三十九話 迷子と騎士姫
隠し部屋を攻略し、宝石を手に入れたパーティーはイデアの采配で密林迷路へ戻る道を探していた。
「リーダー、この道だよ、天井の高さが元に戻ってる」
探索役のネロがそれほど時間を掛けずに迷路へ戻る道を見つけた。
「幸いと魔獣には会わなかったとはいえ、迷ってしまったわね」
「確かにどちらへ進めば良いのでしょうか?」
イデアの呟きにアルレルトも同意してしまった。
今までずっと進むだけだったので迷うことはなかったが、落とし穴を通じて一気に十八階層まで降りてきてしまったので道が分からなくなっしまった。
下手に進んでも複雑怪奇な迷路に囚われるだけなのは目に見えていた。
「ネロ、こういう時普通のパーティーならどうするの?」
「迷うのを承知で進むしかないよ、というかリーダー、意外と冷静なんだね」
「冷静というよりも皆を信じてるだけよ」
イデアの純粋な言葉と笑顔にネロは即座を目を逸らしてしまった。
「右でも左でも迷っても下の階層に降りる階段を探すわ」
「了解です、アーネもヴィヴィアンも準備はいいですか?」
「大丈夫、荷物があってもアル様がピンチの時は動く」
「グルルゥ!!」
元気な二人の様子に頬を緩めたアルレルトだったが、即座に意識を迷路攻略へと切り替えるのだった。
◆◆◆◆
正直に言ってアルレルトたちは密林迷路を侮っていたわけでない、しかしどこか楽観視していたところもあった。
迷路とはいえ歩き続ければ脱出できるのではないかという楽観、しかし今まで数え切れない冒険者を呑み込んできた迷路は並ではなかった。
「まるで進んでる気がしないわね」
「はい、魔獣は襲撃を受けながら移動しているように見えてそこまで移動している気がしません」
「二人共、流石だね。私たちは見事に迷路に囚われてるよ」
ネロはため息を吐きそうなくらい陰鬱な雰囲気を纏っていた。
アルレルトもネロの気持ちはよく分かる、何もしても変わらない現状は終わりの見えない道を歩くが如き徒労感がある。
さらに歩けば歩くほど迷路に囚われ、ジワジワと首を締め付けられているようにも感じる。
「迷路の策略に乗るのは癪だわ、ここは一度強引な手段に出てみましょう」
イデアは何かを決断したように白杖と黒杖を抜いた。
「一応聞きますが何をするつもりですか?」
「魔術で迷路の壁を破壊するわ、少なくともこの場所から脱出できるわ」
「それは是非とも止めて貰おうか、《双杖》」
「「!?」」
突然掛けられた声に振り向くと、通路の一つに剣を佩き鎧に身を包んだ一人の女騎士が立っていた。
否、一人ではなく女騎士が前に出ると後ろから五人の騎士が現れた。
そして何よりもアルレルトは目の前に立つ女騎士を知っていた。
「貴方はメリンの姉君!?」
「おや、数日振りだな冒険者。また会うとは奇縁だな」
アルレルトのことを覚えている様子の金髪碧眼の女騎士は興味深い目でアルレルトを見た後、イデアに鋭い視線を向けた。
「《双杖》、迷宮は生きている。このことをお前が知らぬわけはないと思うが?」
「その金髪に碧眼、その口調。"騎士姫"ね、そう言えば貴女はグラール伯爵家の血筋だったわね」
「質問に答えろ、《双杖》。返答次第によってはお前を斬らねばならん」
まさかの発言にアルレルトは咄嗟に前に出ようとして、イデアに止められた。
「イデア…」
「迷路に迷ってしまったから新しい道を作ろうとしただけよ、別に迷宮を破壊するつもりなんてないわ」
「ふむ、迷路に迷ったというわけか。本当にお前は手段を選ばぬ女だな」
「褒め言葉として受け取っておくわ」
「お前に迷宮を破壊されては困る、我らに付いてくるがいい」
女騎士の発言にアルレルトたちはイデアに視線を向け、イデアが頷いたので女騎士たちについて行くことにした。
「我の名はオリビア・ヴォルス・グラール、お前らも名を名乗るが良い」
「名乗る必要はないわよ、貴族と関わって良いことなんてないんだから」
オリビアと名乗った女騎士はやはりグラール伯爵家の人間であり、名乗るように求めてきたがイデアが代わりに拒絶した。
アルレルトの名は知っているのでおそらくネロやアーネ、ヴィヴィアンの名を知りたかったのだろうがネロは貴族と対面している緊張感のせいか一切話さず、アーネやヴィヴィアンのことをアルレルトはあまりに話したくなかったのでイデアに助けられた。
「何を言う《双杖》、我に名を覚えて貰える可能性を潰すというのか?」
「貴族に名前を覚えてもらうなんて呪いよ」
「酷い言い様ではないか、お前もその貴族の一人だろうにガーランド公爵家の…」
イデアが殺気を出したので、オリビアの後ろにいた騎士たちがほとんど一瞬でオリビアを囲んだ。
「家の名を出さないで、もしまた家の名を出したら伯爵家の騎士姫だろうと容赦しないわよ」
「おお、怖いな。あの"魔術卿"も随分娘に嫌われたものだな」
怖いもの知らずなのかオリビアのからかいは止まらず、イデアの殺気が増したので流石にアルレルトは止めに入った。
「差し出がましい口を挟むことをお許しください、これ以上イデアを揶揄うのは止めていただけませんか?」
アルレルトは杖を抜こうしたイデアの腕を掴みながら、オリビアに頼み込んだ。
「アル…」
「ここで殺しあっても何の得もありませんよ」
アルレルトがそう耳打ちすると、イデアは杖を抜くのを止めた。
「ほう、面白いな《双杖》の殺気を解くか。アルレルトだったな、お前の名前は覚えてやろう」
「…オリビア様は何故迷宮へ?、私たちは巨毒蛇の討伐を目指しています」
アルレルトはオリビアの話に取り合わず、より丁寧な言葉遣いで強引に話を変えた。
「巨毒蛇の討伐か、ならば我らと目的は同じか。そうであったな、カイネ」
「はっ!、その通りでございます」
オリビアの確認の言葉に後ろに控えてたカイネと呼ばれた騎士が力強く頷いた。
「重複、こちらに譲る気は無いの?」
「我は分かりきったことを質問する者は嫌いだ、そちらこそ我に譲るがいい」
「お断りよ!、こっちはアルの昇級依頼なんだから譲るわけないでしょ!」
「助けられた分際でよく吠える」
またしてもオリビアのからかいにイデアが杖を抜きそうになっていた。
「私たちが協力して巨毒蛇を倒すことは出来ませんか?」
「何?」「アル?」
アルレルトの提案にオリビアとイデアは共にキョトンした顔になった。
「ぷっ、ははははは!、面白い提案をするものだな、アルレルトよ。良いぞ、その提案乗ってやろう」
「オリビア様!?」
背後の騎士たちが動揺した雰囲気を出したが、オリビアが手を振ると一瞬で収まった。
「協力するつもりがあるとは驚きだわ」
「無論討伐したあかつきには巨毒蛇の素材は我らが貰う、この条件を受け入れればの話だがな」
「良いわよ、その条件呑んであげるわ」
オリビアはイデアが即断したことに僅かながら訝しんだ。
巨毒蛇が落とす素材は高く売れるので、こうもあっさりと引くとは思っていなかったのだ。
イデアがあっさり引いた理由として隠し部屋で手に入れた宝石たちがあるからなのだが、オリビアは知る由もない。
「臨時とはいえ合同討伐を組むわけだから指揮系統はハッキリしたいわ」
「今回はお前に譲ろう《双杖》、階層主戦においては状況を俯瞰できる魔術師が指揮を取るのが最良であろう」
「意外と聞き分けはいいのね」
「我は困ったら迷宮の壁を破壊しようとする阿呆ではないからな」
「何ですってぇ!?」
相変わらずイデアを揶揄うオリビアの様子にアルレルトは自分で言ったことながら、協力できるのか不安に思うのであった。




