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七十六話 決闘と魔術師の高み


決闘とは古くから魔術師同士の古典的な揉め事の解決法である。


その仕組みは至極単純で一対一で戦い、勝利した方が自らの要求を通すことが出来る。


闇討ちや奇襲、集団で戦うことが多くなっている今の時代では廃れつつある文化だが、決してなくなったわけではない。


「決闘ですか、そのようなカビの生えた文化を持ち出して何のつもりですか?」

「何のつもりとは何よ?、まさか私の仲間を利用しておいてタダで済むと本気で思ってるの?」


イデアの怒気を正面から浴びたシルヴィアは笑みを消して、視線を鋭くした。


「私と本気で戦うつもりなのですか?」

「さっきからそう言ってるじゃない。それとも何?、私に負けるのが怖いの?」

「ふふ、いいでしょう。その安い挑発に乗りましょう、君は何を私に要求するのですか?」


ソファーから立ち上がったシルヴィアの問いにイデアは真っ直ぐ答えた。


「私が勝ったら抗争を収めるのに協力しなさい、貴女が勝てば私の魔術の知識を開放してあげるわ」

「っ!、随分と大きなものを対価に差し出すのですね」


《双杖》の魔術知識ともなればそれは値千金どころか、魔術師にとっては便利な例えが浮かばないほどの価値がある。


「当然よ、そうでもしないと貴女は屁理屈を言ってこの決闘から逃げるでしょ?」

「否定はしませんが好都合です、前々から君とは全力で戦いたかってみたかったですからね」

「偶然ね、私も貴女のスカした面を叩きのめしたかったのよ」


既に立ち上がっている二人は魔力を全力で放出して、同時に叫んだ。


「「昔から貴女(君)のことは気に食わなかったの(です)よ!!」」


◆◆◆◆


積年の思いをぶつけあったとはいえ、あの部屋では全力を発揮出来ない為、二人は修練場(しゅうれんじょう)と呼ばれる《魔術学院》の施設に移動した。


この施設は主に魔術師が何の気概もなく魔術の研鑽を積める場所である為、二人が戦うに値する広さがあるのだ。


「本当に……私が審判でいいの……?、私は魔術師じゃないよ……?」

「構いません、決闘のルールはどちらかのローブに魔術が当たった時点で当てた方の勝利ですから勝敗を判断するのに魔術師である必要はありませんから」

「なるほど……それを見ればいいんだね……」


エルネスティアの言葉にシルヴィアは首肯した。


「開始の合図もエルさんにお願いしてもいいかしら?」

「任せて……」


イデアに頼まれたエルネスティアは頼みを快諾し、片腕を振り上げた。


「始め……!」


「"雷槍(ランス)"」「"雷剣(ソード)"」


エルネスティアが片腕を振り下げた瞬間、眩い電光がイデアとシルヴィアの間で発生した。


先程の挨拶とは比較にならない速度で展開される二人の雷魔術が連続で激突したせいだが、この状況を想定していた二人は共に視力を頼らず、魔力探知能力に()を切り替えた。


「(やはり押し負けるか)」


シルヴィアが相殺し損ねた雷魔術が飛んでくるが、彼女は軽いステップワークで躱した。


そもそも一撃の重さを重要視するアルテレス派の自分が二本の杖を持つフルグラス派のイデアに魔術展開速度で負けるのは必定であり、シルヴィアはすぐに魔術戦のセオリーに従った。


自分より魔術を撃つのが速い者と戦うなら、まず射線を遮れば良い。


「"岩釘壁(ウォール)"」


定石に従ったシルヴィアは自らとイデアの直線上の中心に大きな岩の壁をせり立てた。


それを見越していたイデアはせり立つ瞬間に曲射で壁を避けて魔術を撃ち、シルヴィアの不意を突こうとしたがその程度の不意打ちは当然のように読まれて相殺された。


数秒間、二人は壁越しに曲射で撃ち合ったがやはり視界の制限は命中精度に支障を与える為、イデアは壁の除去にでた。


「"炎爆球(バーストボール)"」


火炎の球体が岩壁に当たった瞬間、爆発して岩壁を破壊するがシルヴィアはそれを読んでいた。


破壊された壁の瓦礫を風魔術でイデアへ射出した。


射出されたのはただの瓦礫ではなく破壊されるのを前提に無数の土釘が仕込まれており、不意打ちで食らえば常時展開している防御魔術の障壁では防げない。


「稚拙ね」


岩壁になにかが仕込まれているの当然のように読んでいたイデアはそれを(あざけ)った。


半球状に展開した障壁で土釘はイデアに何の痛痒も与えず、後方へ受け流された。


「さすがは《双杖》ですね、この程度は不意打ちのうちにも入らないですか」

「戯言を続けるのは勝手だけど貴女の力はこの程度なの?」

「何ですって?」

「貴女の力はこの程度かと聞いたのよ。先読みを使った相手のミスを狙う手管(てくだ)は大いに結構よ。けれど貴女の力をそんなものに頼らならければいけないほど惰弱なの?」


イデアの言葉は明らかに挑発にだったが、鋭い笑みを浮かべたシルヴィアは挑発に乗ることにした。


「ふっ、癪ですがその挑発に乗って差し上げましょう」


長杖を両手で握ったシルヴィアがゆっくりと空へ昇るのと同時に纏う魔力が加速度的に膨れ上がっていった。


「来なさい、貴女の全力を真正面から打ち破ってやるわ」


二本の杖を上昇するシルヴィアに向けたイデアの全身から莫大な魔力が放出された。


二人の放出した魔力が空間を震わせ、危険を感じたエルネスティアは周囲を囲む観覧席に下がった。


「ヤ、ヤバくないか?、あの二人が撃ち合ったら修練場の結界が壊れるんじゃないか?」

「だ、大丈夫だろ、この結界は魔力吸収型だから強力な魔術がぶつかり合うなら余計に強度を増すはずだ」


観覧席でたまたま決闘を見ていた二人の魔術師の声が聞こえてきたが、その声音は震えていた。


「(無理もない……多分これほど魔力を浴びたことがない……)」


エルネスティアは二人を止めることはしなかった、本気でぶつかる二人に失礼だと考えたからだ。


「私の役目は……勝敗を決めること……」


エルネスティアはいつの間にかシルヴィアの上昇が止まっているのに気付き、彼女の周囲に雷雲が集まっていた。


「"天雲の化神・真名はレウス・司るは(いかづち)・従えるは雷鳴(らいめい)・愚かなる地人(ちじん)に尊き裁きを"」


力強き詠唱によって雷雲がシルヴィアの中心にとぐろを巻き、周囲の空間に雷光が走り巨大な白き雷が彼女の頭上に顕現した。


「"(いにしえ)の理よ・虚を露呈し・無を否定し・万物を焼却し・天を切り裂け"」


厳かな詠唱によって莫大な魔力がイデアの二本の杖へ極点集中し、漆黒の炎と赫き風が螺旋を描く一本の槍のように収斂された。


詠唱を終えた二人は同時に発動の(キー)たる魔術名を吠えた。


「"神罰雷轟(ケラウノス)"!!」

「"黒赫炎嵐槍(インラントスパイラル)"!!」


天から大地に立つ全てを灼く白き天雷が堕ち、大地から天を焼き穿く赫き嵐の槍が放たれた。


魔術師の頂点に位置する二人が放った二つの極大魔術は真正面から衝突し、中空でせめぎあい凄まじい衝撃波を周囲にバラまいた。


天と地だけでなく空間すらも悲鳴を上げ、衝撃波によって修練場を包む結界が消し飛んでいった。



「「はああああああああ!!」」


拮抗を打ち破るという打算を抜きにして、二人は己の魔術を押し通すべく咆哮した。


時間にすれば十秒程の拮抗を経て、赫き嵐の槍が天の裁きを穿いた。



そのままシルヴィアを呑み込むかと思われたイデアの極大魔術だったが、直前で弧を描いて軌道を変更しシルヴィアの前髪を掠めて真上の曇天を穿いた。


「魔術組成の段階で負けましたか、お見事です。《双杖》のイデア」

「貴女の魔術が広範囲殲滅でイメージされてるのは分かってたわ、それなら私は一点集中でそれを穿くだけよ」


シルヴィアの魔術が広範囲殲滅でイメージされていたというのはイデアが立つ足元の部分以外の場所が消し飛んでいることも容易に想像できるだろう。


「勝者……イデア……」


観覧席にいるエルネスティアのコールが聞こえてきたので、シルヴィアは簡易的な風の足場を作ってイデアの近くに降り立った。


「要求は呑んでもらうわよ」

「決闘に負けたのです、当然君の要求は受け入れますよ」

「変な言い訳をしなくて助かるわ」


嘆息したイデアはシルヴィアに対して、抗争を終わらせる腹案を明かすのだった。

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