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「ごめん」
調子に乗りすぎたと和己が謝ってくる。
俺は少しだけふてくされて目の前のショートケーキ(
もちろん和己に奢らせた)にフォークを入れる。……拗ねた気持ちで食べても、甘くておいしい。
映画の上映時間のほとんどを和己の手先に意識を持っていかれたっていう、少しだけ怒っている気持ちと、普段外では手を繋いだりできないから、暗い空間の中でそれができたっていう、怒りを上回る嬉しさがごちゃまぜになっていて、感情のやり場に困っているのを多分和己はわかっていて、でも俺に謝ってくれている。
「もう怒ってないから」
ちいさくため息をついてそう伝えると、ほっとしたような笑顔が向けられて、わずかに鼓動が跳ね上がる。向かいの席に座る和己が頬杖をついて窓の外に視線を向けると、周りの女の子たちのざわめく声が届いてきた。実はさっき店に入った時から和己一人で周囲の視線を攫っていったのに、気づいているのかいないのか、いつもどおり飄々としている。
「和己」
声をかけると何?と笑顔を向けられる。
「……和己の部屋に行きたい」
周りの視線を気にしなければいいのだろうけど、隣に座ってないこととか、些細なことがほんの少しだけ引っかかる。
俺の声には出していないいろんな想いを読み取ってくれた和己が頷いて立ち上がる。
「行こう」
駅に向かって歩き出した和己を追いかけて俺も席を立つ。電車に乗って移動する時間がなぜかいつもより長く感じた。
◇◇◇
和己の部屋に迎え入れてもらって、コートを脱ぐ前に背後から腕を回す。
驚いたような和己が俺の手の甲に触れてすこしだけ緩めてから身体ごと向きあうように振り返る。俺の腰に腕を回して抱きしめてくれたから、なんだか安心した。ちゅっと音を立ててキスをするとショッピングモールからなんとなくトゲトゲしていた気持ちが凪いだ。
くすりと笑った和己が、俺のマフラーをとって、コートのボタンを外して脱がせてくれる。
「ありがと」
「うん」
俺も和己のコートを脱がせようと手を伸ばすけれど、柔らかく手首を取られて引き寄せられる。もう一度抱きしめられて、額に唇が触れる。
「……玄関先でやることじゃないな」
どちらからともなく笑って、部屋に上がった。
和己の足の間に座って背中を預ける。
いつのまにか和己の部屋にいる時の定位置になったそこは、落ち着けて安心できる場所になっている。
「和己と出かけるのも好きだけど、こんな風にのんびりする方がいいや」
家の中だから甘えることもできるのも、いいなと思う。
用意したプレゼントを渡すタイミングがわからなくてどうしたらいいのか悩んでいたんだけど、和己に触れているだけで満足してしまうからいつまでもタイミングなんてこないことに気がついて。
「和己にプレゼントを渡したいんだけど、ちょっとだけ準備してくるから待ってて」
実は今日って和己の誕生日でもあるんだ。
さすがに二つもプレゼントの準備はできなかったから、何かできないかなって考えて、多分喜んでもらえるんじゃないかなって思うことを実行することにした。
「……お待たせ」
俺の声にスマホをいじる手を止めて顔を上げた和己が目を見開く。
「どうしたんだ?」
驚いた様子につい笑ってしまった。
「今日は和己の誕生日だし、本当はプレゼントを二つ準備したかったけど、さすがにできなかったから。……これなら気に入ってくれてたみたいだし、こんな機会がなかったら着ないなと思って」
嫌なら着替えてくるけどと伝えた俺は、文化祭の時に準備されたメイド服を着ている。
「脱がなくていいから!」
和己が慌てたように着替えないでと伝えてくるから、わかったと頷いた。
床に座っている和己の視線に合わせるように跪いて、綺麗にラッピングされた箱を差し出す。
「誕生日おめでとうございます。……今年和己に出会えて良かった」
「ありがとう。……こっちは俺からクリスマスプレゼント」
プレゼントの箱を交換して、開けていいかと尋ねるともちろんと返事がくる。
包装を丁寧に剥がして箱を開けると、ボールペンが入っていた。
「これ、和己が使ってるのと同じメーカーの?」
「そう。色違いだけど、恒と同じものを何か持ちたくて、これなら日常でも使えるしいいかなと思って」
気に入ってくれたらいいけどとちいさく笑う和己にありがとうと告げて頰にキスをする。
和己も包装を丁寧に剥がして箱を開けている。
誰かにあげるプレゼントでこんなに緊張するなんて知らなかった。和己が喜んでくれるかなって考えながら選ぶのはとても楽しかったけどね。
「手袋か。……そろそろ準備しないといけないなって思ってたんだ」
寒くなっても手袋をしない和己の指先はいつも冷たくて、だけど俺は温めてあげることができないから。
「恒から貰ったの使ったら、いつも恒に温めて貰ってる気分になれるかもな。……ありがとう、嬉しいよ」
そう言って笑いかけた和己が俺を抱きしめてくる。
はじめての和己の誕生日とクリスマスを一緒に過ごすと思うだけで、胸のドキドキが止まらなくなった。




