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金曜日の朝、いつも通り駅で待ち合わせをする。通学用のカバンの他に、小さなバッグに荷物はまとめて来たんだけど、そのまま学校に持っていくと、和己いわくの面倒な連中にからかわれるだろうから、荷物はコインロッカーに預けることにした。帰りは割とバラバラになるし、もちろん少しずらすこともできる。
夏休みの課題も弘夢と俊と三人で昨日までに終わらせたし、そういう意味で開放感があるんだけど、和己の家に行くっていう緊張が朝から俺を妙なテンションにする。
「今日の予定で週明けにできることは全部そっちに回して早く帰ろう」
和己がカバンを持ったまま腕を上げて伸びをする。体育祭と文化祭の他に遠足や予定外の音楽鑑賞会なんか企画して自分で更に忙しくしているので、やることはたくさんあるんだけど、今日くらいはまあいいかと頷いた。
そんな風に浮かれた気分でいれば、勘の鋭い人には当然のごとく何かを察知されるわけで。
「白状しないと早く帰れないようにしちゃおうかな」
とてもステキな笑顔です。
「恒とデートするんだよ」
和己が笑顔で返すと、
「……そういう事にしておいてあげますか」
半分くらい納得してなさそうな表情をしながらも、解放してもらえた。
和己の家は経営している総合病院の隣にある。かなり大きな家なんだけど、和己の部屋は敷地内に建てている離れというのだから、開いた口が塞がらないのも仕方ないと思う。
「中等部に上がった時に交渉したんだ。夜中でも当たり前に電話が鳴り響いて父も母もバタバタ動き回る環境だから、将来的に医学の道に進むことを条件に、熟睡する権利を貰った」
そう言いながら扉を開けた和己が部屋に招き入れてくれた。
性格を表してるのかスッキリと片付いた部屋の中はとてもシンプルで、机とベッドと本棚の他には冷蔵庫くらいしかない。小さなキッチンもあるので聞いてみると、簡単な夜食なんかは自分で作るという答えが返ってくる。基本的に器用な人なんだって改めて知って、そんな事を知る事ができるのが楽しくて、心が浮き立つ。
物珍しくてキョロキョロしていると、鍵のかかるちいさな音が響く。笑った和己が背後から抱きしめてきた。身体ごと抱き寄せられて背中が和己に触れる。
「やっと恒に触れられた」
耳元で囁かれて、くすぐったいのと言葉にこもる熱を感じて、肌が粟立つ。首筋に唇を寄せられて、力の抜けた手から荷物が床に落ちた。
思った以上に大きな音がして、驚いて身体を強張らせた俺を宥めるようにそのままキスをされる。クルリと向き合うように体勢を入れ替えると、強い力で腕を背中に回された。俺もそっと和己の肩に手を置いて背伸びをする。ちいさな音を立ててついばむようなキスをして、和己と一歩分距離を取る。
「俺も、和己とキスしたかった」
正直に伝えると、嬉しそうに頷いてくれるのが、俺も嬉しい。
落ちた荷物を拾って制服から部屋着に着替えると、和己がベッドに凭れるようにして床に座る。「おいで」と声をかけられ、手を引かれて旅行の夜のように和己の足の間に座るとお腹に腕が回ってくる。何度も経験したわけではないのに、この位置がちょうどいいと思うくらい、当たり前に感じる。
「悠さんの別荘から帰って、当たり前に自分のベッドで寝ようとした時、なんだか淋しかったんだ。そんな事してたのなんてたった二日だったのに、和己がそばにいないことがすごく淋しいと思った」
和己の肩に頭を預けて、正直に告げる。
「俺も隣に恒がいない事が不思議だったよ」
背中のぬくもりと体に直接響いてくる和己の声が心地よくて目を閉じる。空調の効いた部屋の中、全身が和己の規則正しい鼓動に包まれる。
声を出したり身動きしたりするだけで、この心地よさは半減してしまうような気がして、お腹に回されている和己の手の甲に俺のてのひらを重ねてみた。
「……恒」
和己の声が耳朶を打つ。和己の手が俺のてのひらから抜け出して、いたずらな指先が身体の線をなぞっていく。くすぐったさに少しだけ身をよじるとこめかみにキスされる。
「このままいると抑えがきかなくなりそうだ」
困ったような和己の言葉に、緊張する。身体が密着しているから、それがダイレクトに伝わって、和己が笑う。
「……嫌じゃないよ?」
そういうことに対して嫌がっているわけじゃないって伝えたくて、ただ緊張しただけだって伝えたいのに、言葉って難しい。
男同士の恋愛なんて、和己のことを好きになるまで考えたこともなかったけど、付き合うことになってからイロイロ調べたんだ。怖いけど、和己とだったら嫌じゃないと思ったのは嘘じゃない。
「うん。でも今はこれでいいよ」
首筋に和己の唇が触れる。舌で舐められて、ちいさな声が出た。恥ずかしくて身体が熱い。
和己の腕から抜け出した俺は、膝立ちになって和己を見下ろすように向かい合う。肩に手を置いて顔を近づけるとまぶたを下ろした和己の整った顔立ちに見惚れてしまった。
「……恒?」
いつまで経っても触れない唇に痺れを切らしてしまったのか、和己が目を開けようとするから、そのまぶたにキスをする。唇に落とした触れるだけのキスの主導権はいつの間にか和己に奪われて、呼吸さえ奪われるようなものになる。俺は身体を支えるのに精一杯だったけれど、和己は俺の腰のあたりを撫でたりと余裕があるみたいなのがちょっとだけ悔しい。
キスの合間に好きと告げると、満足そうな笑みを浮かべた和己が俺を見上げながら空いた手で頰を撫でてくれるのが気持ち良くて、時間を忘れるくらい溺れてしまった。




