拉致2
また忍は目隠しされ、口にはガムテープを貼られた。
華蓮は数馬が助けに来る――と言っていた。
わざわざ数馬が誰を選ぶのかを忍に分からせるために、忍を拉致したのなら、そんな罪をわざわざ犯さなくても私は十分過ぎるほど分かっている!と忍は思った。
どのくらい経ったのか分からない。
周囲が騒めき、目隠しを外された。
「おいっ、金は?」
「今直ぐ、用意できるのは現金ではなく小切手だ。」
「現金だって言っただろ。」
「後で、持ってくる。」
「お前は一人で来たのか?」
「言われた通りに一人で来た。
無事なんだろうな。」
「あぁ……無事だよ。」
「会わせてくれ!」
「会わせてやるよ。でも、その前に金だ!」
「では、こうしよう。
現金が届くまで僕が代わりに人質になる。」
「いいや、そんな必要はない。
どちらか一人を選べ。
奥さんか、キャンペーンモデルか……。
さぁ、どちらを選ぶ?
選んだ方を連れて帰れ、そして現金を持って来い。
その時に残されたもう一人を返す。
警察には言うな。
いいか……警察に通報したら、即、殺す!」
⦅えっ…………しのぶ……なんで?……ここに居る。⦆
「………分かった。通報しない。」
「さぁ、何方を連れて帰る?」
「数馬! 助けてぇ~~! 数馬っ!」
「華蓮…………………。」
「キャンペーンモデルの顔に傷をつけようか。」
華蓮の顔にサバイバルナイフが突きつけられた。
「キャァ―――っ!」
「華蓮!」
「さぁ、この綺麗な顔が傷ついてもいいのかよ。」
「……華蓮のロープを解いてやってくれ。」
「ほぉ~~っ、そっちを選んだんだな。」
「数馬、私、歩けない。」
「……分かった。」
数馬は拘束を解かれた華蓮を抱き上げた。
そして、華蓮を抱き上げたまま忍に近づいた。
小さな声で忍に「今、警察に通報している。必ず迎えに来る。待っててくれ。」と言った。
忍は大粒の涙を流しながら首を横に振った。
「さようなら……。」
「忍……必ず……。」
「数馬! 早く連れて帰って!」
「奥さんを戸川社長から離せ!
戸川社長さん、もう時間だ。
早く現金を持ってくるんだな。いいな。
警察への通報が分かった時点で奥さんの命はないと思え。
いいな!」
「分かった。」
華蓮を抱いたままの数馬を拉致犯らは解放した。
「哀れだな、あんた。
妻なのに……選ばれなかったなんて………。
その上、俺達に殺されるんだからな。」
「殺される?」
「そうだよ。俺達が受けた報酬の為に……。」
「………終わった……のね……。」
「そうだ、俺達を恨むなよ。
恨むなら社長を恨めよ。
悪いな……さぁ、立てよ!」
立たされた忍は、建物から外に出た。
そこは港だった。
ボートに乗せられてから、岸が離れて遠くなった時、先ほどまで居た建物に火が上がった。
燃え上がる火を忍は見つめた。
「お母さん、ごめんなさい。
ごめんね………親より早く死んだら親不孝って……。
お母さん、言ってたのに………。
親不孝して……ごめん………ごめんなさい。」
胸に痛みが走った。
刃物が胸に刺さった。
そして、その様子をスマホに収めている人が見えた。
刺されたまま忍は海に消えた。




