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オール・ギフテッド  作者: パラデミコプス
第一部 第三章 強能力

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能力戦-スカッフル- 二

 その時。

「やほー、柄長。なんかすんごい派手な雷鳴と閃光が轟いてたけど、またなんか大立ち回りしてたらしいね」

 聞き慣れた声にかけられ、柄長は弾かれたように声の方向を振り向いた。そこに立っていたのは、待ちわびた友人たる西圓寺郝躬。彼女の片手には、配布所から調達したのか、芳醇なバターの香りを漂わせるフィナンシェが握られており、もそもそと食べている。

 相変わらずのその過剰なまでに主張する巨大な双丘に、自身の平坦で貧相な胸部を無意識に比べてしまい、一瞬げんなりとするものの、すぐに平然を装い言葉を返す。

「お、郝躬か。遅かったじゃん。さっきまでちょっと血の気の多いやつに絡まれてさ、いい時間つぶしにはなったけど。地女大って、いつもこんなノリなの?」

「ん? まぁね。退屈しなくて結構楽しい所でしょ」

「まぁ活気があるって点では否定はしないけど……。毎日こんな非日常が続いたら、精神的に疲れるわ」

 柄長はどっと肩を下ろし、深い疲労感を表現した。

「ネット発祥の国信大のがカオスなんじゃない?」

「いや、あそこは意外とちゃんとした大学だよ。蛞蝓亭なんてふざけた飲食店が近場にあったりするけど」

「うげっ。なんだそりゃ」

「ネットの再現ってだけで普通の飲食店だよ。名前のせいで一見じゃ入りづらいけど」

「そ、そうなんだ」

 西圓寺は多少困惑した。やはり、国信大という大学に通う柄長もまた、独自の感性があるのだろうか。

「で。遠目から一部始終を見てたけどさ、威乃森って、一応うちの大学じゃ最強の電気能力者なんだけど……なんか、ほんと次元が違うくらい凄いね、君」

 西圓寺が、柄長の底知れぬ力に冷や汗を交えつつ言う。

「あはは、それほどでもないって。まぁ、威勢が良かった割に即降参だったのは完全に拍子抜けしたけど」

「は、はは……。色んな意味で、本当に大したやつだよ、君は」

 西圓寺は苦笑いを浮かべ、切り替えるように、こほん、と小さく咳払いをひとつ。

「え、ええと。柄長は今回もまた、長野からわざわざ出向いてくれたの?」

「ん。また来させてもらったよ、ワープ・ゲート・サービスを利用して、遥々山奥の田舎からね。こんな面白そうなイベント、直接現地で見ないと損でしょ」

「遠路遥々お疲れ様なこった。こっちは見ての通り、相変わらずの有様だよ。瞰のやつが、狂ったようにばかすかお菓子を食べまくってんの」

「奇遇だね、こっちも筮麽が空中のお菓子を無限に食いまくってるよ。ようあんだけ満腹中枢イカれずに食えるわ」

「あぁ、なんかめっちゃ噂になってたよ。禍々しい紫の触手を何本も生やして、お菓子を片っ端から捕まえまくってる超背の高いモデルみたいな女の人がいるって」

「……あー、そりゃ絶対にうちの筮麽だわ。あいつも相変わらず、人目を気にせず派手にやってるなぁ」

 そんな、お互いに底なしの大食いの友人を持った苦労人としての悲哀を、ぽつりぽつりと分かち合う。

「あ、カクミンじゃん。そっちの雷神の化身と知り合いなの?」

 水面から顔を出したままの白高が、西圓寺の姿に反応した。

「あ、どうもっす。まぁ、同じ大食らいの猛獣を飼い慣らす苦労人同士と言いますか。先輩は今日も相変わらず、全身瑞々しいっすね」

「うん。まぁ文字通り、細胞レベルで水になっちゃってるからねぇ。保湿ケアは完璧」

「か、カクミン先輩とこの規格外の雷神の化身がまさかの友達同士……!? この原因不明のスイーツ・パンデミックといい、強者同士の邂逅といい、一体今日の地女大はどうなってるのー!?」

 再び夜井出が能力で演劇じみた大きな声を出し始めた。

「原因不明ではないだろ。……と、とりあえずこの場を離れよ、郝躬。目立ちすぎる」

 柄長が周囲の視線に耐えかねて促し、

「だね。じゃ、二人ともまた今度ゆっくり」

 西圓寺は白高と夜井出に向けて軽く手を振った。

 二人も水飛沫と解説を撒き散らしながら手を振り返した。


       ◆❖◇◇❖◆


 狂騒の中心たる噴水広場から少し離れた、比較的人通りの少ない裏手へと移動した二人。とりあえず西圓寺は、柄長に広大なキャンパスの案内をしつつ、至る所に設置されたパイプテントで無料配布されているお菓子をたまに貰って食べつつ、お互いの近況などをのんびりと話していた。

「そういや、結局のところ大学側はこのお菓子パニックをどうやって収拾つけるつもりなのさ? 空飛んでるのはいいとしても、校舎の壁面にべったりと張り付いちゃった巨大なアイスとか板チョコは、流石に衛生的に食べる訳にはいかないでしょ」

 柄長が、校舎を彩る奇抜な糖分の装飾を見上げながらふと思った疑問を口にした。

「あー、それね。そーゆー汚れちゃったやつは流石に生徒にも市民にも食べさせる訳にはいかないから、回収して家畜の餌にするらしいよ。とはいえ、一つ一つのサイズと量が規格外だし、全部専門業者任せで回収するんじゃ厳しそうだから、一部は処分するとか。外から物質消滅系の能力を持った人とか、現実改変系能力を持った人たちをどうにかかき集めて、能力の力業で何とかするって話らしいよ」

「なるほどね。大変そうだ」

「物質消滅だの現実改変と言っても大概は些細な能力しかないもんねぇ。昔いた空間抉りのテロリストが善人だったらよかったのにね」

「はは、たしかにね」

「ま、それはそうとして。とにかく、雨が降って溶け出してドロドロに流されたり、大量の虫が湧く前に処理しなきゃって、教授陣が青い顔して会議してたし」

「そりゃあ、上の人たちも大変そうだなぁ。学長さんも今頃胃に穴が空いてるんじゃない?」

 柄長が大人たちの苦労に同情混じりに言うが、

「いや、それがさ。なんかお陰で<地女大の知名度が全国区で爆上がりした! 来年の志願者増えるかも!>って、お菓子食べながら拡張器片手にめっちゃ喜んでたよ、うちの学長。なんというか、流石はこの地雷系女子大学を束ねる学長って感じだよねぇ。どんな異常事態でもビジネスチャンスに変える、あの適応力がすごいと言うか、逞しいと言うか」

「……はは、流石に地女大のトップに君臨するだけはあるな。肝の座り方が尋常じゃない」

 柄長は呆れ混じりに溜め息をついた。やはり、こんな狂った大学の学長を務めるくらいだから、こんなとんでもない国家的非常事態すらも学校の宣伝チャンスにしてしまうのだろうか。それとも、これがこの混沌とした異能社会特有の適応力の高さというやつなのか。

「ところでさ、ニュースで報道されてた、この事件の元凶──国家指定危険能力者ってのは一体どんな子なのさ。郝躬、同じ大学だし何か知ってたりする?」

 柄長は、ここに来て最も気になっていた核心を尋ねた。一体どんな能力で、何故こんな大規模なテロリズムまがいのことを引き起こしたのか、純粋な好奇心として非常に気になる話。

「あー、知ってる知ってる。あいつね。地女大一の実力者にして、手がつけられない最大の問題児。この大学の生徒なら、みんな顔と名前を知ってる有名人」

 西圓寺の声色が、先ほどの和やかなものから明らかに低く真剣なものへと変わる。まるで苦虫を噛み潰したような、複雑な表情。

「お、やっぱり知ってるのか。一体どんな人で、どんな恐ろしい能力なん? なんでこんな大学全体を巻き込むような真似をしたのさ」

「んー、一個下の一年生の女の子なんだけどさ。ええと、事の発端っていうのは──」

 西圓寺が、事の事象の顛末を説明し始めた。


「………は?」

 数分後。その全てを聞き終えた柄長は、理解の範疇を超えた事実に口をあんぐりと空け、完全にフリーズした。まさか、そんな些細で馬鹿馬鹿しい理由から、こんな大事件を起こす人間がこの世に存在するとは。

「嘘みたいな話だけど、全部ガチ。てか、本人が堂々と言ってたことだし。地女大のみんなもずっこけてた」

「まじかよ……。東京っていう帝都の人間は、そんなぶっ飛んだやつしかいないのか?」

 柄長が純粋な驚きと呆れを混じらせて言う。

「東京の人間がっていうより、あいつ個人がそういう規格外にぶっ飛んだやつって感じ。……いや、根は純粋で、決して悪いやつじゃないんだけどね。ただ、本人と能力のスケールが釣り合ってないだけで」

 擁護するように苦笑する西圓寺。

「柄長、せっかく遠くから来たんだし、記念にその元凶と能力戦でもしてみたら? あの人なら多分、ネタになるって喜んで受けると思うけど」

 西圓寺が冗談混じりに無茶な提案をするも。

「絶対やだわっ。あんな理不尽な能力相手に喧嘩売って、全身ベタベタの水飴まみれにされたらどうすんだよ、最悪すぎでしょ」

 柄長は顔の前で手をひらひらと振り、即座にその提案を却下。

「あはは、だよね。触らぬ神に祟りなし、ってね」

 西圓寺も声を上げて朗らかに笑い飛ばした。


       ◆❖◇◇❖◆


 現在、亜鳴蛇筮麽と麤月輪緋羅々は、狂騒極まるキャンパスを悠然と徘徊しつつ、空中に浮かぶ大小様々な菓子取り合戦──いわゆる能力戦(スカッフル)を延々と繰り広げ続けていた。なにも、能力で当人達が戦うだけがスカッフルではない。かつての筮麽と伽羅部の大食い対決のように、こう言った能力を使用した競い合いこそがむしろ主流だ。

「な、なんだあの二人っ!? どんどんスイーツ取ってる!」

「ヒェ~、ワイの取ろうとしたお菓子取られてるやんけ!」

「あ、麤月輪先輩だっ! ドーナツ串刺しにしてるっ!」

「キャーッ! 大食い怪獣伽羅部の襲来よーっ!」

 周囲を取り囲む野次馬や地女大の生徒たちは、目前で繰り広げられる常軌を逸した光景に、驚愕の歓声と悲鳴を交互に上げ続けている。


 喧騒の只中。筮麽はひたすら能力を行使していた。

 身体から触手が生える能力。

 両手の十指から伸びるのみならず、滑らかな腕部、そして白磁の如きうなじの皮膚を突き破り、無数の触手が乱れ咲く。その一本一本が独立した意思を持つかのように空間を這い回り、さらに末端から細かく枝分かれを繰り返す。

 ある触手は先端を鋭利な刃物状へと硬化させ、巨大なカステラの群れを空中で捕縛。またある触手は表面に特殊な粘着性を付与し、散弾の如く降り注ぐ金平糖やグミキャンディを接着させて絡め取る。変幻自在、千変万化のその触手群は、極めて効率よく高カロリーの菓子を捕らえ、そして捕獲した傍から次々と彼女の大きな口腔へと放り込み、一心不乱に咀嚼し胃へと流し込んでいく。

 一方の麤月輪緋羅々は、銀の爪を伸ばす能力を駆使して対抗。 

 しかし彼女の異能は、軌道が直線的だ。真っ直ぐにしか伸ばせないため、細く鋭利な銀の爪で複数の菓子を焼き鳥の如く一直線に串刺しにし、まとめて捕らえるという物理的で原始的な手法に頼らざるを得ない。

 そして、見事に串刺しにしたクッキーやパンケーキを、隣に控える伽羅部の広げた巨大な紙袋の中へと、ベルトコンベアの如く機械的に詰め込んでいく。

 ここで猛威を振るうのが、伽羅部瞰のいくらでも食べられる能力。

 彼女が猛烈な勢いでつがつと菓子を食べ尽すと、その特異体質が動き出す。体内では即座に食物を消化・吸収する超絶的なサイクルが稼働。摂取された膨大なカロリーは、伽羅部の鉄骨すらも易々と噛み砕く驚異的な歯牙の強度や、それを支える異常発達した顎部筋力の維持、そしてさらなる高速消化活動の為の莫大な基礎代謝エネルギーとして瞬時に消費され、文字通り底なしにいくらでも食べられる永久機関めいたサイクルが確立。

 ちなみに、この異能の恩恵により彼女の臓器全体も鋼鉄の如く強化され、物理的・化学的負荷もほぼかからず、膵臓のランゲルハンス島から絶え間なく特殊な強化インスリンを大量に分泌し続けるため、伽羅部がどれほど致死量の糖質を過剰摂取しようとも、急性糖尿病などの生活習慣病に陥る危険性は皆無。

 この戦況は、事実上の二対一の構図。両手の十指、その直進運動しか行使できない麤月輪に比べ、全方位から無数の触手を展開できる筮麽の手数は圧倒的。さらに筮麽は、自身の満腹という生理的限界を防ぐべく、既にコピー済みであった伽羅部の能力も同時発動し、捕らえた菓子を際限なく食らい続けるという反則技を敢行。

 言うまでもなく、純粋な菓子の獲得総数だけは筮麽の方が圧倒的。

 だが、この不均衡な状況に不満を爆発させる者が約一名。

「緋羅々っ! スイーツ全然足りないんだけどっ! もっとペース上げてよっ!」

 伽羅部の悲痛な叫び声。彼女の突き出した巨大な紙袋は、既に空っぽの状態。どうやら、彼女の底なしの摂食速度に対して、麤月輪の供給ペースが完全に追いついていない様子。

「仕方ないでしょお。筮麽の触手が凄すぎるんだってば。こっちは真っ直ぐにしか伸ばせないから、あっちこっち飛び回るお菓子を狙うのはすっごく効率悪いし」

 麤月輪が唇を尖らせてぶーたれる。

 伽羅部は不満げに筮麽の方へと振り返り、

「筮麽っ! アンタのそのうにょうにょした触手が持ってるお菓子、アタシにも少しは寄越しなさいよっ」

 空の紙袋を強引に突き出した。

 筮麽は露骨に嫌そうな表情を浮かべ、

「えー。それじゃ勝負にならないでしょ。自力で取ってよ」

「いやいや、アタシはそんな便利な能力じゃないし取れないって。そもそも今回の勝負ってお菓子を取った数の勝負でしょ。純粋な大食い勝負してる訳じゃないんだし、アタシに横流ししたってアンタのポイントは減らないじゃない」

「ま、まぁそれはそうなんだけどさ。なんか釈然としないというか」

「とにかくっ! アンタばっかそんなに大量に食べてずるいっ! 少しはこっちにも分けなって。アンタの触手は燃費が極悪に悪いと言っても、空にはまだまだいっぱいお菓子が浮いてるんだからいいじゃん、十分足りるでしょ。ほらっ、早く早くっ」

 伽羅部はしびれを切らしたように、ズイッと筮麽の顔面に紙袋を突き出した。自らの華麗なる触手さばきによる成果物を易々と譲渡したくはないと思った筮麽だが、まぁ伽羅部の切実な言い分も理解はできる。同じ大食いの悪友として、ここは海より深い情けをかけてあげるべきか。それに、今回の菓子・パンデミックの元凶たる地女大生徒の能力さえ無事にコピー出来れば、後で安全な場所でいくらでも無限にお菓子を生成して食べることが出来るという打算もあった。

「……仕方ないなー。特別大サービスだよ」

 筮麽はやれやれと肩を竦める。

 右半身から展開していた太い触手の群れ。

 伽羅部の方へと寄越し、捕獲した巨大エクレアやら虹色のわたあめやらを惜しげもなく紙袋へと詰め込み始めた。

「お? なんか今日のアンタ、妙に物分かりが良くて素直じゃない? まぁ、ありがたく頂くけどさ、どうもっ!」

 伽羅部が満面の笑みを浮かべ、顔のサイズほどもある巨大エクレアを豪快に頬張る。

「こりゃ私の負けだわ。あの触手の手数と器用さには勝てる気しねー、降参降参」

 麤月輪が早々に白旗を上げる。伸ばしていた銀の爪を引っ込めた。

 筮麽が少しだけ得意げに口角を上げ、

「お、私の勝ち?」

「勝ち勝ちっ。反則だわ、その触手。もはや生物としてのカテゴリが違う」

「ちょっとぉ! 何勝手に負け宣言してんのっ! 緋羅々、アンタもっとしっかりしてよ!! それに、アタシの胃袋はまだアイドリング状態なんだからっ!」

 伽羅部が紙袋を抱えたまま、ぷんすかと怒り出す。

 麤月輪は呆れたように空中を指さし、

「仕方ないでしょ、性能差のハンデがありすぎるわ。それにいいじゃん、よく見てよ、だいぶ空中のお菓子も減ってきたしさ。今日の所は負けでいいじゃん」

「まぁ、キャンパスの清掃が進むのはいい事だろうけどさ。でも、アタシのお腹の虫は収まらないし」

 伽羅部が不満げにそう零した、次の瞬間。

 ピシャン!!

 遠方の空気を切り裂くような、突如の鋭い轟音。

「お?」

 筮麽がピクリと反応した。この種の放電音に心あたりといえば、柄長の能力が何らかの理由で暴発したのか。そう思考を巡らせていると、横に立つ伽羅部と麤月輪は特に驚いた様子もなく、平然とした顔で言う。

「あぁ、また威乃森か。血の気の多いことで」

「だろうね。どうせまた目障りな相手を見つけて、派手な能力戦でもしてるんでしょ」

「ん? なんか知ってるの? 今の音」

 筮麽が二人の落ち着き払った態度に疑問を抱き、訊ねた。

「そそ。地女大一の電気使い。いかにもお嬢様みたいな高飛車なやつで、プライドが高くて気性が荒いの。すぐあぁやって電撃ぶっ放すんだよね」

 伽羅部がエクレアを食べながら答えた。

「へー。物騒な学校だこと」

 筮麽が興味なさそうにそう返すと、ビシャン!! と先程を遥かに凌駕する、大気を震わす巨大な雷鳴がキャンパス中に轟いた。

「はは、なんだか今日はすっごいでかい音だな。威乃森のやつ、相当興奮してんのかな。それとも相手が骨のあるやつとか」

 麤月輪。何気なく、遠くを見ながら言った。

「にしても、今まで聴いた中で一番でっかい音じゃない? 耳がキーンってなったし。そうとう相手が強いのかな」

「かもね。校舎壊さなきゃいいけど」

 どうやら、その威乃森という名の電気使いがこうして定期的に爆音を響かせるのは、この混沌とした地女大においては一種の日常的風物詩らしい。二人がそんな何気ない平和な会話をしている中、

(あぁ、二回目のデカいのは間違いなく柄長だな。また宝くじでも当たったのかな)

 筮麽は内心でそう確信していた。

 彼女の保有するコレクションのひとつ、音色を記憶する能力。柄長が発する特有の高純度な電気の音、その周波数や空気の裂ける微細な響きを、筮麽は正確に記憶していた。そして、音色を分析する能力の同時発動による精密な照合。二度目の圧倒的な落雷の如き雷鳴は、間違いなく鴨紅柄長が意図的に発したものと、この場において筮麽だけは完全に把握していた。

「それより別のところ行こうよ、もうここら辺はあらかた取り尽くしちゃって全然お菓子飛んでないし。探すだけ時間の無駄」

 筮麽が触手を収容しながらそう提案し、伽羅部も大きく頷く。

「ん、そうだね。ほら緋羅々、早く行くよっ。未知なる高カロリーお菓子がアタシらの救出を待ってる」

「だね。この調子で行けば、本当に日没までに全部空の掃除は終わるかもね」

 麤月輪も歩き出し、三人はその後もキャンパスを練り歩きながら残存する菓子を狩りまくった。

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