みっともないマウント合戦ですよ、はっきり言って
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流れる汗と疲労を洗い流すための、清潔かつ広大なシャワールーム。この巨大な能力開発ジムにおいて、正規の会員権を有する者であれば、誰でも無料でこの恩恵を享受できる。過酷な鍛錬を終えた三人は、それぞれ個別のシャワーブースへと入り、全身に纏わりついた熱気と汗を温水の洗礼によって洗い流した。
着用していた衣類に関してだが、この施設には至れり尽くせりの設備が完備されている。備え付けの最新鋭の洗濯機に放り込み、堅牢な蓋を閉じればよい。それだけで、施設のメインフレームと連動したオート・ウォッシャーが即座に作動する。内部に搭載された高度なセンサーが衣類の質量と繊維の材質を瞬時に読み取り、最適な量の特殊洗剤と高級柔軟剤が適切に投下され、全自動で完璧な洗浄が行われる。その後、衣類は自動的に隣接する極熱霊子乾燥機にへと移送され、超高温の熱風と微弱な霊子照射によって、完全なる乾燥と滅菌が短時間で実行。服は完璧に綺麗になる。
脱衣所から続く、広々とした更衣室。
普並木は、熱いシャワーで心身の疲労をさっぱりと洗い流し、火照った肌を拭いながら歩を進めた。上質なバスタオルで濡れた髪と身体を丁寧に拭き上げ、持参していた予備の清潔な下着を身に着ける。ただ、今日に限って彼女は上に羽織る替えの衣類を持参していなかった。
「ま、洗濯されてるか」
彼女は独り言を呟く。何の問題もない。使い慣れたスポブラをしっかりと胸元に装着した。
そのまま、少しばかり湿り気を帯びた空気を纏いながら、シャワールームの区画から更衣室へと足を踏み出す。
快適な空調が効いた更衣室。そこには他にも何人か、激しいトレーニングを終えて着替えをしている女性客たちの姿があった。
「あ、やっと出てきた」
のんびりとした足取りの普並木を出迎えたのは、黒角。彼女はとっくに着替えを済ませていた。熱いシャワーを浴びた直後ゆえか、普段は涼しげなその顔もほんのりと赤く火照っている。
すでに自身の洗濯と乾燥が完了した着替えを回収したのか、愛用のトートバッグを小脇に抱え、いつでも帰路に就けるよう万全の準備を整えていた。
「ごめんごめん。ちょっとシャワーでゆっくりしちゃった」
軽く謝り微笑み、自身の衣類を回収すべく、乾燥機が並ぶ区画へと歩き出す。
「遅いぞっ。いつまで待たせる気だっ」
不意に、少し離れた場所から怒気を孕んだ声が飛んできた。その方向へ視線を向けると、腕を深く組み、威圧的に仁王立ちする河海の姿があった。彼女もまた、とうの昔に着替えを済ませており、手持ち無沙汰に普並木を待っていたらしい。
「あはは。今すぐ着替えるよ」
普並木は苦笑を浮かべつつ、自身が使用した機材の番号を探す。すぐに見つけた。横に併設された乾燥機から、すっかり乾いて温かくなった着替えの衣類を取り出す。だが。
「……なに? 河海」
背後から、突き刺さるような鋭い視線を感じた。普並木は不思議そうに首を傾げ、視線の主を振り返る。河海の眼光は、普並木の顔ではなく、その胸元に一点集中して注がれていた。
無骨なスポブラによって中央に寄せられ、無慈悲なまでに強調された、その豊満な谷間。熱いシャワーを浴びた直後という状況も相まって、肌はほんのりと桜色に染まり、匂い立つような艶かしい色気を放っている。ゆえに、たとえ同性であろうとも、思わず目を奪われてしまうほどの圧倒的な引力を持っていた。
そしてなにより。普並木はこの仲良し三人組の中で、群を抜いて一番スタイルが良い。
河海は身長百五十五センチメートルと小柄であり、その胸部は悲しいほどに平坦を極めている。
黒角自身も百五十七センチメートルと平均的な背丈であり、胸のサイズもまた世間一般の平均値に収まっている。だが、普並木は違う。百七十センチメートルという、女性にしては高身長を誇り、それに比例して胸の発育も目を見張るほどに素晴らしい。
自身の弱能力への強烈なコンプレックスから、幼少期より能力開発ジムへと通い詰め、同時に一般的な筋力トレーニングや日々の体力作りも欠かさず行ってきた。その血の滲むような努力の結晶として、彼女の身体には程よく引き締まった美しい筋肉が備わっており、腹筋には彫刻のような綺麗な縦のラインが刻み込まれている。なので、常に自身の幼児体型を気に病んでいる河海が、思わず羨望の念、あるいはどす黒い嫉妬の炎を燃やしてその肉体美を凝視してしまうのも、決して無理からぬ話。
「あっ。河海〜。さては、私の魅力的なボディに見蕩れたな?」
普並木は相手の心中を察し、わざと意地らしい笑みを浮かべてみせた。
「んなっ!? そ、そんな訳あるかっ」
「いやいや。顔にデカデカと書いてあるよ〜。羨ましいって」
「書いてないっ! 全然羨ましくなんてないしっ」
「ほんと〜?」
「ほ、本当だわっ!」
そう言い張り、顔を真っ赤にして否定する河海を、普並木は楽しげにからかって見せた。
この三人の中では、純粋な能力だけという物差しで測れば、普並木が一番劣っている。だが、こと身体的魅力、すなわちスタイルという土俵に関しては、彼女が堂々たる頂点に君臨しているのだ。かつて、あの規格外の怪物たる亜鳴蛇筮麽の参謀として立ち塞がった鴨紅柄長には、能力の圧倒的な出力差で手も足も出ず無惨な敗北を喫した。
しかし、ことスタイルの勝負においては、普並木の方が圧倒的優位に立ち、その分野においてのみ見事な勝利を収めることができたのだ。これまで普並木は自身の貧弱な能力の事ばかりを気にして深く思い悩み、自身の恵まれたスタイルなど全く顧みなかった。だが、あの柄長との奇妙な邂逅と顛末以来、すっかりその部分には確固たる自信を持つことが出来ていた。




