↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オール・ギフテッド  作者: パラデミコプス
第一部 第三章 強能力

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
74/82

〈最強の能力〉ってどんなの?

          九


 東京において最難関の知的水準を誇示する最高学府、聖神大学。

 広大な敷地を有する外キャンパス。

 その緑豊かな庭園の一角にて、三人組の男子生徒が集い、何やら喧々諤々と屯している。

「ようし。じゃあいくぜ、フラフープを出す能力だ」

「おう、手早く頼むぜ。ワクワクして夜も眠れなかったんだからな」

「バッカお前、大学生にもなってくだらねぇことで不眠症とか笑えねぇよ」

 軽口を叩き合いながら、一人の男子生徒が両手の指を用いて小さな輪っかの形状を構築する。

 すると、その虚空の円環から微小な光の玉が形成され、ぽん、と小気味良い音を立てて放出されるや否や、玉は周囲の空間を巻き込みながら急速に膨張し、瞬く間に色彩豊かな巨大なフラフープの形へと変貌を遂げた。そして、男子生徒はその出現したフラフープの中心へと滑り込む。

「おっけー、次は俺の出番だな。見とけよ、わざわざ鍛えたんだからな」

 傍らに立つもう一人の男子生徒が、出現したフラフープを掴み取る。そして、勢いよく上へと持ち上げる。その軌跡に呼応するように、輪の境界から虹色に揺らめく泡の薄膜が出現し、そのまま巨大なシャボン玉の球体へと成長を遂げ、フラフープを保持する男子生徒の全身を完全に内包して隔離する。手を離した瞬間、フラフープは己の使命を終えたとばかりに、フッと陽炎のように霧散して消え去った。

「よし来た、割れる前に早くっ!」

「よっしゃ、まかせろ!」

 三人目の男子が、巨大なシャボン玉の表面へと掌を接触させる。その瞬間、極薄の水膜は破裂することなく、不可思議な弾力を内包したまま強固な物質へと変質し、硬化を果たす。

「おっしゃあ! 成功じゃね!? これ!」

 凝固したシャボン玉の中にすっぽりと覆われたフラフープ男子が、子どものようなはしゃぎ声を上げる。

 中から両手で壁面を強く押しているが、透明な球体は割れることなく、トランポリンのような極めて高い弾性を持ち、彼の力を柔らかく跳ね返し、浮かび上がった。

「いやぁー、一回でいいから巨大なシャボン玉の中に入ってみたかったんだよなぁ。すげぇ、マジで外の景色が歪んで見えるぞ!」

 フラフープ男子が満面の笑みを浮かべ、シャボン玉内で喜悦の声を漏らす。

 それを見たシャボン玉の男子が、得意げに胸を張る。

「感謝しろよー。俺の輪からシャボン玉を出す能力、鍛えて人間一人がすっぽり入るその特大サイズまで出せるようにしたんだからな」

「わかってるわかってる、マジ感謝。お前のその飽くなきな努力に乾杯だ」

「え、俺に感謝の言葉は? 俺の能力がなきゃ一瞬で弾けて終了だぞ?」

 忘れ去られたもう一人の男子が、不満げに口を挟む。

「あ、もちろん感謝感激。お前の能力にもありがとな」

「おう。つってもなぁー、泡を固める能力なんて、冷静に考えて人生で一切役に立たねぇんだよなぁ……これ、普段の生活で一切使わねぇんだぞ。面接で言っても鼻で笑われるだけだしよ」

 泡固めの男子が、己の不遇な異能を嘆いてしょぼくれた様に肩を落とすが、

「ま、いいじゃねぇか。こいつの巨大シャボン玉の中に入りたいっていうアホみたいな長年の夢を、こうして叶えてあげられたんだし。それに、俺の輪からシャボン玉を出す能力と相性は最高に抜群なんだしよ。ほら、元気を出す為のプレゼント、やるよ」

 シャボン玉の男子が、右手で小さなオーケーサインの形を作る。人体構造の一部からも能力発動可能なようで、その指の輪からも極小の泡の膜が形成される。口をすぼめ、ふっと息を吹きかけると、そのまま大量の小さなシャボン玉が機関銃の如く連続して生成され、落ち込む泡固めの男子へと放たれる。

「いや、いらねぇって」

 うっとおしそうに両手で払いのける。

 しかし、その彼自身の能力のお陰か、シャボン玉群は一つとして割れることなく空間で固まり、宙をふわふわと無数に漂い続ける奇妙な光景を現出させる。

「あーもう、邪魔くせぇな。おい、どうせなら俺もその中に入らせろよっ! 一人だけ楽しむなんてずるいぞっ!」

 顔の周りを飛び交う硬質な泡を避けながら、シャボン内のフラフープの男子に向かって叫ぶ。

「えっ、せっかく念願の夢が叶ったんだよ。もうちょっと、あと少しだけこのままでいさせてくれよ。ここ、居心地最高なんだって」

「お前が出てこねぇと、そのフラフープが出せないだろ。本人以外が触ったらすぐ消えるっていう面倒な性質なんだし、一旦出て俺の分を新しく出してくれよぉ。あんまり意地はると、このまま能力解除してシャボン玉割るぞ」

「わ、わかったよ。でも、あと三分……いや、五分だけ……」

「伸びてんじゃねぇか、シバキ倒すぞっ!」

 男三人による醜くも微笑ましい小競り合い。

 しかし、その目立つ光景は必然として衆目を集める。周囲から続々と他の生徒たちが野次馬として集まってきて、それはどういう物理法則になってるの? や、自分も一回中に入ってみたい! などと瞬く間にギャラリーが集結し、気付けば大きな人集りで溢れ返る。

 結局、渋々といった様子で仕方なくフラフープの男子がシャボン玉から這い出て、三人掛かりで次々と集まったギャラリー達を巨大シャボン玉内へ入れては固める、という奇妙なアトラクションじみた光景が展開される運びとなる。

 そんな、極めて牧歌的かつ平和的な異能行使が、昼下がりのキャンパスにて堂々と行われている。

 日本最先端の学問を修める高偏差値大学とはいえ、生徒達は空き時間や息抜きに思いっきり自身の能力行使を行い、青春を謳歌して楽しむという精神的メリハリをしっかりと付けている様子。


「平和だなぁ。あの人たち、すっごく楽しそう」

 星ヶ咲針我は、そんな微笑ましい光景を少し離れた洒落たカフェテラス席から眺めつつ、ぽつりと呟く。

「相変わらず、クソ程くだらねぇ変なことで盛り上がってるな。平和ボケも極まれりってやつだ。いい事なんだろうがよ」

 向かいの席に座る紫吳紫怨が、漆黒のブラックコーヒーを優雅に啜りつつ辛辣な言葉を紡ぐ。吹き抜ける柔らかな風を受けて、紫吳の背中まで届く深いボルドー色の髪が微かに揺れ動く。

「どうだ、星ヶ咲。お前もあの巨大なシャボン玉の中に放り込まれて来たらどうだ。童心に帰れるかもしれねぇぞ」

「うーん、すっごく楽しそうだけど……でも、さっきとびきりのメロンパフェ頼んだばっかりだからなぁ。ちょっと今は参加出来ないかな。パフェが溶けちゃうのはやだし」

 星ヶ咲は自分の前に置かれた甘い香りのするカフェオレを飲みつつ、ひどく残念そうに唇を尖らせる。

「それに、ただ中に入るんなら、あんな他力本願のシャボン玉より、私の能力の方が絶対綺麗で良いに決まってるけどな」

 紫吳がそう不敵に笑って告げると、彼女の周囲の空間から、キラキラと眩く輝く多種多様な形のエフェクト群が突如として現れ始める。硬質なガラス細工のような質感を伴うそれは、深海を泳ぐクラゲなどの発光生物の様に、色彩を自在に変容させながらふよふよと空を漂う。中には、文字通り精巧なクラゲの形状をしたエフェクトまで混ざっている。

 紫吳紫怨の能力、エフェクトを実体化させる能力。

 丸い球状のエフェクトを親友の眼前へと飛ばし、表面の光沢を七色の虹色へと変化させ、先程のシャボン玉を視覚的に再現してみせる。

「いやいや、紫怨のはいかにもカチカチの硬いエフェクトじゃん。見た目の質感も発色の具合も、本物の水で出来たシャボン玉とは全然違うよぉ。もっとこう、表面の揺らぎみたいなのが足りないっていうか」

「ちぇっ。手厳しい奴だな。まぁそりゃそっか、悔しいけど光の干渉レベルにまでは、私の能力じゃ完全再現出来ねぇからな。所詮は紛い物か」

 星ヶ咲の容赦ない酷評。悔しそうにぼやき、展開していたエフェクト群をすっと虚空へと霧散して消し去る。

 現在、星ヶ咲は午前の難解な講義群を乗り切り、昼休み時間を親友の紫吳と共にのんびりと過ごしている最中。

「で、どうなんだ? 最近は。あの……なんとかって名前の、胡散臭い天才科学者ん所のバイトは。少しはマシになったのか」

「アゲハ博士? うーん、まぁ、相変わらず足の踏み場もないくらい汚いラボのお掃除ばっかりだなぁ。私が片付けても三日後には元通りだし。高度な実験の手伝いとか、助手っぽいかっこいいことは今のところほぼ出来てないかな」

「そりゃご苦労なこった。時給良いのが唯一の救いだな」

「紫怨の方はどうなの? ここの所、カフェのバイトシフトをすっごく増やしてるみたいだけど。あんまり無理して倒れちゃダメだよ?」

「あー、別に無理はしてねぇよ。ただ、うちの妹にちょっと良いプレゼントでもやろうと思ってな。来月、あいつは二十歳になるから、その特別記念」

「へぇー! 青怨(あおん)ちゃんに! それはおめでたいねっ! 何あげるの? やっぱり二十歳のお祝いだし、すっごく高いヴィンテージワインとか?」

 星ヶ咲の目を輝かせた発言に、紫吳は呆れたようにふっと息を吐いて笑う。

 お前は事あるごとにワインの話に結びつけるよな、と雄弁に語る顔つき。

「高い酒も一瞬は考えてみたけどな。初めて口にする酒が高級品じゃ、どうせろくに味も分かんねぇだろ。豚に真珠だよ。だから無難に、職人手作りの少し高めの万年筆あたりにしておくつもり。仮に大学の講義で使わなくても、机に飾っておくだけで立派な鑑賞物にはなるだろ」

「おー、実用的でお洒落だねっ。絶対に喜ぶと思うよ、青怨ちゃん!」

 そうこう楽しく語り合っていると、ウェイトレスによって星ヶ咲の注文していた特製メロンパフェが恭しく運ばれてくる。異能と最先端の科学の完璧な融合により、食物の保存・育成技術も格段に飛躍しているこの現代社会。その頂点に乗っているメロンは、たった今農園で収穫したてと何ら変わりのない極上のみずみずしさと、芳醇極まりない甘い香りを周囲に放散している。

 待ってましたと言わんばかりに、星ヶ咲は銀色のスプーンを手に取り、大きく掬ったパフェを幸せそうに口へと運ぶ。

 瞬間、口内いっぱいに濃厚なメロンの果汁と甘みが爆発するように広がり、思わず頬が落ちそうになるほど口元が緩む。

「うーん、美味しいっ! ほっぺたが落ちちゃう! やっぱりうちの学食のスイーツは、他所とは比べ物にならない凄いクオリティだなぁ」

「ま、天下の聖神大だしな。これくらい最高の環境を提供してもらわないと、私らもやる気が出ねぇよ」

 紫吳も同調するように頷き、再び漆黒のコーヒーをひとくち。

 聖神大学は、都内でも屈指の入学難易度を誇る最高学府だけあって、学生に提供される設備や学食なども全てが至高の一級品。

 現に今、紫吳が何気なく飲んでいるこのコーヒーも、ジャマイカの極めて限られた標高の高い高地でのみ栽培される最高峰の銘柄の一つにして、コーヒーの王様とも称される〈ブルーマウンテン〉。しかも厳選された最高等級の豆。

 この学内カフェのマスターも、世界大会で入賞経験のある腕利きのバリスタがスカウトされて務めている程。このように、大学側は敷地内の隅々に至る所まで一切の手を抜かず、未来を担う若者たちの育成に並々ならぬ力を注いでいる。

「あ、紫怨、ちょっと訊きたいことがあるんだけど」

 ふと、星ヶ咲がメロンパフェを食べるスプーンの手を止め、真剣な眼差しを向けて言葉を発する。

 紫吳。訝しげに片眉を上げる。

「うん? なんだ? 講義のノートなら貸さないぞ。つーか取ってねぇ、全部ここに入ってるから」

 指で頭をとんとんとしてみるが星ヶ咲はスルーし、

「えーと、そういうんじゃなくて。ちょっと、すごい唐突な質問なんだけど」

「おう。言ってみろ」

「紫怨の頭の中で思いつく、この世界で〈最強の能力〉って、一体どんなのだと思う?」

「……本当に唐突だな、おい。……日常生活で便利、とかそういう生ぬるい基準じゃなくて、純粋な戦闘や破壊における文字通りの強さってことか?」

「うん。そういうこと」

 星ヶ咲の意図が読めない問いに、紫吳はやや眉を顰める。

 確かに、全人類が先天的に何らかの超常的な異能を宿すこの現代社会において、最強の能力が果たして何なのか? という話題は、日々インターネットの匿名掲示板や、若者たちの間で尽きることなく議論され続けている普遍的なテーマ。

 とは言え、目の前にいる平和主義の塊のような星ヶ咲が、自ら好んでこのようなきな臭い話題を持ち出すとは到底思えない。年の瀬を思えばもう二十一歳。中二病を拗らせた中高生の男子じゃあるまいし、いい歳をした女子大生が強さ議論のような血生臭い話に興じるなど。特にこの星ヶ咲針我という少女は、感情で天候を操る能力という、一つの都市を容易く壊滅せしめる規格外の天候操作異能を持ち国家指定危険能力者として認定された過去がある故に、そう言った暴力的な争いの話を極端に忌避し、好まない性質であると熟知している。

 もしかして、またあの胡散臭いナントカって変人博士に、何か良からぬ思想でも吹き込まされたのだろうか。

「あ、あのね、特に他意とか深い意味はないよ。ほんと、単純な私の好奇心からの疑問ね? よくある普通の世間話的な」

 紫吳の疑念の視線に気づいたのか、星ヶ咲があわあわと慌てたように両手を振って弁明する。

 恐らく、あの変人博士と何らかの能力に関する専門的な会話があったのだろうが、紫吳はわざわざその深淵まで詮索する真似は控えることに決める。変に口出しして揉め事に発展し、この優雅な昼の貴重な休息時間を浪費したくないという打算。

「うーん、最強ねぇ、なんだろうなぁ。パッと考えて浮かぶのは、やっぱ星ヶ咲の天候操作かな。お前のその時の感情次第で、落雷も巨大台風も自在に起こせるし、そもそも能力の及ぶ効果範囲が地区一帯とか、そこらのパンピー能力者と規模の桁が違い過ぎる。国指定能力の中でも、間違いなく最上位の上澄みだろ」

「あ、いやいや。そういう身内の話とかじゃなくてさ」

「あー? なら……そうだな、過去の歴史に名を残した海外テロリストが使った破壊の翼の──」

「ごめん、私の伝え方が悪かったね。えーと、そういう現実に実在した能力じゃなくてさ。本当に紫怨の頭の中だけで思いついた──要するに、架空のオリジナル能力ね」

「はぁ。架空の能力ねぇ」

「とは言っても、願いが何でも叶う能力、とか、神様みたいな全知全能! みたいな反則的なのじゃなくて。あくまでこの現実にもギリギリありそう! って感じのリアルな能力ね」

「あー? 随分と条件指定が小難しいな、そりゃ。論文のテーマかよ」

 やはりあの変人と、似たような偏執的な会話を繰り広げたのだな、と確信を抱きつつも、紫吳は顎に手を当てて真剣に思考の海へと潜る。

 最強の能力と言うと、やはりとにかく一撃で全てを消し飛ばす高火力の異能だろうか。例えば、一瞬で大都市を灰燼に帰す超高熱の炎。それか、特撮のスーパーヒーローばりの物理法則を無視した圧倒的なパワーか。あるいは、局地的な大地震を意図的に引き起こす能力、さらには時間遡行や現実改変と言った高次概念を操る神のごとき異能か……。

 しかし、星ヶ咲の言う現実的という縛りを考慮すると、この複雑に絡み合った現代社会のシステムにおいて、最も真なる脅威と認定される能力の性質へと帰結する。

 数分間の思考の果てに、紫吳は一つの極悪非道な異能の形を構築した。

「人の意識を操る能力だな」

「い、意識を?」

 想像していた派手な破壊能力とは異なる地味な響きに、星ヶ咲が拍子抜けした様に目を瞬かせ、きょとんとした表情を浮かべる。紫吳は人差し指を立てて、淡々と解説を続ける。

「そう。つっても、ただの洗脳や催眠術とは次元が違うぞ。物理的な脳の電気信号レベルで文字通り肉体を操るから、途中で洗脳が解けて反逆される……なんていう甘いリスクもない。おまけに、操った相手が持つ強力な異能も、自身の分身としてそっくりそのまま好き勝手に使えるって代物の能力だ」

「んー、確かにそれは凄く強そうだけど……それって本当に最強なのかなぁ? もっとドカーン! って山を吹き飛ばすとかのが強くない?」

「いやいや、肝心なのはこの能力の発動条件の緩さと、射程範囲の広さだ。まず能力の有効効果範囲は半径数キロメートル単位。そして特に目を合わせるとか触れるとかの複雑な条件は一切なくて、その圏内に存在している人間全員が無差別に絶対服従の対象。だから、相手の姿を見る前に能力を発動した時点で、もう完全に勝ち確定。後は操り人形と化した集団を一斉に自害させるなり、全員の異能を暴走させて同士討ちで潰し合わせるでも、なんでもやりたい放題の地獄絵図を描ける」

「なるほど……それはえげつないね……」

「恐ろしいのはそれだけじゃないぞ。社会生活を送る集団が突然前触れもなく行動不能に陥るんだ。これが人口密集地の都市部だったらまず、高速道路とかを走る無数の車がコントロールを失って追突事故を起こしまくるから、能力を発動しただけで確実な大惨事確定。インフラ施設の従業員なんかも持ち場での動きが止まるから……化学工場や発電所とか、場所によってはとんでもない規模の二次災害が連鎖的に起こるだろうな」

「ふむふむ……確かに、そう言われるとそれ、とんでもない能力だね」

 紫吳の理路整然とした恐るべき説明に、星ヶ咲が真剣な表情をして深く考え込む素振りを見せる。

「単純な物理的破壊力が凄まじいだけが強い、じゃないってことかぁ。社会そのものを内側から崩壊させるのが一番の脅威なんだね。でも紫怨、案外ちゃんと真面目に考えてくれたね。てっきり、面倒くさがって適当に答えて終わるのかと思ったよ」

「ま、親友の頼みだし、一応真面目にシミュレーションを構築してみたよ。……つっても、実際問題としてこんな反則じみた能力が仮に存在したとしても、それを行使する本体の脳のスペックも、常軌を逸したレベルでかなり求められるんじゃねぇかな。なにせ、下手したら同時に数万人を並列処理して操るって代物だ。異能ってのは強力であればある程、本人のセンスが必要不可欠になるからな。だから、そこら辺の凡人が偶然こんな能力を持ってて使ったところで、一瞬で情報の奔流に脳がパンクして、ヨダレ垂らした廃人になって終いだろうな」

「あ、確かにそうだね。私の天候操作の能力も、そこら辺の凡人が持ってても、自然の強大なエネルギーの負荷に脳の処理機能が耐えきれないだろうって、アゲハ博士が前に言ってたもん」

 星ヶ咲が、自身の特異性を冷静に客観視して零しつつ、パフェの甘いソースを満足げに口へと含む。

 紫吳が、冷めたコーヒーを最後の一滴まで飲み干し、静かにカップをソーサーへと置き、

「つっても、あくまで異能という枠組みの中での最強の能力、ってだけの空論だからな。仮に数万人を操れるバケモノがいたとしても、射程圏外の安全圏、遠距離からスナイパーに狙撃されるなり、空からミサイルでもドカンと落とされたら、認識する間もなく一瞬で肉片になって死ぬだろうな。どれほど異能が強大無比でも、所詮構成しているのはただの脆い一個人のタンパク質。物理的な質量と破壊力を持つ現代兵器にゃ、正面切って敵う訳がない」

「あー、まぁそうだねぇ。どんなに強力な能力を誇っていても体の構造はただの人間だし、やっぱり最終的にはそうなるよね。なんだか虚しい気もするけど」

「そ。結局、人類が長い歴史をかけて作り上げた科学の結晶、化学兵器こそが最も効率的で一番強いってことだよ。もし今、国家間を揺るがすでかい世界戦争が起こったとしても、軍の主力となる現代兵器がメインウェポンになるって、軍事評論家や色んな専門家も口を揃えて言ってるしな。それに比べて、あいつらみたいに……大部分の一般市民が持つ能力なんて、兵器の足元にも及ばないしょぼくて平和的なのばっかだし」

 紫吳が顎で、未だに巨大シャボン玉のアトラクションではしゃいでいる生徒たちを指し示す。ギャラリーの中に着色系の能力を持つ者が混ざっていたのか、シャボン玉の表面が毒々しいほどカラフルな原色に染め上げられ、周囲から歓声が上がっている光景。

 星ヶ咲は、過去に同じような兵器優位論を語っていた自堕落科学者、苑奈の顔を脳裏に思い出しつつ、

「だねぇ。私みたいに街を壊しちゃうような危ない能力者が、この世界にそこら中ごろごろいなくて、本当に良かったよ」

 ふふ、と、平和な日常の尊さを噛み締めるように、心底から安心したような柔らかい笑みを浮かべる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。