エンクエントロ
4月の週末のある朝、雄哉はウリエルと朝ご飯を食べていた。
小さいテーブルを置き、向かい合って食べているのだが、
ちらちらと雄哉がウリエルの方を気にする。
「何よ、さっきから」
「いや、だってさ、また襲ってこないとも限らないしさ」
「そんなに警戒しなくても、大丈夫よ。
もう暗殺指令はなくなったから」
「でも、いきなり殺せという相手を守れなんて。
未来の人たちもいい加減だよね」
「そのあたりは、今も、未来も変わりないわ。
所詮、人間ですもの」
「人間は歴史を繰り返すか」
「そうね、過ちを繰り返すから人間、人間だから過ちを繰り返す。
未来も変わっていないわ」
「そうだね。
ウリエル見ていると、未来人が現代人に溶け込んでも、違和感ないしね」
「そんなに大きく変わらないわよ。
でも平均身長は少し伸びたかしら」
「どれくらい?」
「男性 185cm、女性 172cmよ」
「そんなに、僕、女性の平均身長より低いよ」
「大丈夫よ。
未来には、男性用のヒールがあるから。
背の低い人は、それを使っているわ」
「何だか、希望の未来というよりは、余り期待できない未来だね」
「そうでもないわよ。
時空間法に触れるからあまり言えないけど、確実に進歩はしているわ」
「時空間法?」
「簡単に言うと、過去の人に未来のことを話すのを控えましょうというもの」
「でも、転送装置の話はしてしまったよね」
「時空間法は、あくまでも自主目標よ。
バレれば、それなりの罰則はあるけれども、適用されて人はいないわ」
「時空を飛ぶって大変だな」
2人は朝食を終え、雄哉が食器を片付ける。
共同生活にあたり、雄哉が食事・洗濯を担当、掃除をウリエルが担当ということになったのだ。
雄哉は、食器を洗いながら聞いてみた。
「この世界って住みにくい?」
「私は、未来の世界で、その技術の恩恵をまだほとんど受けていないわ。
むしろ、私にとっては、こちらの世界の方が住み心地はいいわ」
「恩恵を受けていないって。
私たち四天王は皆、孤児なの。
孤児から10人が選ばれ、そのうちのトップ4にコードネームが与えられ、
この世界に暗殺者として送り込まれたのよ」
「ごめん、余り思い出したくないことだよね」
「いいのよ、いずれは話さなくてはいけないことだから」
「しんみりしちゃったね。
何か楽しい話をしようよ」
「私にその話をしろと」
「いや、そういうわけじゃ。
僕がやっていみるよ。
布団が吹っ飛んだー」
雄哉はまだ敷いてあった布団を大げさに放り投げてみる。
部屋には異様な空気が流れる。
「私も勉強しておくわ」
ウリエルは笑いもせず、真顔でそう言った。
雄哉は、JR宮田駅に来ていた。
宮田駅は鉄道の要所で、多くの路線が入る。
JR・私鉄の在来線、各種新幹線が乗り入れている為、
普段から賑わい、通勤客や買い物客で混雑する。
休日なので、雄哉は今日発売の鉄道模型購入の為、鉄道ショップに来ていた。
「うーん」
雄哉は、その値段を見てうなっていた。
4両編成で16,800円。
雄哉はファミレスでアルバイトはしているものの、
そのほとんどは家賃・生活費に充てている。
親からの仕送りはあるが、できる限り手をつけていない。
このためにバイトを少し増やしたが、それでもバイト料だけではまかないきれない。
それでも、雄哉は決断できないでいたのは、埼京線にあまり愛着がなかったからだ。
それでも、ほしいと思うのは、鉄道模型マニアだからなのかもしれない。
「どうしようか」
腕組みしながら考えてみたり、何度も行ったり来たりしていた。
「よし」
意を決して、購入しようとその鉄道模型を手を伸ばす。
すると反対側から手が同じ鉄道模型に伸びる。
「あっ」
その伸びてきた手に当たってしまった。
「すみません」
お互いに謝った。
「これ、買うの?」
その男性が雄哉に話しかけてきた。
年は、雄哉と同じくらい。
身長は180cmくらい、スラっとした体型に、小さい顔。
体育会系美形とでもいうのだろうか。
到底、鉄道マニアとは思えない顔立ちであった。
「俺、このJR東日本には珍しい、流線型に惚れたんだよね」
「そう、この流線型、珍しいですよね」
「話あうね
俺は、恩田健太郎、君は?」
「僕は、天貝雄哉です」
「天貝か、、、珍しい苗字だね?」
「全国にも700人くらいしかいなく、親戚以外であったことがないですよ」
「好きな車両は何?」
雄哉は、久しぶりに、通勤系列車の話題を楽しんでいた。
部活で、通勤系が分かるの部員はいなかった。
そのため、この話題で盛り上がるのは、久しぶりであった。
「僕、将来、鉄道の仕事がしたくて、春北高校に通っているんだよ」
「俺も、あそこなんだけど」
「えっ、うそ、何年生なんですか?」
「1年」
「本当、部活はどうしましたか?」
「サッカー部か、鉄道研究部のどちらにしようか迷っているんだ」
「僕は、鉄道研究部ですよ。
是非、部活にきてくださいね」
「嬉しいな、明日、行っても大丈夫かな?」
「大歓迎ですよ。
じゃ、明日部室で待っているから」




