拉致1
忍がハローワークで申し込んだ介護職員になる為の研修が始まった。
そこには様々な人達が来ていた。
「会社が倒産したんだ。
それで、一番早く収入を得たかったから、介護を選んだ。
家族が居るから……子どもも幼いし……居るんだよ、金が。」
「私は姑を自宅で介護したんです。
もうそれで、お終いにしようかと思ってたんですね。
休み時間を取りたいなぁ~って……。
でも、思ったんです。
介護したからこそ、介護する人の気持ちが分かるんじゃないかって。
介護したことが無い人より分かったら寄り添えるんじゃないかって。
私、ケアマネさんに不満だったことがあるんです。
でも、言えなくて……。
だから、そういう家族に、もしかしたら寄り添えるんじゃないかって
そう思ったんです。
そんなに有能じゃないんですけど、頑張ろうって思ってます。」
人によって何故選んだのかは違う。
だけど、学ぶ限りは頑張って資格を取得し、就職出来たら頑張って働きたい!と皆が思っている。
そんな中で学んでいると忍は楽しかった。
戸川数馬の妻として戸川家に居た頃は話す相手が限られていた。
今のように様々な人と関わるのは凄く楽しいし嬉しかった。
学んで楽しい時間を過ごしていた忍を見ている者が居た。
忍の後を付けている者が居た。
ゆっくり自動車が近づいているのを忍は気付かなかった。
急に口を塞がれて、忍は車に乗せられた。
口にはガムテープが貼られた。
手には手錠が掛けられ目隠しされた。
恐怖で頭が真っ白になった。
自分の身に何が起こったのか分からなかった。
声を出したくても出せない。
恐怖が募ると声は出ないのか?
何処かに着いたようだった。
忍の身体が抱き上げられて、椅子に座らさせられた。
そこで、椅子から立ち上がらないようにロープで椅子に身体を括りつけられた。
「括りつけたか?」
「おう。」
「お疲れ様。」
⦅!⦆
「お疲れ様。」の声は、聞いたことがある。
「目隠し、取って。」
「取ったら、俺たちの顔、見られてしまいますよ。」
「目隠しを取る人一人だけ残って。
他はこの部屋から出て!
それから、はい。これを被って!
被ってたら誰か分からないから大丈夫よ。
一応、全員分あるわ。
目隠しと口のガムテープを取って。
いい? 分かった?
早く、取って。」
「はい。」
目の前が明るくなった。
目の前に彼女が居る。
「華蓮さん?」
「そうよ。わ・た・し。」
「どうして? なんで、ここに居るの。」
「私があんたを拉致させたからよ。」
「どうして? 犯罪じゃない。」
「数馬が誰を選ぶか……あんたにハッキリ教える為よ。」
「えっ?」
「もう直ぐよ、もう直ぐ彼が来るわ。私を助けに……うふふっ。」
「?」
「見てなさい。誰が愛されてるか……。」
「そんなことしなくても分かってるわ。」
「じゃあ、何故、離婚しないの!」
「離婚届は署名して渡したわ。
数馬さんが署名して提出してくれたら離婚成立よ。」
「嘘よっ! 数馬に何をしたの?
提出されてないじゃないの!」
「それは、数馬さんに聞いて。私は知らない。」
「嘘言うんじゃないわよ!
私はね、あんたと違って、数馬のお母様からも認められてるのよ。
2度も流産したあんたと違ってね。
学歴も家柄もあんたより上なのよ。
だから、数馬の妻になるのは私、私のはずだった。」
「お付き合いしてたの?………知らなかった。」
「あんたが私から奪ったのよ。数馬を………。」
「もう返したわ。離婚届、自宅と会社宛てに送ったから……。
持っているのは数馬さん。
数馬さんに署名して貰って提出して貰えば解決よ。
だから、止めて。
こんなこと、止めて、私を放して!」
「五月蠅い! 黙れ!」
「目隠ししなさい!」
「はい。」
「目隠ししたら、他の人に入って来て貰って、私を拘束しなさい。」
「はい。」
⦅拘束? なんで? 華蓮を拘束? 自分を拘束させるの?⦆
分からないまま忍は椅子に拘束されていた。
1時間くらい経った頃だろうか……数馬の声がした。




