。」
「可那子………待ちなさい。
お父さん、お母さん、叔父さん、また……。
おい! 可那子、待ってくれ。」
「なんだ? あれは………?
兄さん、もうあの二人、何処かへ行って貰いましょう。
居ても名前だけの会長なんだから……。」
「それは、考えている。
それよりも、忍だ。
捜査は進んでいないのか?」
「今の所……進展はないようです。」
「そうか………。」
「数馬……。」
「はい、おばあちゃん。」
「数馬にとって、忍ちゃんは妻なのよ。
どうして守れなかったの?
あの子に怖い思いを、こんなに辛い想いをどうして、させたの?
私は、青木さんに申し訳なくて………。
忍ちゃんに申し訳なくて………。」
「………おばあちゃん、ごめんなさい………。」
数馬は泣いてしまって顔を上げられなかった。
警察の捜査が進むことを祈った。
その頃、警察に一人の男が自首した。
事件の翌々日の朝だった。




