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五十話 乱戦と保護


「イデア、アーネ、止まってください。俺が二人の気配を探ります」


二人が頷いたのを確認してアルレルトは気配察知に全神経を注ぎ、索敵を始めた。


ヒュオオーという風切り音が聴こえるとアルレルトの周囲に小さな風たちが渦巻いていることにイデアは気付いた。


(たくさんの極小の魔力がアルの周囲で渦巻いてる?)


「いました!、ついてきてください!」


アルレルトがそう言って走り出したので、イデアとアーネは慌てて追いかけた。


時折使用人に襲いかかる侵入者たちと出会ったが、アルレルトが一撃で絶命させていく。


イデアが援護する暇もなく、アーネが加勢する暇もない。


「アル、強過ぎじゃない!?」

「ほとんど不意打ちみたいなものだから当然」


当たり前だと頷くアーネの反応に釈然としない気分を味わないながらも、イデアはいつでも魔術を撃てるように準備をした。


アルレルトの背を追い掛けていると、剣戟音が聞こえてきた。


おそらくグラールの騎士と侵入者が戦っているのだろう、そうイデアが判断した瞬間にはアルレルトは騎士と戦っていた一人を斬り倒した。


「加勢する!」


三人の騎士と交戦しているのは四人の侵入者、既に一人はアルレルトが斬ったので残るは三人だ。


一方的に騎士たちに告げたアルレルトは爆発的な踏み込みで間合いを詰め、突然の乱入者に惚けていた侵入者が我に返る頃には袈裟に斬られた。


我に返った騎士たちは侵入者を問題なく斬り捨てた。


「助かったぞ、アルレルト。突然の奇襲で後手を踏んだ」

「…クリムト騎士長、礼には及びません。あっ、二人は俺の仲間です」


助けた騎士の一人が護衛依頼で顔を合わせたクリムト騎士長であったことに一瞬驚いたが、素早く仲間の二人を紹介した。


「知っている、それより今はお嬢様の安全を確認したい、アルレルトもついてきてくれると助かる」

「イデア…」

「行きましょう、グラールの騎士は精強だしアルも放っては置けない子なんでしょ?」

「はい、ありがとう、イデア」


アルレルトの心底嬉しいという笑顔に頬が赤くなるのを感じていると、アーネがジト目で見ていることに気付いた。


「ちょろい魔術師だね」

「煩いわよ!、アーネ!」

「二人共!、行きますよ!」


アルレルトに急かされて、慌てて先行する騎士たちとアルレルトの背を追いかけた。


「クリムト騎士長、メリン様の部屋までどれくらいですか!」

「一分もかからん!」


すれ違いざまに見つけた侵入者を斬り捨てながらアルレルトとクリムトは言葉を交わした。


そしてその言葉通り、すぐに部屋の前に倒れる二人の騎士とその二人にとどめを刺す寸前の侵入者たちが視界に入った。


「"雷槍(ランス)"!」


アルレルトとクリムトの間を通り抜けて、三本の雷の槍が侵入者を撃ち抜いた。


「魔術!?」

「グラールの騎士が来たぞ!」


侵入者たちの焦る声が耳に入り、侵入者の一人が部屋が向かって叫んだ。


「アルレルト!、お嬢様を守れ!!」

「っ!!」


最悪を想像したクリムトの叫びに呼応するかのようにアルレルトの姿が掻き消えた。


否、正確には侵入者たちを斬る手間を惜しんで()()()()()()()()()()


「「「!!?」」」


あまりにも非常識な方法で彼らを越えていったアルレルトに対して行動を起こす前に、アルレルトは壁を蹴って部屋に飛び込んだ。


「メリン様!」

「ア、アルレルト!、きゃあ!?」

「動くんじゃあ…」


部屋の中に居たのは三人の侵入者で一人はアルレルトに気付き、剣を向けていたメリンを抱きかかえて人質に取ろうとして急に重みがなくなった。


何故なら抱きかかえようとした腕をアルレルトが切り落としたからである


「ぎゃああああああ!!?、ぎょえ?」


「メリン様、お怪我はありませんか?」

「うえぇぇん!!、アルレルト!!、怖かったよぉ!!」


悲鳴を上げる男の首を落としたアルレルトは大泣きするメリンを抱きしめた。


「大丈夫ですよ、メリン様。怖い人たちは全員俺が追い払います」

「「!?」」


アルレルトの目に殺意が宿った瞬間、二人の侵入者は反射的に剣を構えた。


アルレルトはメリンをキチンと抱き締めて、半身になって剣を構えた。


「子供を抱えた状態で戦えるのかよ!」

「その子供諸共殺してやる!」


「いいえ」


左右から同時に攻められたアルレルトは同時に踏み込み、腰を落として男の突きを避けて片方の男の喉を貫いた。


「お前ら如き片手で十分です、"神風流 荒風"!」


喉を貫いた男の首をねじ切りながら、荒ぶる風の斬撃が追撃しようとしたもう一方の男の片腕を斬り裂いた。


「ぎゃあ!?」

「"神風流 平風(ひらかぜ)"」


たらら踏んだ男の首を綺麗に切り落とし、血の雨が降るが胴体を蹴り倒して床に撒き散らさせた。


「部屋を汚してしまいましたが許してくださいね」

「全然大丈夫!!、助けてくれてありがとう、アルレルト!」

「はい、間に合って良かったです」


心の底からそう思い、メリンが部屋の光景を見ないように胸に抱きかかえながら血振りをして黒鬼を鞘に納めた。


「お嬢様!!、無事ですか!?」

「この通り無事です、其方は片付きましたか?」

「大丈夫よ、部屋の外にいた侵入者は全員倒したわ」


心底安堵してメリンに頭を撫でられるクリムト騎士長ではなく、イデアが掃討の報告をしてくれた。


「でも部屋を守ってた二人の騎士が重傷ね、あれだけの侵入者を相手にして生きてるだけでもとんでもないけど」

「第三騎士隊の騎士はしぶとい連中が揃っているからな、しかし重傷の二人を置いては行けんな。ベン、ゴラン。ニールとチャックの護衛をしろ」

「「はっ!」」


クリムトは連れていた二人の騎士に重傷の騎士たちの護衛を命じた。


「メリン様はどうしましょう、このまま連れていきますか?」

「その方が良いだろう、おそらく現状ではアルレルトの腕の中が一番安全であろう」

「是非とも承りたいところですが…」


正直言ってメリンを抱えながら戦うのは危険(リスク)が大きすぎるし、どんな敵が現れても万全に戦えるように両手を開けておきたいのでアルレルトは悩んだ。


「メリン様、俺の仲間を紹介します。人獣のアーネといいます、彼女がメリン様を守ります」

「毛が生えてる!!、モコモコ!!」


突然紹介されたアーネは敬愛する主に訝しむ目を向けたが、アルレルトがメリンの身柄を渡してきたのでやって欲しいことは何となく察した。


メリンは初めて見る人獣という存在に先程の恐怖を忘れて、目を輝かせていた。


「アル様、この子を守ればいいの?」

「お願いします、アーネ」


ため息が出そうになったがアルレルトの命令だと考えて我慢して、メリンを守ることにした。


「それじゃあ当初の予定通り…!?」


イデアの言葉を遮るように凄まじい轟音が響き、屋敷が揺れた。


「今のは……屋敷を破壊して誰かが戦っています。それにこの気配は…」

「アル?、どうしたの?」


アルレルトの表情が珍しく強ばっていることに気付いたイデアは警戒しながら聞いた。


「戦っている気配の近くで魔人(ディアボロス)と思わしき邪悪な気配とネロの気配を感じました」

「ネロの!?」


まさか彼女がいるとは想定していなかったイデアは動揺してしまい、クリムトに気付かれた。


「何か分かったのなら教えてくれると助かるんだがな」

「ええと、おそらく敵は《妖魔の館》よ。今夜の奇襲が読まれて逆に先手を打ちにきたのだと思うわ」

「《妖魔の館》か、なるほど。しかしこの屋敷にはオリビア様やレオン様、それにガレオン殿やカイネ殿もいるのにか?」


クリムトはグラール伯爵家最高戦力が揃っているところに攻めてくるのかと疑問の声を上げた。


「現状攻めてきているのだからそんなことは考えても無駄よ、早くオリビアたちと合流しましょう。アル、ネロのことは後にしましょう」


最後に小声で付け加えられた言葉にアルは目線で了承を伝えた。


一行は戦いの気配を目指して、走り始め殿を務めるイデアは警戒しながら思考を巡らせた。


(クリムトさんが言っていたことは的を射てるわ、それでも《妖魔の館》が襲撃してきたのはその戦力差を覆せる()()があるとしか思えないわ)


背筋に冷たいものが走り、"嫌な予感"がイデアを襲った。


(いえ、仲間を信じなさい、イデア。リーダーが仲間を信じられないでどうするのよ!)


自らに喝を入れたイデアは力を入れて、前を向くのだった。


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