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夢のかけら  作者: 高原 涼子
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 花火大会って心が浮き立つよね。

 人の多さにはうんざりすることもあるけど、それでも近くで見ることができたら楽しい。しかも今年は初めての体験も待ってるし。

「楽しそうだな」

「それはそうだよ。クルーザーから花火観るのなんて初めてだし、しかも和己も一緒だし、楽しくないわけがない」

 楽しみすぎて自分でも声が弾んでいるのがわかる。

「子守もあるけど、まあ基本的におとなしい、ハズだから」

「悠さんと高槻さんのところの下の子たちとその友達だっけ?」

 確認すると頷いた和己が優しい表情になる。

「悠ちゃんのところの双子は似てないけど、高槻のところはあいつが小学生だった頃にそっくりなんだ」

 会うたびにちょっと懐かしい気分になるんだよなって笑う和己が俺の顔を覗きこむ。

「……言っても仕方ないことだってわかってるけど、その頃のみんなに会ってみたかったなって思っただけ」

 きっと妙な顔をしていただろう俺に、どうした?って聞いてくるから、ちょっとだけ拗ねて言ってみると、なぜか頭を撫でられた。

「俺は初めて会ったのが今の恒で良かったと思ってるよ」

 真面目に告げられて首をかしげると

「子どもの頃に出会ってたら、俺は幼なじみの兄ちゃんの一人で終わってただろうから」

 人混みの中、指先だけそっと触れあわせて歩く。

「最初はそうかもしれないけど、きっと俺は和己のことが好きになってると思うんだけどな。……和己は違うの?」

「そういう返事が返ってくるとは思わなかったな。俺もきっと恒のこと、好きになってたから、その時は片想いしてたんだろうなって思ってた」

 苦笑した和己の言葉が嬉しいのが、ちょっとだけ悔しい。今出会って良かったと言ってくれるのも、子どもの時から知っていてもきっと好きになっていたって言ってもらえたのも。

「……待ち合わせってこの先だっけ?」

「そう。のんびり歩きすぎて時間なくなってるな、ちょっとだけ急ごう」

 赤くなってしまった顔を見られないように俯いて、話をごまかそうとしたら、それに合わせて頷いた和己が、俺の背中に手を置いて押し出すように歩みを早めた。




 マリーナのロビーに入るとちいさな人影が和己に向かって突進してきた。

「和己お兄ちゃま!」

「……おっと」

 黒の長い髪を可愛らしくアップにして鮮やかな朝顔の柄の浴衣を着た女の子を優しく受け止めた和己がふわりと抱きあげた。お兄ちゃまって言いながら飛びついてくるくらいだし、女の子だから、きっと悠さんの妹なんだろうなと推測する。よく見ると目元なんかは悠さんそっくりだ。それにしても美人はこんなにちいさな時からしっかり美少女なんだな、なんて考える。

「ゆりちゃん、こんにちは」

「こんにちは」

 俺も和己に続けて声をかけると、驚いたように俺を見て、はにかんだように笑う。

「ゆり、お兄ちゃまたちをおむかえにきたの」

 慌てたように和己の腕から降りてその手を引っ張る彼女に苦笑いしながら、俺に目配せをして歩きだす。

 悠さんたちが座っているソファに近づくと

「いらっしゃい」

 悠さんが立ち上がって俺たちを迎えてくれた後に、ゆりちゃんを手招きする。

「ゆきもこっちにおいで」

 もう一人黒髪の男の子用の浴衣を着た、ゆりちゃんそっくりの男の子を呼び寄せた。

「僕の下の姉弟で、姉の柚李ゆうりと弟の祐稀ゆうき。みんな、ゆりとゆきって呼んでるよ。ちなみに今年一年生。

 こっちのお兄ちゃんは川崎恒くん。二人ともご挨拶できるよね?」

「恒お兄ちゃま、こんにちは」

「……こんにちは」

 ゆりちゃんがにっこり笑って言うそのちょっとだけ後ろに隠れて、祐稀くんも挨拶をしてくれる。お兄ちゃまってなんだかくすぐったい。

「柚李ちゃんと、祐稀くん、こんにちは」

 二人に目線を合わせるためにしゃがんだ状態で、キチンと名前を覚えたよって伝えるために愛称ではなく名前で呼ぶと、二人が同じタイミングで笑顔を見せてくれる。なんだこのかわいい子たち!

 ほのぼのした気分で和んでいると、悠さんが他の子たちも連れてきた。

 高槻さんの弟のいつきくんは和己が言っていた通り、ミニチュアの高槻さんだった。その他に二人来ていて、悠さんの家のお隣の家の宮本槻也みやもとつきやくんと、柚李ちゃんと仲良しの高橋沙矢たかはしさやちゃんを紹介される。

 槻也くんは口数の少ない子っていう印象なんだけど、多分柚李ちゃんと祐稀くんが二人で話しだすと聞き役に回るからそう感じるのかなとも思う。沙矢ちゃんはショートカットの髪と瞳が印象的な子だなと感じた。ちょっとつり目なのにきつい感じじゃなくて笑顔がとてもかわいいんだよね。

 保護者も含めて全員が集まったところでクルーザーに移動して出航する。

 船上にケータリングが準備されていて、花火が打ち上がる前に早めの晩ご飯ということになる。

 心配していた船酔いなんかにもならず、それぞれがのんびりと過ごしていると、船からは離れた場所に大きな花火が打ち上げられはじめた。俺たちには見やすいけど、しゃがんでみると小学生の目線だと船の手すりの間からになるのがわかる。せっかくの良い景色がもったいないなと思った時

「さっちゃん、おいで」

 弘幸さんが声をかけて、沙矢ちゃんを抱き上げた。弘幸さんにしがみついた沙矢ちゃんは見やすくなった視界に歓声をあげる。

 弘幸さんの沙矢ちゃんを見る表情に思い当たるものがあるけれど、それには気づかない振りをしておくのが正解なのかなと思う。

 沙矢ちゃんのことを羨ましそうに見たゆりちゃんは、自分の兄のところには行かなかった。

「たぁお兄ちゃま、ゆりも抱っこ」

 高槻さんに向かって腕を伸ばして抱き上げてもらう。

「こういう時、どうしてだかみんな僕のところには来ないんだよねぇ」

 ぼやく悠さんをさらっと無視して

「悠ちゃん、そこのベンチ動かすよ?」

 和己が声をかけてベンチを手すりの側に動かすと、男の子たちを手招きした。

「ちゃんと支えておいてあげるから、椅子の上に登っていいよ」

 さすがに俺の腕も二本しかないから抱っこは女の子の特権だなと笑いながら、男の子たちを支えてやっている。俺もその横に立って打ち上がる花火を見上げていた。




 いろんな事があった夏休みももうすぐ終わる。

 密度が濃すぎてすごく短かったような気もするけど、はじめて和己と過ごした忘れられない夏休みだったことだけは間違いない。

長くなりましたが夏休みが終わりました。

ちびっこたちも登場です。今後もボチボチ出していけるといいなあと思ってます。


ムーンに30話と31話の間のお話を投稿しています。

作者、タイトル同じなので、興味のある方は、ご覧になっていただけたら嬉しいです。

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