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夢のかけら  作者: 高原 涼子
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 一学期も終わりが近づいてきて、俺は憂鬱になってくる。

 俺たちが通うこの高校は、生徒会長だけが選挙で選ばれて、残りは全員会長からの指名で決まる。基本的にはその前年の副会長が立候補して、他に立候補者がいなければ信任投票になる。ーーもう何年も他の候補者が出てくることもなかったから信任投票が当たり前になっているけれど。

 まあ、今年もきっと例年どおりの信任投票で、会長は和己から弘夢にスライドされるのだろうけど、その日が近づくごとに憂鬱な気分が増してくる。

 ……原因なんてたったひとつだ。

 埋まることのない年の差を嫌でも突きつけられているから。同じ日々が続くと思い込んでいた俺に、現実は容赦ない。

 不意に後ろから腕がまわされる。

 俺がよく知っている力強い腕ではなくて、細くてふわりとしたその腕の持ち主は、体質もあるのか夏になっても日焼けした様子もない。

「……びっくりした」

 振り払うのなんて簡単なのだろうけど、とてもそんな気にはなれなくて、上を向いて妙な角度で見上げると、悠さんがなぜかよしよしと頭を撫でてくれた。

「あんまり無防備にしてると、襲っちゃうよ?」

 言葉とほぼ同時に額に唇が寄せられて、ちゅっと音を立てられる。ちなみに、唇はまったく触れてなくて音だけの、いわゆる外国の人たちがする挨拶のやつだ。

 悠さんの腕の中が気持ちよくてそのままになっていたら、横からひったくるようにもう一つの腕が伸びてきて、捕まる。

「これ、俺のだから」

 居心地のいい腕の中、当たり前のように所有権の主張をされて、嬉しいような、恥ずかしいような気分になって、そうしてここが生徒会室の中だってことを思い出した。

 もちろん和己は俺が我に返ったことに気づいて、ほんの少しだけ腕の力を強くするという暴挙に出てくれたから、逃げられなくなってしまったのだけれど。

 基本的に和己は俺が嫌がるとそれを楽しむ性格なんだって理解してからは、とりあえず抵抗せずに好きにさせておけばすんなりと早い段階で解放してもらえるようになった。今もしょうがないなっていう感じでほんの少しだけ和己に凭れるように身体の力を抜くだけで満足したのか、腕が離れていく。

「高槻、戸締り任せていいか?」

 唐突に和己が声をかけたのに、まるでそう言われるのが分かっていたかのように高槻さんは頷く。それを見ると和己は俺に帰る準備をするように促して、あとはよろしくと一言告げて俺のカバンも一緒に持つと、俺を引っ張って部屋を出た。

「どこで寄り道しようか?」

 楽しそうな和己の言葉に思わず笑う。

 寄り道できる場所なんて駅前のファストフード店か公園くらいしかない。しかも隣で腹減ったなとか言ってるのを聞いていれば、選択肢なんかないようなものだと思うんだよね。

 俺が提案した場所は、和己の欲求も満たせるファストフード店一択だった。




「ーーそれで?」

 それぞれ注文したトレイを持って三階の隅っこのテーブルに向かい合って座ると、和己が問いかけてくる。

 うっかり正面の和己の顔に見惚れていたら、少しだけ呆れた表情を向けられた。

「夏休みが終わったら、登下校とかできなくなりそうで嫌だなって思ってた」

 一気に言ってしまうと、和己が肩を震わせる。笑うのを堪えているのは何となくわかるんだけど、残念な子を見るその視線がイタイ。

「俺は、恒のおバカな所も全部好きなんだって思い知らされる」

「褒められてない」

 声が笑いで震えてるからバカにされてるようにしか聞こえない。

「俺が朝早くに登校しようが、放課後図書室で読書しようが誰も文句は言わないよ」

 優しい声が伝えてくる言葉に、気持ちが楽になる。

 脱力した俺に少しだけ伸ばされた和己の指先が、前髪に触れて離れる。たったそれだけのことで気分が浮上する。本当に俺って、チョロい。

 テーブルの上に置いた手の甲から指先を和己の指先が撫でる。そういうニュアンスも多分に含んだその動きにぞくりと身体が反応した。

「……帰ろうか」

 何度か指先が往復したあと、何事もなかったかのように和己が言う。離れた指先が名残惜しくて、こんな場所だからそれ以上何か起こるはずもないのに、ほんの少しだけ残念な気持ちになってしまったけれど。

「ーー……好きだよ」

 トレイを持って立ち上がる直前に、和己にさえ届くかわからないくらいの声で言ってみた。

 鞄を持とうとした手を止めてから、和己がまばたきをして、蕩けるような笑みを向けてくる。

「こんな所で俺の忍耐力を試すのやめてくれ」

 困ったような言葉なのに、そんな言葉さえ愛おしくて、俺は笑って和己の後ろから店を出た。

ずいぶん間を開けてしまって申し訳ありません。

まだしばらく不定期更新になります。

次話はもう少し早く更新できるよう頑張ります。

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