離婚へのステップ8
数馬のポケットの中に入っている忍の結婚指輪。
数馬は忍の指に再び銀色の光りを点したかった。
「忍、僕は離婚を承諾していない。」
「数馬さん、お母さんの前で話したくない。」
「戸川さん、ちょっと……申し訳ありません。忍に……。」
「……はい。」
「忍、私は娘に何があって離婚するのか知りたいわ。
戸川さんの気持ちも知りたいの。
居てもいい?」
「お母さん……。」
「どんな状況でも聞いているだけよ。
口を挟まないわ。
これから先の為にも知っておきたいの。お願い。」
「お母さん……。」
「居させてね。」
「………うん。」
「戸川さん、ごめんなさいね。」
「いいえ、居て頂けると僕は助かります。」
「ありがとう。」
「……忍……どうしたら傍に居てくれる?」
「もう嫌なのよ。」
「僕は……努力する。だから、教えて欲しいんだ。
どうすればいい?」
「離婚してくれたら嬉しい。」
「離婚したくない!」
「離婚したら、数馬さんは愛する人と結婚出来る。」
「愛する人? 誰のことなんだ。」
「……土屋華蓮さん。」
「華蓮は……違う! 今までも違うって言って来ただろう。」
「いつも私より彼女を優先しているのに?」
「それは……彼女が会社の顔だからだ。」
「キャンペーンモデルだから?」
「そうだ。」
「聞き飽きたわ。」
「忍。」
「そんな理由。」
「事実だ。」
「そうね、でも……私が来て欲しい時、居て欲しい時に数馬さんは居なかった。
私は独りだった時に、その時に数馬さんの傍に居るのは、いつも誰?」
「それは……。」
「いつも数馬さんの傍に居て、何でも叶えて貰ってるのは私じゃないわ。」
「忍、分かって欲しい。会社の利益が絡んでるんだ。」
「本当にそれだけ?」
「……それだけだ。」
「私とは愛情で結ばれてないでしょ。
おじい様が望まれたから、数馬さん、無理したのよね。」
「きっかけは、そうでも……今は違う。」
「おじい様の為に離婚しないの?」
「おじいちゃんは……関係ない!」
「お願い。苦しいの。ずっと苦しかったの。」
「済まなかった。忍……本当に済まなかった。」
「もう逃げさせて……戸川数馬という戸川グループのトップの妻は荷が重い。
荷を下ろさせて……お願い。
離婚して下さい。何も要らないから……離婚して!
もう別の人生を私は歩むの。」
「………忍、僕は………。」
「離婚届、早く出して下さい。」
「そんなにも……離婚したいのか?」
「ええ、もう数馬さんの顔色をうかがう生活、待つだけの生活は終わりにしたい。
これからは私の為に生きるの。
離婚して下さい。何も要りませんから、今直ぐに離婚して!」
「……………しのぶ………僕は………。」
「話すことはもう無いわ。
帰って下さい。戸川さん。」
「とがわ……さん?」
「さようなら……おじい様とおばあ様には戸川さんからお話して下さい。
よろしくお願いします。」
「……………………忍……また話し合おう。」
「終わりよ! もう話し合うことは無いわ。」
「………お義母さん、お邪魔しました。」
「戸川さん……御元気で。」
「ありがとうございます。お義母さんも……。」
「ありがとうございます。」
「失礼します。」
「さようなら。」
数馬はポケットの中の指輪を握り締めていた。
絶望感に包まれて、数馬は車に乗った。




