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オール・ギフテッド  作者: Paracoccidioidomicosisproctitiss
第一部 第二章 夏休み

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能力コストダウンを目指す

「うーん。自己修復を夢見るのもいいけど、それより先に、まずは能力の根本的なコストダウンを考えた方がいいんじゃないかな? 河海さん」

 突如、三人の頭上から、よく通るバリトンボイスの男の声が響いた。

「え?」

 河海が驚いて振り向くと、そこには三十代ほどの、彫刻のように美しく筋骨隆々の男性が立っていた。服装は動きやすさを重視した簡素なタンクトップ。日々の過酷な屋外トレーニングによりその肌は見事なまでに日焼けされており、鋼のように引き締まった褐色の巨大な筋肉が、惜しげも無く披露されている。

 そう、この圧倒的な威圧感と包容力を併せ持つ男こそが、河海が全幅の信頼を置く専属トレーナーだ。

「僕の担当した君のその棍棒能力は、初めて会った時に説明しただろう? 僕の腕からバットを出す能力と、カテゴリーが全く同じ召喚タイプだって」

 男は自身の手の甲を上に向け、太い丸太のような腕をすっ、と水平に伸ばした。その鋼の肉体の腕の表面。シュッ、と空気を切り裂くような鋭い音と共に、鈍い光を放つ金属バットが魔法のように現れた。手の甲から生え出したそれ。中指と薬指の間でグリップをしっかりと挟み、ビン、と甲高い風切音を響かせながら、その重々しいバットを軽々と立て、最後にその太い指でバットのグリップを力強く握り込んだ。

「は、はいっ! それはよく分かってますっ! 竹多たけださんっ!」

 河海は先程までの疲労困憊の顔から一転、パッと満開の花が咲いたように明るい声を出し、竹多と呼ばれたその大柄なトレーナーに向き直る。普段は大人を舐め腐っている不良たる彼女でも、同系列の能力の果て無き高みを知る大先輩には、心からの素直なリスペクトを向けているようだ。

「僕のこの能力、実は僕がまだ子供だった昔は、木製の安っぽいバットしか出なかったんだよ。ただ、このバットを野球に使ってたら、いつの間にか気付いた時には硬い金属バットに進化して出るようになっていたんだけどね」

 ははは、と男らしく高らかに笑い、竹多は自身の過去の経験談を語り続ける。

「でもね、僕の能力も、君の能力と同じタイプ。木から金属バットに材質が変わったら、当然ながらその質量と密度の分、一回出すごとのコストが劇的に上がったんだよ。だから、僕は考えた。自身の体力の温存と、能力の効率的な運用。そのコストダウンの為に、僕はこうして工夫したんだよ」

 もう片方の、太い腕の甲。全く同じように空手で構える。すると、またしても魔法のようにバットが現れた。だが、それは先程の冷たい金属ではない。美しい木目を持つ、頑丈な木製のバット。それを軽々と持った。

 彼のたくましい両腕には、片手にそれぞれ、かつての木製と、進化した金属のバットが握られている。

「あ、ほんとだっ。すごーいっ!」

 河海は目をキラキラと輝かせ、自分もいつかそんな風に操れるようになりたいと、羨望の眼差しを向ける。

「おおー」

 黒角は素直に感心の声をあげ、パチパチと控えめな拍手を送った。

「え? つまり、一つの能力の中に、木と鉄、つまり二重属性ダブル・スキルって事ですか? それってすごくないですか?」

 普並木が、自身の単純な電気能力と比較して、思わず身を乗り出して尋ねた。

「うーん、専門的な見解ではそうなのかな? でも、僕の中ではあくまでバットを出すって括りには変わりがないからねぇ。一応、戸籍上では、バット召喚って単一属性ってことになってるけど、細かいことは気にしてないよ」

 竹多は豪快に笑いながらぱっ、と両方のバットを一瞬で虚空へと消し去った。

「そして、君たち二人の友人も、とても素晴らしい能力だよ! そっちの茶髪の子の手の宝石化は強靭な防御と攻撃を兼ね備えて強いし、そしてオレンジ髪の君。その指先から電気を出すというのも、日常生活や護身用としては申し分ない、立派な能力じゃないか!」

 竹多は二人の顔をしっかりと見据え、心からの賛辞を込めて熱く語りかける。

「あ、どうも。お褒めに預かり光栄です」

 そこまで自身の能力に執着やこだわりの無い黒角は、軽く会釈して一言だけクールに返す。

「ほ、本当ですかっ!? 私みたいな地味な電気でも、そう言ってもらえるなんて……!」

 しかし、長年コンプレックスを抱えていた普並木は違った。その道のプロから能力を真っ直ぐに褒められるということは、やはり彼女の心に計り知れない自己肯定感と多幸感を与えるらしい。

 またしても、ふへへ、とだらしない笑みをこぼし照れくさそうに身をよじる普並木を尻目に、竹多は表情を引き締める。

「よし、河海さん! 休憩は終わりだ。引き続き進化した棍棒の強化と、君自身の基礎的な体力トレーニング、そして最終的には、コストを抑えるために、元の無骨な棍棒も自由に出し入れできるように頑張ろうっ!」

 熱い炎を宿した瞳で、自身の担当である河海に向き直り、力強く拳を突き上げる。

「は、はいっ! よろしくお願いしゃーすっ!! 私、絶対亜鳴蛇ぶっ飛ばすんでっ!」

 河海は今日一番の気合の入った野太い声を張り上げ、再び己の武器である棍棒を力強く構え直した。

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